鬼頭雄志:胴桐撫子 ②
樹の言葉は、なるほど適切だった。間違いなく、それは雄志の心情を的確に捉え、これ以上ないほど適当なアドバイスだった。
何を話せば良いのかわからぬまま、全力疾走をし、撫子の家を訪れ、両親を半ば脅迫して撫子の部屋の前に立ち、その扉を無理矢理開けた先にあった撫子の涙に、雄志は自分の愚かさと、見通しの甘さ、そして覚悟のなさを実感した。
最後に見た姉と同じ瞳をした撫子を救おうと決めていたのに、逆に苦しめる結果になるなんて全く持って予想外だった。
人を騙して幸せにしようとしたのが間違っていたのか、それとも自分を騙して幸せにしようとしていたのが間違っていたのか、雄志にはわからない。
「ごめんなさい。雄志君私は嘘を吐いていました」
可愛らしい顔は涙と鼻水で見る影もなく、ただただ嗚咽を堪える撫子。この表情を見ないためだけに、雄志はこの一ヵ月努力をしてきたつもりなのに、それらの一切は水泡に帰し、どうしようもない所まで来てしまった。
「あの告白は、嘘だったんです。ずっと、雄志君を騙していたんです」
そんなことは知っていた。それを利用して、雄志は撫子に近づいたのだ。自分だけの勝手な目的のために、騙し続けたのは雄志も同じなのだ。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
唯一、二人の間で違うのは、相手のことを好きになってしまったか否か。
雄志と言う人間しか頼れなかった撫子と、撫子の後ろにいる姉を見ていただけの雄志。
その差は、最後の最後に大きな溝として二人の間に横たわる。その溝の横に完全に腰を下ろしてしまった撫子はきっと、このまま駄目になってしまうだろう。自分の吐いた嘘に苦しめられて、きっと立ち直れなくなってしまう。
それは、姉の二の舞で、二度見たくない悲劇だ。
だから、雄志は嘘を吐くことにした。大切な姉を守れなかった自分の弱さを認めないためだけに、雄志は再び嘘を吐いた。最初から最後まで、雄志は嘘を吐き通す。自分の甘さの尻拭いに、撫子を突き合わせることにした。姉の代わりとしてしか見ていなかった撫子に、自分の都合だけをぶつけた。
「それでも、俺は先輩のことが好きです」
自分の満足の為だけに、哀の過ちを二度と繰り返さないように、撫子を失わないように。
この日、鬼頭雄志は自分のためだけに嘘を吐いた。




