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最終話 『ニセ何とか』の奇跡

その余裕に満ちた奴の姿を目の当たりにした二人は、その場で呆然と立ち尽くしている。

二人の後ろ姿からは、何かが尽きた感が漂っていた。


やがて奴はこちらに歩みを進めてくるが、二人には全く動く気配が感じられない。

私は大声で叫んだ。

「ダメだ! 諦めるな~!」

その声でハッとしたように、二人は瞬時にその場を離れる。

そして、また奴に向かって果敢と立ち向かって行った。

しかし、その攻撃には先ほどまでの気迫が全く感じられない。

何か諦めにも似た悲しげな気持ちが、私の心に伝わってくる。

二人は襲いくる刃を何とか交わして反撃を試みているが、

奴にそんな半端な攻撃など通用するはずが無い。

いつしかその表情には、絶望にも似た暗い影が見えてきた。



亜希子が大きく奴との間を空ける。

きっと一瞬気が抜けたのだろう。だが奴はその隙を見逃さなかった。

振りかぶるように放った巨大な手裏剣のような刃が、亜希子に向かって襲い掛かる。

私は間髪入れずに走った。

「危ないっ!」

亜希子にタックルするように、その刃を避けた。

「ちょっと、あんた何してるのよ!」

「ごめん……でも無事でよかった」

私の言葉に呆れた笑みを浮かべると、

亜希子は気を取り直してまた果敢に奴へと立ち向かってゆく。

私にはそれを見送る事しか出来ないが、このままではとても奴には勝てない……

どう見積もっても不利な状況だ。


必死に資料にあった情報を思い返すが、そこに書いてあった全ての技をこの場で見てしまっている。

もう二人に打つ手は無い。万策は尽きているはずだ。

すでに相当の体力を奪われているようで、揃って肩で息をしている。

素早い動きは、二人にとって唯一の持ち味だ。

だからこそ、これまでノーダメージで戦ってこれた。

しかし、それが尽きてしまえば奴からすればかっこうの的。

奴にダメージを与えられない今、あとは殺されるのを待つだけになってしまう……

どうする?


その時、辺りに大きな悲鳴が響いた。

驚いて視線を送ると、佐希子が宙を舞いながらこちらに向かって吹っ飛んで来ている。

「佐希子っ!」

亜希子は慌てて駆け寄ってくるが、あの位置からではとても間に合わない。

私は、また間髪入れずに走る。そして佐希子の体を全身で受け止めた。

慌てて佐希子の状態を確認する。

出血は……無いみたいだ。

これと言った外傷も見当たらない。

何とか防御が出来たようだ……

すると佐希子は、かなり苦しそうに唸りながらも私に視線を送って囁いた。

「私は……大丈夫……よ」

こちらに走ってきた亜希子に、私は叫ぶように言った。

「大丈夫! 無事だ!」

それに大きく頷くと、亜希子はその場で振り返る。

そして、また奴に向かって走って行った。

必死に起き上がろうと試みる佐希子に、私は怒鳴るように言った。

「こんな状態で動いちゃダメだっ!」

「でも……」

弱々しく私の腕を振り払おうとするが、これじゃとても戦わせる事なんてできない。

しかし、亜希子一人だけじゃ……もう……


その時、私を振り払おうとしていた佐希子の腕が力なく下に落ちて行く。

私は慌てて口元に手を当てながら、手首を確認した。

息はある……脈の鼓動もしっかり伝わって来た。何とか大丈夫……

その場で大きく溜め息を付いた。

どうやらあまりに激しい衝撃で、佐希子は意識を失ってしまったようだ。


私は必死に戦い続けている亜希子へ視線を移す。

こうなったら、もう私が行くしか手立ては……

だが、ここで私が変身なんてしたら何て思うだろう……

多分、おもいっきり嫌われるだろうな……

でも……このまま亜希子が死ぬ所なんて、絶対に見たくない!

なら……亜希子を守るには……


あぁ~、もう! 背に腹は代えられない!

意識を失っている佐希子を静かに横にして、私は立ち上がる。

そして己の拳を、勢い良く天に突き上げた。

「変身っ!」

その瞬間に、メタリックグリーンとフラットブラックの西洋甲冑にも似たスーツが身体に張り付くように装着されて行く。

私が大きく吐いた息は、唸るような重低音となって辺りの空気を震わせている。

そして、静かに覚悟を決めた。

もはや、ヤルしかない……


私は亜希子の前に立ち塞がり奴の手裏剣を手の甲で弾くように受けると、それは右横の壁をブチ破りながら激しい音を立てる。

それとほぼ同時に放ったキックが奴の腹に減り込むと、奴はまるで衝撃波を食らったように勢い良く転がりながら向こうへ吹っ飛んで行った。

「え? 誰?」

その声を追うように横目で確認すると、亜希子は私の姿を見て呆然としているようだ。

だが私はまた、そのまま奴の行方を見据える。

この程度の攻撃で、素直に終わってくれる輩では無かろう……


突然の衝撃にしばらくもがいていた奴だったが、ようやくこちらの存在に気付いた。

そして、私を指差して叫んだ。

「貴様っ! 何者だ!」

この甲冑のような仮面のせいで見えないだろうが、私は悲しい笑みを浮かべて低く呟いた。

「名乗るほどの者じゃないさ……」

そのまま地面に拳をつけてから、手首より先を外側へ曲げるように静かに横向きに傾ける。

私は、その拳をユックリと持ち上げながら立ち上がった。

そこに、まるで大地から抜き取ったかの如く鮮やかなグリーンに輝く剣が現れる。

それを見た奴が、唖然として呟いた。

「まさか! その技は……」

私は構わず、その剣を思い切り振りかぶった。

「魔人破光惨殺波……」

激しい閃光と共に放たれた光の刃は一気に奴へと襲い掛かり、その強靭な身体を真っ二つに切り裂く。

「そ……んな……バカ……な……」

奴はそのまま二つの物体となって、左右に分離しながら崩れ落ちた。


これは、私の元になったヒーローが得意とした技……

だが所詮、私は『ニセ何とか』だ。

単なる、ヒーローのコピーでしかない。

だけど、こんな能力でも役に立って良かった。

少なくとも、二人の大切な命を守る事が出来たのだ。



私は大きく溜め息を付いて、新たな覚悟を決める。

そう、私は亜希子を騙してしまった……

これだけ景気良くバレてしまえば、もう私を許してくれる事など無いだろう。

心の中で呟いた。

《これで……さよならだね》



しかし、何故だろう……

もうダメだと解っていても、言い訳の一つくらいはしたくなってくるのは不思議だ。

まぁ……この際だから、一つくらい言い訳しても……イイかな?

哀しいほど青い空を見つめながら、諦めにも似た溜め息をつく。


私は変身を解きながら後ろを振り向いた。

「ごめん……騙すつもりじゃ無かったん……」

そこには妙にキラキラと輝く瞳が、私を熱く見つめていた。



それから……異様なほど亜希子に好かれてしまった事は、言うまでも無い……



私は改造人間……

いや……今なら、自信を持って言える。

今こそ……この悲しい名を、大きな声で言おう。


私は『ニセ何とか』である。





















これにて完結です。これまで読んで頂いた皆様、本当にありがとうございました。

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