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教室での一場面


 蝉はまだ(さなぎ)、土の中。

照りつける日差しが肌に優しくない七月上旬。

世の学生達は(きた)る夏休みに向け、海や山やと様々な予定に夢を膨らませる頃である。

とは言っても現実はしっかり授業という壁が立ち塞がっていて、

残念ながらまだ夏休みではないという事を承服せざるを得ない。

そんな、どこか悶々とした雰囲気を含んだまま今日もホームルームは始まった。


「うーい、おはよーさん。生徒共、今日も元気みたいで何よりだ。

 早速出席を……まぁ全員揃ってるみたいだし面倒だからやめとくわ」

あまりにもな発言をうけて、そこかしこの生徒から「ちゃんとやれー」といった野次が飛ぶが、

当の本人は一切気にせずに話を続ける。

「えっと…なんだ……まぁ特に連絡は無ぇから一限目の準備しとけー。

 んじゃーホームルーム終了」

頭をポリポリと掻きながら担任教師 田中かなた 四十歳独身は出て行った。


 窓際の一番後ろ、そこが七海の席である。既に一限目の準備をし、ぼけーっと外を眺めていた。

「今日も暑いなぁ……はふぅ」

そんな独り言の後、眠そうに瞼をパチパチとさせ、そのままバサッと机に突っ伏して動かなくなった。

「まーた寝てんのか七海?」

「ふぇ?この声… ああ、幕張かぁ。って幕張、また何かあったみたいだね?」

七海の前の座席から声をかけたのは 幕張(まくはり) 黒子(くろじ)という男子。


「いや、特に何もないぞ?まぁちょっと疲れが溜まってる感じはするけど…え?

 もしかして……また?」

「うん、憑いてるよ」

「…っはぁぁぁ…またか…。今回のは何よ?」

「すっごい小物のヤツだから放っておいても大丈夫だと思うよ」

「いや大丈夫じゃねぇだろそれ!」


第三者からすれば夢見がちな中二病の二人が、妄想たっぷりな内容の会話をしているように見えるだろう。

が、この二人はいたって真面目に、だが気楽に話をしている。


「なーなー、今回もちゃんと祓ってくれるんだよな?放課後まで我慢するからさ」

「んもー、五年や十年でどうこうなるものじゃないから放っておいても大丈夫だってー」

「いやいやいや!十五年や二十年でどうにかなるかもって事なんだろっ!それ全然良くねぇっつの!

 なぁ、ななみさぁん、頼むよぉぉ…」

「仕方ないなぁ、今から祓ってあげるから、ほら前向いて目瞑ってて」


七海に促され素直にそれに従う幕張。彼が前を向くのを待って、七海がゆっくりと顔を上げる。

というか今までずっと机で突っ伏したままだったようである。


「よいしょっ」と幾分年寄りくさい声が聞こえた気がする。

「目瞑ってる?瞑ったらいつもみたいにアゴの辺りに感覚を集中しながら、全身の力抜いてね」

「ん…オッケー」


幕張の返事を聞き、七海は片肘をついた姿のままもう一方の手を彼の方へ伸ばした。

そして首と背中の境目あたりに、ピンと立てられた七海の人差し指が触れる瞬間、

彼女は「導…」と一言だけ発する。

すると触れそうだった人差し指と幕張の体との間に、

一瞬だけ『導』という薄紫の文字が浮かんだ様に見えた。


「はい、これで大丈夫だよ。だからもうそっとしておいて」

そういって再びバサッと机に突っ伏して寝始めた。

「おおー相変わらず仕事が早いな!サンキューサンキュー!

 さすが空山神社第九代目の祓師(ふつし)さんだな!」

その発言を聞いて、ピクっと七海の体が動いた──

ほんの少し顔の向きを変え、幕張の方を睨む。


幕張の方と言えば、

それに気付かずにハハハとやたら上機嫌にしている。

それは前を向いていて後ろ姿しか見えなくても有々とわかる程に。

「ねぇ幕張」

「なんだよ」

再び七海がピクっとした。

「……。そっとしておいてって言ったよ…ね?」

「ああそうだなー。でもまぁちょっとくらいいいじゃねぇか。今気分がいいんだよ」


ピクッ…ピクッ…


「……。それと、今までに何度も何度も私の家の事は黙っててって言ったよ…ね?」

「あれ?そうだっけ?わりーわりー」


ブチンッ…


「いやぁ俺って細かいことは気にしないからなー……な、なな、なな七海ちゃ…ん?」

どこからともなくゴゴゴゴといった地鳴りのような音を聞いた幕張。

怯えながら七海の方に振り向くと…、眼鏡の奥で怒りの炎を燃やす修羅の如き七海とバッチリ目が合った。

ビクンッ!!体が一瞬で硬直し、完全に萎縮した幕張。

ガタガタと震える高校生男子は、自分の後ろに居る鬼に向かって、

「ごめんなさい」というただ一言だけを発するのが限界だった──。




幕張くんが満を持して登場ですね~。


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