第一話 『ニセ何とか』現る
週1更新くらいのペースを目標にしています。全11話にて完結予定です。どうぞ、宜しくお願い致します。
私は改造人間である。
だが、これまで戦った事は一度も無い。
ん? 何故かって?
そりゃ~、組織がヒーローに潰されちゃったからっすよ~っ!
私は、そのヒーローと同じ改造を受けた。
まぁ、簡単に言えばアレだ。
良く『ニセ何とか』とか言われちゃう奴だが、組織にしてみれば一応は最終兵器である。
あの日……
私が抹殺に向かうのと入れ違いで、ヒーローはアジトに最終決戦を挑みに来てしまった。
緊急連絡を受けて急いで戻ったのだが、時すでに遅し……
み~んな奴にやられちまっていたって訳だ。
あれから私は、人間に紛れて暮らしている。
今では変な洗脳みたいなのもすっかり解けて、頭の中はスッキリ晴れやかだ。
まぁ、いずれにしても昔の話だ。今更クヨクヨ考えても仕方ないさ。
今は探偵業なんて事をやりながら細々と生活しているんだが、どこから情報を聞きつけて来るのか秘密結社やら組織の奴等からの依頼がやたらと多い。
いや、そんなんばっかりと言った方がイイかもしれないな……
おもわず目先の金欲しさで素直に受けてしまう私も、悪いと言えば悪いんだが……
ん? 組織は潰れたんじゃないのかって?
はいっ! 確かに私の属していた組織は、見事に壊滅いたしました~っ!
でもねっ! 悪の秘密結社なんてのは、結構そこら中にあるもんなのよ。
ヒーローやヒロインだって意外なほど沢山居る。
何とか戦隊とか美少女何たらとか言うのもワラワラ居るから、もし集まったりしたらそりゃ大変な騒ぎっすよ。
まぁ皆してやたらと秘密主義なもんだから、そうそうお目にかかる機会が訪れないだけの話なのだ。
ちなみに今日も一人、ネオ何とかって組織の首領が来る事になっているんだが……
随分とおせぇな~……
何時まで待たせやがるつもりなんだ?
またアレか? ココの場所がわからないとか?
たまに思いっきり迷う奴が居るからな~……
確かにココは普通のマンションって造りだけどさ~、一応は大きな通りからでも見えるように看板だけは付けてあるんだから少しくらい上の方にも視線を送って欲しいものだ。
その時、扉が静かに開いた。
「あの……昨日お電話でご予約致した者ですが……」
黒い帽子を深めに被った年配男性が、扉からヒョッコリと顔を出して申し訳なさそうにこちらを見ている。
「お宅、誰?」
それに、え? と言った表情を浮かべて慌てたように答えた。
「いや、あの……昨日お電話いたしました、ネオミルクティの大朱凌でございますが……」
ん? そんな名前だったっけ? まぁ、イイか……
「あぁ……お宅が、例の首領さんね。まぁ座って……」
客用に買った中古の安いソファーに手を差し出すと、安心したように杖を付きながら入ってきた。
見た雰囲気は英国風の老紳士と言った感じだが、これは人間に化けているだけだ。
本性は、相当に恐ろしい怪物に違いない。
ゆっくりと腰を下ろす首領に言ってみる。
「それで? どんな相談? また逃げた怪人を捕まえてくれとかの依頼だったら勘弁してね。そう言うのホント洒落にならないんだから」
すると私に手の平を向けるようにして答えた。
「いや、決してそのような事では……実は、話せば長くなるのですが……」
神妙な表情を落としながら首領は話を始める。
私は、その表情に答えるように腕を組みながら聞いていた。
首領の話によれば秘密結社ネオミルクティは世界征服を目指し活動してきたそうだが、二人組みのヒロインに散々やられて既に戦力は底を付いていると言う。
まぁ、ここまではありがちな話だ。
だが、話にはその先があった。
戦力が低下したのを良い事に、他の組織からも狙われ始めたと言うのだ。
実際のところ秘密結社なんて奴等は、テロやマフィアみたいなもんだ。
相手の弱みに付け込むなんてのは常套手段である。
まぁ簡単に言えば、敵味方隔てなく周りからフルボッコ状態と言う事だ。
可哀想と言えば、超が付くほど可哀想ではあるのだが……
しかし、自業自得と言った感じも否めないよな~。
でもな~、ここまで聞いちゃったしな~……
さすがに、この期に及んで何事も無かったかのように追い返すなんて……
いや、そりゃ~あんまりだよな~。
とりあえず首領に聞いてみた。
「ふ~ん……で、そもそもさ~。お宅は何で、このご時世に『世界征服』とか言っちゃってる訳?」
「いや……それは長年に渡りし我々の目標であります」
何やら真剣な表情で語っているが、私は呆れた視線を投げる。
「何? その漠然とした目標は……いっその事、やめちゃえば?」
その言葉に、怒ったように言い返してきた。
「いやいや、何をおっしゃる! 世界征服の目標を無くして、我々の存在意義などありはしませんぞ!」
私は大きく溜め息を付く。
「本当にそうか? では良く考えてみたまえ。たかだか二人のヒロインにケッチョンケッチョンにされてるんだろ? どう考えたって無理じゃね?」
「そ……それを言われると何とも……」
妙に視線が泳いでいる首領に、私は少し真面目な表情を装ってテーブルに肘を付きながら言った。
「まぁ、まずは世界征服とか言う古びた考えは忘れろ! 話はそれからだ」
「は、はぁ……」