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ヒスティマ Ⅲ  作者: 長谷川 レン
第六章 淵海曲
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淵海

 ――淵海曲が鳴り続く夜に――


 その詠を歌っている人が誰かなどと言う必要は無いだろう。

 神秘的なその声が、神秘的な魔力となって湖全土に広がった。湖は、綺麗な光を立ち昇らせる。

 その光景に少々見惚れて、ボクは発動していた〈アイスフロア〉を解く。


「ま、さか……貴方達はこれを狙って!?」


 風香が何を今からしようとしているのかわかったようだ。すぐさまレナを止めるために風の刃を発動する。

 だが、ボクが風香の目の前から移動して、風の刃を斬り裂く。


「レナさんの保護者は、最後まで訊くべきじゃありませんか?」

「く……ッ」


 ボクが風香に目を向けると、風香は舌を撒いていた。その場からすぐに飛びだし、ボクへと向かってくる。



 ――小さな私は、曲を奏でました。静かな、静かな淵海で――



 ボクは風香を止めるべく身体強化を最大限引き出し、刀を打ち付ける。

 風香も余裕が無くなったのか、黒い魔力を体から放出させていた。


「〈デモンズソード〉!」


 風香の持っているサーベルが黒く染まる。おそらく悪魔を解放したのだろう。風香も悪魔を従えていたと言うのは予想できていた事。その悪魔が何の能力を持っているのかはわからないが、ボクは此処を通す気は絶対に起きない。

 サーベルを振るうと、風の刃が一層強くなって襲ってくる。ボクはそれに驚きつつも冷静にルナで斬り裂いてく。おかげでレナへは風の刃が飛んでいない。ボクはそれを確認するまでも無く風香へと接近して、ツキとルナをクロスして斬りつける。

 サーベルで対抗する風香は打ち付けた瞬間は耐えたが、すぐに後退した。ボクは追撃して刀を振るうと、風香はどこからともなくとりだした先の尖った何かを投げてきた。



 ――音を奏でる淵海曲は、濁りの無い綺麗な演奏――



 だが、その何かは魔力が込められており、全て魔法で作った物だとわかると、ボクは順にルナを振るって無力化していった。ルナだけで対処できなかった部分はツキも使い、地面へと落とした。

 それを防がれると同時に風香はボクの横を通り抜けようとしようとしたので魔法を放って止める。


「〈アイスウォール〉!」


 大きな氷の壁が作られる。おかげで風香は足を止まらざるを得なくなる。

 風香の額には冷や汗が垂れ初める。それはそうだろう。レナは除所に神の魔力を湖全体に広がせて言っているのだ。神聖な魔力が湖に集まる。

 風香はそれを一刻も早く止めようとして手に悪魔の力を宿らせ、遠慮なく放つ。


「〈暗黒砲・魔破〉!」


 悪魔魔法を放つ風香。氷の壁を破壊してレナに向かう。

 だが、ボクはその魔法を見るのは三度目。何の魔法を放つのか、わかっていればルナを使って無力化するのは簡単だった。

 ボクは手に持つルナとツキを鞘に戻し、放たれた悪魔魔法の横まで跳ぶ。真横でボクは、ルナを居合で抜きながら斬り裂いた。

 無力化された悪魔魔法はその場に魔力が霧散される。

 だが、その霧散された魔力は、湖に溜まる神秘的な魔力により全て浄化された。



 ――その演奏は、迷いの無い海流のようで。自分の奏でた淵海曲は、いつしか憧れとなりました――



 浄化されるのを見たボクは、すぐに風香に振り向いて攻撃を仕掛ける。

 ルナ一本で斬りつけると、サーベルでは無く、小刀で防いだ。

 どうしてもサーベルにルナを当てないようにしたいらしい。


 風香は、ボクが懐にいるためにサーベルは振れないとわかると、すぐさま膝蹴りを繰り出してきた。

 同じくこちらも膝蹴りで対抗し、脚と脚がぶつかり合う。腹への蹴りを回避すると同時にボクは握り拳を作って風香を殴る。

 その手前でボクの手はサーベルを持っている方の手で防がれる。

 ボクもこのままではルナを振るえないので一度離れる。


「〈アイスランス〉!」

「〈ウィンドスパイラル〉!」


 ボクの氷の槍が風香の目の前まで迫るも、その前で展開されていた風の渦が粉々に砕いた。


「〈パワーデビル〉!」


 黒い魔力を溜めていた風香が、魔法を放つ。

 それと同時に、ボクはある事に気がついた。


 風香の目元が、濡れているのだ。


「風香さん。まさかあなたは……」

「なんです?」


 風香はそれだけを答えて、悪魔の力を体に宿してサーベルを振るってきた。今まで以上のその力に、ボクは歯切りをして耐える。



 ――されど、貴方が居てくれたおかげで。私は迷い無く海流を進み、演奏をすることができました――



 力を強く入れてくる風香に、ボクはわざと力を抜いて懐へと潜り込み、鞘に刺したままのツキを抜きながら攻撃する。

 それは小刀で防がれたようで、逆にチャンスだと思って、ルナを振るう。

 案の定、風香はサーベルでそれを防ぐが、無力化が発動されて、サーベルの色が黒から元の色に戻って行く。


「くっ」

「まだまだ! 〈二の太刀 雪麗〉!」


 魔法を発動し、ボクは乱舞を風香に刻む。

 連続して続く衝撃音が響き始める。


「〈エアーダウン〉!」


 風香がボクの刀を防ぎながら魔法を発動する。すると、耳鳴りがし始め、視界が揺らぐ。

 ボクは意識を保つのが難しくなってくると、刀を一旦止め、その場からすぐに跳び退いた。すると、すぐにまた正常に戻る。



 ――人生と言う地の果てまである一本道。私は海流の如く揺れて行きましょう――



 レナの詠が終盤だとわかる。

 後少しだけ防げばいいとわかると、ボクは入れていた魔力を強くする。


 そして、風香を見ると、肩を揺らし、汗が垂れているのがわかる。

 彼女もまた終盤だとわかっているのだろう。


 だが……。


「もう、やめませんか? 風香さん」


 ボクが同情するような言葉で声をかける。

 なぜなら、彼女の瞳からは……。



 ――私は淵海。深き海から曲を奏でる巫子――



 レナはこちらの様子が気がついていない。目を伏せているのがわかる。ボクを信用してくれているのだ。


「貴女が戦う理由なんて、もう無いはずです」

「私が戦う理由はあります。レナ様をこちらに引き込めない以上、殺し、聖地を回収します」


 それももう。失敗に終わるからと言っているのだが。


「わかりました。ならばボクは貴女から敵の情報を知るために後一撃。本気の魔法を使います」


 彼女が何かを喋るとは思えない。それに、彼女はレナ(、、)の詠(、、)に涙を流していたではないか。



 ――私の声が届いたのであれば、今ここで、お姿をお見せください――



 ルナもツキも鞘に戻す。どちらも使う気は無い。


「〈クリアブレード〉」


 その手に透明な魔法を発動させる。神の魔力も入っているせいか、目視ができるし、透明、と言うよりもキラキラと光を纏っている。

 ボクはそれを確認すると、すぐにその場をかけだした。


「〈デモンズブレイド〉」


 サーベルがまたも黒く染まる。そして、近づいてくるボクに向かって振りかぶり――下ろした。

 ガキィンッ!! と激しい音が聞こえた次の瞬間、ボクは身を回転させて風香の脇腹を斬り裂いていた。


「ぐ……っ」


 あまりの痛みに、膝をつく風香。

 それと同時に、レナの詠が完成する。






「そして私と契約を結び、迷い無き道を示しなさい! 〝オーケアノス〟!!」






 湖に昇っていた光が落ちる。全てが湖の中心に向かい、突如として巨大な水の柱を天高くあげた。


「風香さん。どんな事情があるかは知りませんが……レナさんとしっかり話し合ってはどうでしたか?」

「…………」


 空高く上がった水柱がおさまる。

 おさまった場所には、いつの間にか、人間にしては大きい、巨漢の大男が立っていた。


 大きさは四メートルはあるだろう。筋肉質な体に、何年も年を重ねてきたと思わしき面持ちだが、威厳のある面持ちにも見える。一番目立つのはその大量に生えている髭だろう。


「殺してはダメですわ」

「心得た。〈ヴォルテックプリズン〉」


 その老人が魔法を発動。

 いきなり渦潮が何も無いはずの地面から噴き出し、風香を囲んだ。


「これは!?」

「もう遅い」


 パンッ。老人が両手を合わせた瞬間。渦潮が風香を飲み込んだ。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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