第七話 出たとこ勝負
アジトの資料室に戻ってから、改めてエビキラーに言った。
「では、皆を集めてくれるか?」
「はい、かしこまりました」
私に頭を下げてから、静かに部屋を出て行った。
さて……
今回は、ちょっとばかり厄介だ。
何しろ相手は怪人達……かなりの押しが必要になるだろうな。
それでも、アレだ。
さすがに奴等も心の底では、この規模で世界征服を果たせるなんて思っていないはずだ。
まぁこの際、出たとこ勝負だ。
やってみるしかないか……
しばらくすると、エビキラーが戻ってきた。
「それでは、ご案内いたします」
そのまま部屋を出て行くので、私は大人しく付いて行った。
会議室と書いてある部屋の前まで来ると、エビキラーが振り向く。
「すでに皆様がお待ちです、宜しいですか?」
私は素直に頷いた。
扉を開けて会議室に入った瞬間、思わず顔が引きつる。
何だか、カニやらハチやら怪人が一杯居るんですけど……
こう言う時は、せめて人型で来てくれないかな~?
とりあえず講義台のような所まで行って、全体を見渡す。
こちら向きに綺麗に並べられた椅子に怪人達が大人しく座って待っているのだが、かなり不気味な光景だ。
そして半分以上の怪人は、何の生物が元になっているのやらサッパリわからない……
まぁ、それはどうでも良い。
皆も注目している事だし、ぼちぼち始めるとするか。
私は怪人達に向けて大きな声を上げた。
「今日、君達に集まってもらったのは他でも無い。我々は、これまで推し進めて来た世界征服計画を中止する!」
しばらく無言の時間が流れたが、やがてザワザワし始めた。
「ちょっと待て! 中止するってどう言う事だ!」
「そうだ! フザケタ事を言うな!」
どうやらブーイングが始まったようだ。
ん? 今の言葉だったよな? ほう……怪人状態でも喋れる奴が居るんだ。
だが、そう思った直後に変な音が聞こえてきた。
ギャーとかキーとかシューとか変な雑音が会議室に響き渡っている。
きっとアレもブーイングなんだろうな……
まぁ、ここは気にしない事にしよう。
私は、また声を上げた。
「まずは冷静に考えてくれ。君達は全くヒロインに勝てず、他の組織からも狙われている。この中の誰かが、いつ殺されてもおかしくない状況だ。それを理解しているのか?」
皆に問いかけると、不思議なくらいに静まり返る。
私は続けた。
「言ってみれば、この組織は倒産寸前の会社みたいなもんだ。それを避けるには、大胆な改革が必要である」
すると、最前席に居たカニみたいなのが声を上げた。
「いったい何をしようってんだ!」
その言葉に笑みを浮かべる。
「我々は、今日から正義の組織になる!」
私が大きな声を上げると、怪人達は唖然としながら固まった。
しばらくすると、また変な雑音が響き始める。
そしてまたカニみたいな奴が言った。
「そんな事したら、他の組織から余計に狙われちまうだろうがよ!」
そんな言葉に、私は笑った。
「はっはっは。君達は大事なコマを忘れているぞ」
「コマだと? それは何だよ!」
私は指を二本立てて、また大きな声を上げる。
「二人のヒロインだ!」
もはや何を言っているのか判らないと言った雰囲気の怪人達に続ける。
「我々が正義の看板を掲げれば、もうヒロイン達と戦う必要は無い。その上で我々を狙う組織があるならば、それはヒロイン達の敵でもあるのだ! つまり我々の代わりに、彼女達に戦ってもらえば良いだけの話なのだよ」
怪人達はまだピンと来ないようなので、私は更に続けた。
「まずはNPO団体として会社を立ち上げる。そして我々はボランティア精神に富んだ団体として蘇るのだ! これからのテーマは愛っ!」
首を傾げていたカニみたいな奴が、ふと私を見て言った。
「いやいや……そもそも俺達は怪人だぞ? それに愛って……いったい、どうするんだよ」
私は、思った通りにカニみたいなのに答える。
「ん? 君達は、それぞれ人型に変身できるだろ? しっかりと働いてもらうさ。何も問題は無い!」
「マジかよ……」
カニみたいのは、また固まってしまった。
私は笑みを浮かべながら辺りを見渡す。
そして話を続けた。
「ちなみにコレを聞いたからには、勝手に侵略行動を起こしてもらっては困る。その時は我々の敵としてみなすので覚悟しておくように!」
それに焦ったようにカニが叫んだ。
「ちょっと待てよ! 敵って、どう言う事だよ!」
また私は笑みを浮かべた。
「その者達には、ヒロイン達の熱いお仕置きが待っていると言う事だ!」
「げ……」
そのまま会議室にいた怪人達は、微動だにしなくなってしまった。