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第1話:部活動紹介

 水曜日。つまり入学式から二日後の昼休み。

 私、桜木遥は一年五組の教室で、昨日の放課後から仲良くなった原田尚美と、彼女と同じ中学校出身だという森川マキの三人で机を囲み、弁当箱を広げていた。周囲でも同じように机を囲んでいる集団がちらほらと。もしかしたら違うクラスの人間も混じっているのかも知れない。

「それにしても、やっぱり高校って勉強勉強だね。春休みの課題、大変だったよ」

 森川マキ。彼女は中学校では、テニス部だったらしい。私や尚美よりも長身で手足が長く、いかにもスポーツが得意そうな印象だ。

「春休みなんだから、宿題出すなよって感じだよね。前日は大変だった〜」

 尚美が私の方を向いて同意を求めた。

「そう? あんなの毎日やっていれば、すぐに終わるわよ」

 実際、わたしは高校側から課題として出された五冊のワークは、一週間で終わらせている。

「え〜遥って実は優等生?」

「私なんか英語とか、所々やってない箇所あるのに」

「マキ、それはダメだって」

 こんな他愛のない話で、席は盛り上がった。


「そう言えばさ」

 昼食も食べ終わり、弁当箱を片付け始めた時。不意に尚美が口を開いた。

「──五・六時限は部活動紹介だよね。どこへ行けばいいんだっけ?」

 私は片付ける作業を一体中断し、教室の窓から見えるトタン屋根の建物を指差した。

「体育館。掃除が終わったら、あそこに集合よ」

「あ、そうだったそうだった。じゃあ掃除が終わったら一旦教室に集まって、それから行こうよ」

「分かった」

 丁度その時、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。次いでスピーカーからは放送と、流行の音楽が流れ出す。清掃の時間だ。

 音楽室担当の尚美とマキとは違い、私の分担は教室だから、そのまま残って机を下げ始める。すると、目の前にスッと箒が差し出された。

「ねえ、桜木……遥ちゃん。机は男子に任せて、一緒に箒をしない?」

 視線で辿ると、そこには三人の女子の姿が。名前はええっと──まだ覚えていない。しかし私は、その箒を受け取った。

「ありがとう」

「じゃあ遥ちゃんとマスミはあっちから掃いてね」

「おっけー」

 よし、マスミという名前か、と私は目の前の少女を見る。私よりも背が低く、おっとりとした感じだ。

「掃除が終わったら、体育館だよね」

「そうよ。──ええっと、マスミって呼んでいい?」

「いいよ」

「マスミは入りたい部活とかある?」

 見た所、運動部系ではないだろう。これで実は柔道部です、だとか水泳部です、などは無いはずだ。多分。

「うーん、中学校の時もやっていたし、合唱部かなあ。遥ちゃんは?」

「私は吹奏楽部」

 なる程、合唱部か。似合っている。吹奏楽部と合唱部は同じ音楽系部活動同士、何かと協力し合う事がある。これからお世話になる事も多いだろう。

「よろしくね」

「うん、こちらこそ」


「遥ぁ、体育館行こー」

「いいわよ」

 十分間の清掃を終え、尚美とマキが帰って来た。教室掃除も終わり、各々移動を開始し始めている。

「体育館ってどこだっけ? まだよく覚えていないんだよね」

「付いて行けばいいんじゃない?」

 廊下は既に、一年生で一杯だった。この流れに沿って行けば、体育館に辿り着けるに違いない。

 三組、二組、一組、いくつかの特別教室を前を通り過ぎ、渡り廊下を渡ってようやく体育館に辿り着いた。そして一組から出席順で一列に並ぶ。全部で八クラスあるから、五組はだいたい真ん中あたりだ。

 会が始まるまでまだもう少し時間に余裕があるので、体育館の中はザワザワしていた。

 やがて時間が来た。生徒会長だという男子生徒の挨拶が終わって、いよいよトップバッターのサッカー部の紹介が始まった。

 鳴海高校は、部活動が盛んな学校だ。運動部が十八、文化部が十五ある。今日は各部持ち時間は三分で自分たちの部活動を紹介するのだ。

 各部の代表数人、もしくは全員が体育館外で待機し、自分たちの番になるとステージ脇の出入り口から入って階段を上り、ステージに上がる。そこで紹介を終えると今度は反対側の階段を下り、ステージ脇の出入り口から出て行く。会はそんな流れだった。

 各部の紹介は、バラエティに富んでいた。まずは運動部からだったけど、全ての部活が正式なユニフォームを身に付けていた。水泳部などは(もちろん男子部員が)水着とキャップとゴーグル着用でステージに上がり、女子たちの“きゃー!”という声援を浴びていた。(私は叫んでいない。断じて)

 内容も、手堅く練習内容や大会の予定を紹介する部もあれば、部活とは一切関係ないギャグで笑いを取ったりする所もある。

 圧巻だったのは柔道部と剣道部と弓道部だ。

 柔道着・剣道着・弓道着を着て、防具を着けた姿はそれだけで絵になる。

 柔道部は畳を持ち込んで技を実演し、剣道部は実際に試合をしていた。弓道部は俵を設置して、みんなの目の前で矢を放った。矢は思ったより速いスピードで飛び、大きな音を立てて俵に突き刺さる。弓道部がある中学校はそんなにあるわけではない。私を含め多くの人が、初めて見た弓道に度肝を抜かれてしまった。

 運動部の紹介が終わると、五分間の休憩を挟んで、いよいよ文化部の紹介へと移った。吹奏楽部の順番は二番目。合唱部の次という事になる。

 見事なカルテットを披露した合唱部の男子四人に惜しみない拍手を送りつつ、司会が吹奏楽部の名前を告げると、私はなぜか緊張してきた。

 ステージに立ったのは三人。トランペットを持った兄と同じくトランペットを持った女子、進行役らしき男子だ。

「ねえ、あの先輩カッコよくない?」

「わっ本当だ」

 周囲がいきなり騒がしくなった。女子だけではない。男子も。

「あの先輩、マジ可愛いんだけど」

「オレ、ああいうのタイプだ〜」

 なる程、吹奏楽部はそういう路線で来たか。

 うちの兄は、あんなのどこが良いのかは分からないけど確かにモテる。女子受けする顔なのだ。宣伝には適役かも知れない。もう一人のトランペットを持った女子も、綺麗な先輩だ。これはつまり、吹奏楽部は男子も女子も狙っているという事。

「こんにちは。僕たちは吹奏楽部です」

 まだ少しざわついていたけど、進行役の先輩が話し始めた。

「今僕たちは、六月にある定期演奏会、そして八月のコンクールに向けて、毎日練習しています。皆さんも一緒に吹いてみませんか? 経験者・初心者どちらも待っています。ぜひ入部して下さい」

 ここで、兄と女子の先輩が、一歩前に出た。

「ではこれから、部長の桜木と、二年の広瀬が演奏します。お聞き下さい」

 二人は目で合図を送ると、トランペットを吹き始めた。

 ざわめきは一気に収束し、体育館の空気をトランペットの旋律が支配する。誰もが一度は聞いた事がある有名なメロディ──天空の城ラピュタの“君をのせて”──あのフレーズだ。

 曲を吹き終えると、二人は深々と礼をした。盛大な拍手が鳴り響く。

「それでは皆さん、入部をお待ちしています」

 最後に兄は進行役の先輩からマイクを受け取って締め括った。三人が階段を下りながらも拍手は続く。もしかしたら中には、今の紹介で入部を決めた人もいるかも知れない。少し複雑な気分だった。


「う〜ん、やっぱり桜木先輩、格好いいわ〜」

 教室への帰り道。尚美がしみじみと口を開く。

「そう? 普通だと思うけど」

「何言ってんの! そんなワケ無いってば。──そう言えばマキ、知ってる? 吹奏楽部の時にペットを吹いた先輩、実は遥のお兄さんなんだよ」

「え〜、マジ!? そう言われたら確かにちょっと似てるね」

「……あまり嬉しくない」

 何はともあれ部活動紹介も終わって、いよいよ放課後からは仮入部だ。私は顔には出さなかったけど、わくわくしながら教室に入った。

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