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闇祓物語 -ヤミハライモノガタリ-  作者: 瓢箪独楽
◆一章◆ 祓師(ふつし) 七海
5/12

この話から本編です。

といっても本編の中の「掴み」的な部分なわけだし、

さらには書き溜めが余り無いという事も後押ししてちょっと短い…です。





「ただいまー」

ガラガラガラと音を立てて引き戸を開くと、

そこは老舗の旅館の様な落ち着いた雰囲気の玄関が広がっていた。

ここが七海の家、『空山神社』である。

もっとも正確にはこちらは住居で、本殿は別の建物だ。

荘厳で凛とした神聖な空気を持つこの地は、古くから祓魔(ふつま)を生業とする者たちの聖地とされ、

多くの修験者や退魔師などが空山神社の宮司に住み込みで修行をつけてもらっていたらしい。

「らしい」というのは、七海が物心ついた頃には闇者、即ち人ならざる者と戦っていたのは父だけであったからだ。

二階にある自分の部屋に向かい縁側を歩いていると、

ちょうど居間に差し掛かった辺でドタドタドタと足音が聞こえてきた。

「なっっっなみぃぃぃ~!おっっかえりぃぃぃぃ!!!俺の娘ぇぇぇ!!」

そう叫びながら大男が七海に飛び掛か──っ


ドボグッ!


それはくぐもった、でも大きな音でした。

七海の振り下ろした鞄の角が、大男の眉間に埋まる大きな大きな音でした。

そして大男はその衝撃を全身に受け、居間の中へすごい勢いで吹っ飛んでいった。


ガシャーン……  …カラン…… …チン……


色々な衝撃音の後、静まり返った居間の中で大男が壁にめり込んでいた。


「いい加減にしてってばお父さん!アタシもう17歳だよ?

 抱きしめてほっぺたスリスリとかもう卒業してよ」

「みひゃーみぼぼびぶりーむびっぼばば(いやー見事にクリーンヒットだな)」


スポンと音を立てながら己の顔面に突き刺さっていた鞄を外す七海の父。

ホコリまみれの身体をパンパンと払いながら話を続ける。

「あのなぁ七海!お前が生まれる時、父さんがどれだけ嬉しかったか何度も言っただろう?

 それにな、お前が40歳とかになっても父さんは変わらず頬ずりしたいんぞ!!」

「40歳って…流石にそれは見るに耐えない図になると思うよ……。

 っていうかお父さんがどれだけムスコン(娘コンプレックス)かくらい知ってるってば」

「ムスコンて…まぁそれはいい。コホン…ここからは真面目な話だ。

 最近のこの街の異常…まぁ闇者の大量発生の件なんだが、

 その件でお前にも毎晩『オツトメ』に出てもらっているだろう?

 でだ…。それについて、何か新しく得た情報はないかと思ってのう」

「新しい情報ねぇ…特に何もないかな。今は現れた闇者の気配を辿って、

 一匹ずつチマチマと倒していくくらいしか出来てないなぁ」

ひょいと渡された鞄を受け取りながら七海が答える。

「むぅ、まぁたしかにそうだろうのぅ。

 あい分かった、ところで父さんは仕事中だったので、本殿に戻る事にする。

 娘よさらば!!」

ピューンと風を切る音が聞こえそうな父の背中を眺めながら、

「はぁ…どんだけ大袈裟なの」とため息をつく七海であった。

普通の民家よりも幾分早い食事を終え、宿題などの雑多な用事を済ませ、

これまた幾分早く眠りに着く七海。時間にしてまだ20時になったばかりだ。

というのも、いわゆる「夜のお勤め」の為のこの時間なのである。

いや、なんとも妖艶な雰囲気の言葉ではあるが、そういった含みは一切ないので、

それを期待している諸兄は回れ右してもらってもかまわない。


 0時を回った頃であろうか、モゾモゾと布団から抜け出し、

慣れた手つきで独特な服装に着替える七海。

巫女服とはまた微妙に違うが、きっと儀式的な力を持った特別な法衣なのだろう。

支度を終え玄関から出ようとした時、背後から声が聞こえた。

「相手が自分より強いと感じた時は、すぐに撤退するんだぞ。いいな」

父親の心配交じりの言葉を背中で受け、振り返らずに「うん。わかってる」とだけ発して、

七海は夜の街へと消えていった───。



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