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闇祓物語 -ヤミハライモノガタリ-  作者: 瓢箪独楽
◆一章◆ 祓師(ふつし) 七海
7/12

父、海王




 七海は真夜中の住宅街をとぼとぼと歩いていた。

すると、少し先の自動販売機の前に誰かが立っているのが見えた。

電信柱のそばに備え付けられた自動販売機は、

自分の放つ明かりと電灯の明かりで、周辺をかなり明るくさせている。

そのせいもあって、高校生くらいの男の子であることが何となくわかった。

「私と同じくらいの年かな」なんて事を思いながら少年の後ろを通り過ぎたその時だった。


「あれ?七海じゃん」


急に自分の名前を呼ばれたので思わずピクッと体を強張らせたものの、

なんとなく聞き覚えのある声にピンときた。


「幕張かー。こんな時間に何して……ってジュース買いに来たんだよね」

「よぉ」と右手を上げながら幕張がテクテクと歩いてくる。

「俺の事よりお前こそこんな時間に……あぁオツトメか」


七海の独特の服装に今まで気付いていなかったのか、今頃そんな事を言っている。

「うん、ちょっとね。まぁ今回はハズレだったんだけれど…。

 ってか幕張は憑かれ易いんだからこんな時間にブラブラしてちゃダメじゃん」

「確かにその通りなんだけどよー、なんていうかさ、

 夏場って夜中にウロウロしたくなっちゃうだろ?わかんない?この気持ち」

「わかんないよ。っていうか祓師になってからは…特に最近なんて頻繁にウロウロしてるからね」

「それもそうだな。さて…と、

 買うものも買ったし、憑かれたりなんてのもまっぴらだしそろそろ帰るわ」

そう言うだけ言って、じゃぁなと後ろ手に手をふりながら暗い夜道を歩いていく幕張であった。


「なんかホント、自分の言いたいことだけ言ったって感じだなー」

なんだかなぁと後頭部をポリポリ掻いてまた家に向けて足を進めた──。




 とある民家の離れに建てられた倉庫の中で、

七海の父、空山 海王(かいおう)は敵と対峙していた。

高い位置にある窓と、入り口から差し込む月明かりしか光源が無い薄暗い蔵の中に、

大きく分けて三つの黒いモヤが揺れている。

それぞれに一応顔の様なものがあるものの、現世に存在する何者とも違う姿であるのは間違いない。

「むぅ…。負念体…か。

 本来なら一つに固まって発生するはずだが…まさか三つも発生するとは…」

やれやれといった風に肩をすくめてみせるものの、

その表情から、焦りや不安といった類の感情は一切感じられない。

目を瞑り体の前で(おもむろ)に印を結び「(そく)」と呟くと、

それを合図に3つの負念体が海王を襲い始める。

距離感をまったく感じさせない程の高速度で、目を瞑る海王に向かう──!

「まぁそう焦るな。もう貴様らの存在は捉えたんだ、これから天に導いてやる。

 導術… 懺悔!」

しかしその言葉の直後、海王の体は負念体に貫かれ、またそれと同時に目も眩む程の強い光を放った。

時間にして一秒もかかっていなかった、それほど一瞬の出来事だった。


 光が収まった時、三対の負念体は二十メートル四方程の真っ白な空間…いや部屋の中に居た。

自分達の状況が把握できずに行動を止めていると、

「ふむ、負の念が集まっただけの貴様らでも。一応驚いたりはするんだのぉ」

自分達の後ろから急に声が聞こえて一斉に振り向くと、

そこにはさっき体を貫いたはずの海王が、無傷で仁王立ちしていた。


「!?」

「おいおい、そう何度も驚くなよ。あまりにもシュールで笑ってしまいそうに…」

そこまで言った時、海王の首から上が負念体によって吹き飛ばされた。

「おーびっくりした。だからそう焦るなって」


首を吹き飛ばされた海王の体は白い煙になって姿を消すと、

また負念体の背後に現れ小馬鹿にしたようにそう言った。

一度ならず二度までも同様の状況に見舞われ、流石の負念体も次の攻撃に戸惑っているようである。

だが、そもそもが念の集合体、論理的な考えなど出来るはずも無く、

所かまわず攻撃を繰り返すしか彼らにできる事は無かった。

海王のみならず、異常極まりないこの部屋の壁、天井、床といったあらゆるところに、

体から生んだ触手のような影で攻撃を放ち続けた──。


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