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胴桐撫子の恋愛関係  作者: 安藤ナツ
五月十六日 月曜日
6/20

小手川姫:胴桐撫子

 小手川姫は、自尊心と傲慢さを練り合わせて美貌と言う型にはめ込んで造り上げられたような人間だ。ついでに言えば、彼女を着色するのは目も眩むような金色だろう。

 生まれ持った美しさと、自分の物ではないが背後にある巨万の富。何一つとして苦労することなく、思い通りの人生を歩んできた彼女にとって、自分以上に目立つ人間は必要なく、自分こそが世界の中心だった。

 そんな彼女から見て、転校生と言うことで注目を集め、有名な建築家である父親の建てた、この田舎には不釣合いな洋館に住み、地味ながらも日本人らしい容姿を持った美しい撫子は、もちろん邪魔者以外の何者でもないだろう。

 もっとも、プライドが高くとも常識は持っているし、傲慢であっても限度は知っている。流石にそれだけのことで、自ら手を下そうとは思わない。撫子の暗い性格も手伝って、一ヵ月も彼女の話題が持たなかったこともその要因だった。

 問題だったのは、自分の想い人を撫子が振ったことであった。姫でさえ想いを伝えることができなかった憧れの先輩に対しての暴挙は、自分のことを侮辱されるよりも屈辱だった。例えそれが根も葉もない噂だとしても。

 それだけのことが、姫を復讐に向かわせるには十分だ。女子グループの中心にいると言う地位を利用して、自分の自尊心を傷付けられた代償を、我が儘なお姫様のように傲慢に、撫子を傷付けようと決めた。

 誰かを憎むという、似つかわしくない行為に最初は戸惑いもしたが、学年中の女子に顔が利く姫にしてみれば、友人連中に手を回して撫子だけを無視するくらいは朝飯前だった。勿論、無視に参加しなかった人間も多かったが、次のターゲットになることを恐れて口出しをすることはなく、撫子はあっさりと孤立した。

 それだけでも十二分に愉快だったが、独りになった撫子をなじるのはそれ以上に楽しかった。凛とした見た目とは裏腹に、打たれ弱い撫子の見せる小動物染みた瞳がなんとも姫の心を刺激した。

 土曜日の夕方頃、撫子から送られて来たメールに添付された画像はそれを象徴するものだった。それを視るだけで、姫の唇は嗜虐的につり上がってしまう。

 写っているのは、一年生にしてこの学校でも一、二を争う危険人物『粉砕鬼』の鬼頭雄志と、この学校で一番恨んでいる胴桐撫子。

 デートモドキの際、寄り添い合った写真を取れと命令した結果、手に入った画像に写る撫子の怯えきった表情を見るだけで、姫は何とも言えない幸福感を感じることができた。

 あの深窓の令嬢の崩れた表情が、今の彼女に取って何よりもの幸せだった。

 自分では決して敵わないと思っていた人間が、自分に弱った瞳で赦しを乞う姿は垂涎物だ。もはや、復讐心は何処にもない。自分がどうしてこんなことをしているかは理解できなかったが、そんなことを考えるよりも、いかに彼女を苦しめるかの方が大切だった。

 自分よりも上の存在を自分の想う通りに操る。それは、劣等感を優越感へと変換する、最上の贅沢だ。撫子も雄志も、本来であれば適わない存在だったかもしれない。しかし、その二人は今や自分の手の中だ。


「本当に、あの手紙をくれた人には感謝するわ」


 怯えきって酷い顔をした撫子の顔を眺めて姫の顔が愉悦に歪んでいく。脳裏に浮かぶのは、ルーズリーフにシャーペンで書きなぐられた一枚の手紙。撫子に対する嫌がらせもマンネリ気味になっていたのだが、あの手紙に書かれた作戦は誰が考えた物か知らないが、まさかここまで効果を発揮するとは思いもしなかった。もしあれを書いた人間が名乗りを上げれば、姫はできる限りでその物の願いを叶えて上げても良いと考える。


「さて、次はどうしようかしら?」


 取りあえずは、撫子と雄志が付き合っていると言う認識を学校中に広めることが必要だろう。既成事実……とは言ってももう既に二人は付き合っているのだが、簡単には別れることなどできない空気を作ることが、この遊びを長く続けるには必要だろう。


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