フィエロの神具
リク→マナの順に視点が変わります
「リクの魔力はあたしがずぅっと前に力を貸していた人間と同じなんだよ! 確かその魔力はね? 全属性が得意な空白色の魔力なハズだよ!」
「くうはく?」
そんな色、あっただろうか? そもそも、それは色と呼ぶものなのだろうか?
「そう、空白色! 見る事の出来ない魔法、空白魔法が使える魔法で、しかも神の属性を取り込むことでその属性が得意になる七変化のような魔力なんだよ!」
力説するツキ。
ボクはまだヒスティマでの経験が無いから素直にそんな魔力があるのかと思ってしまう。
「そんな……ありえないわよ? だってどの魔力にも属性の得手不得手があるはずだもの……」
「おばあちゃん、知ってた~?」
「知らないねぇ。でも聞く限り、神と契約していないとあまり脅威にはならないねぇ。空白魔法とやらが強くないかぎりぃ」
ソウナは否定し、マナは真陽に知っていたかどうかを聞く。真陽は冷静にツキの言葉からどんな魔力なのかを分析していた。
そして「おぉ!」と思いだしたようにルナが話し始めた。
「そういえばそんな魔力あったのぅ。じゃが少し違うぞ? 極める事によって神の属性を借りなくとも自分で属性を変える事が出来るのじゃ」
「それじゃあ、相手によって属性を変えればいいだけだからいつでも有利な状況にたてるねぇ」
それはちょっとずるいと思うのだが……。
しかし、ツキだけならばともかく、ルナもそう言うのだからそれがあるものと、三人はいやでもわかってしまう。
だが、そんな有利な魔力、絶対に扱いにくいではないか。
今だって放出は出来るものの、形を作る事が出来ない。
これはとても困難になりそうだと感じる。
一週間でどこまでできるのだろうか……。
「しかし、空白魔法なんて私は知らないしぃ……。ルナが思い出してくれたならルナから教わった方がいいと思うのだけどねぇ」
真陽は申し訳なさそうにしてルナを見ると、ルナは頷いてくれた。
「空白魔法ならば少々覚えておる。ツキのおかげで空白魔法の事を思い出したのでな。喜んで教えよう」
「お願いね? ルナ」
「任せよ。比較的わかりやすく、それこそサルでもわかるように教えてやるわ」
ルナが胸を張って言っているが、完全に馬鹿にしているような気がする……。
「サルでもわかるようにってどういうこと?」
「こ、言葉の綾じゃ!」
少し怒ったような声で言うとルナは冷や汗を流し焦って弁解する。
「それじゃあ、私は真陽さんに稽古をつけてもらいたいのだけど……」
ソウナはディスを剣、グラディウスにして右手に持ち、真陽に向く。
「剣の練習だったら大丈夫だよぉ。……マナはどうするぅ?」
真陽はマナに視線をやる。
「リクちゃんのアドバイスでもしようかと思ったけど空白魔法じゃ内の知識も意味ないしね~。お願いしようかな~?」
マナも、ソウナと同じように真陽と戦うようだ。
そういえばフィエロはどんな神具になるのだろうか?
まだ見たことは無い。学校でもそんなにフィエロは出さないからアキ達は知らない。キリもマナが神と契約したことは知っているのだがどんな神かはわからない。教えていないから。
「フィエロ、お願い」
フィエロは静かに頷き金色の炎がマナを包む。それが納まると、中から出てきたマナの右ひじと肩が金色の炎で覆われていて、左手には金色の炎で燃える大きな弓を持っていた。
「まだ数回しか使った事ないけど……おばあちゃん相手なら大丈夫だよね」
大丈夫だと確信しているからこその言葉。
「さすが、フィエロじゃのぅ。主が完全に使いこなしていなくとも鎧と武器が両立しておる」
「どういうこと?」
確かに、ルナとツキは武器のみで、シラは腕輪だけだが……。
「高い位にいる神は鎧と武器を両立して顕現する事が出来るのじゃ。まさに今マナが持っているあの弓と肘当てがそうじゃな」
「それじゃあ、一番上に居たりすると……?」
脳裏にはすべて鎧に包まれていて、大剣を振りまわす大男の姿が浮かんだ。
「今考えている事が一番わかりやすいかのぅ。つまり、完全装備できるという訳じゃ。……そうでなくとも完全装備になれる方法が無いわけではないが……」
少し言いにくそうに言うルナ。苦い顔をしているからボクは追及する訳にもいかなかった。
「それでは、こちらは地味に魔力コントロールの練習でもするかのぅ」
「えっと、そこから……?」
「当たり前じゃ」
ガックリと肩が落ちたボクを無視して、ルナは授業でもするかのように始めた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
リクがルナと魔力コントロール向上のレッスンを始めたころ、ウチ達も稽古を始めた。
「行きましょうか。マナさん」
「うん。わかった……」
ウチは稽古だとはいえ、真剣な表情になって弓を構える。
おばあちゃんはそんなウチ達を不敵に笑いながら黒剣をゆったりとしたように構える。ウチは隙があるように見えてしまうのだがおそらく誘っているものだと思われる。攻撃したいとは思わない。
だが、動かなければ始まらない。
ソウナが無言で走りだした。おばあちゃん相手に正面から突っ込んでいくが突如、三十度ぐらいに斜めに走りだした。
ウチはそれをタイミングよく、引いていた矢を放った。
フィエロの補正もあって、おばあちゃんに向かって正確に飛んでいった。
おばあちゃんはそれを軽く剣で弾く。そして零距離まで接近したソウナの剣を防いだ。
「やっ! はっ!」
続けて剣を振るうソウナ。真陽がそれを防いだ後、ウチは遠慮なく引いていた矢を放つ。
そしてこの事や先ほどの事は事前に訊いていたことなので――もう一振りしたソウナは右に避ける。矢が迫って来ていた事に元々気づいていたのか、おばあちゃんはソウナと同じように避けた。
「!?」
そう来るとは思っていなかったソウナはビックリしてディスを慌てて振るったがそんな剣は簡単に避けてしまい、次のおばあちゃんの一撃をもろに喰らった。
「いった――ッ」
それぞれの武器にはおばあちゃんが非殺傷の安全装置を付けているので傷ついたり死ぬことは無いから大丈夫だ。
「怯んでるともう一発するよぉ?」
「させない!」
引いていた矢を放つ。矢はソウナの間横を通り抜け、おばあちゃんのお腹へと吸い寄せられていくが、ぎりぎりでおばあちゃんは矢をかわす。
「〈武乱〉!」
四連撃の魔法が放たれ、剣がおばあちゃんを襲う。
「まだぎこちないねぇ」
それを綺麗に四回さばくと、もう一度攻撃する。
ソウナはそれが来る事がわかっていたのか、ディスを横にしておばあちゃんの剣を防ぐ。だが、力負けをしてソウナの体が飛ぶ。
「貫いて! 〈炎鳥〉!」
放った矢は火の鳥となり剣を振るった後のおばあちゃんに向かう。
おばあちゃんはその矢を冷静に切り裂くと、一回の跳躍でソウナの眼前にまで迫っていた。
「くっ、〈武盾〉!」
「さすがに使おうかねぇ。〈葉桜〉!」
おばあちゃんが魔法を使う。それは剣が旋風を巻き、広範囲にわたるような攻撃。
ほんの少し防いだだけなのに〈武盾〉は壊れ、ソウナを巻き上げた。
「きゃあ!」
「ソウナさ――」
「自分の事も心配するんだよぉ? マナ」
「!?」
ザンッ!
「い……た……」
その場に崩れ落ちる。これ以上は体が動かない。
ソウナも体が動かないようで首だけを動かす。
「なんだぃ。根性が無いねぇ。一撃で倒れるようじゃぁ、この先心配だねぇ」
勝者宣言でもするかのように、おばあちゃんが剣を肩に置きながらそう言った。
リク「ところで、マナちゃん矢を持っていないように見えますけど……」
マナ「あ~。あれは魔法矢って言って魔力で作られてる矢だからね~」
リク「へぇ。そうなんですか。どおりで矢が無いはずです」
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