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ヒスティマ Ⅲ  作者: 長谷川 レン
第六章 淵海曲
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迷いを断ち切り

視点リクちゃんに戻ります。



 ボクは森の中を走る。もはや日は完全に落ち、月が空に昇っている。

 その月は半月で、ツキの力が1.5倍になっていると言う。ツキは満月に近づけば近づくほど力が上がるのだ。


「邪魔です!」


 ボクはルナを一心不乱に振り、前方から迫りくる魔法生物達を全て斬り裂いて行く。

 ルナを使っているために魔法生物はいとも簡単に斬れていくのだ。


 魔法生物に対してルナを振り続けるので、今はツキの出番が無い。シラの役目も一応無いが、おそらく戦っているであろうレナとキリの仲裁をするために魔力は溜めてある。


 そして、しばらく走り続けていくと、その先に湖が見えてくる。

 すでに先程までぶつかり合っていたキリとレナの魔力が感じれず、ボクは冷や汗を垂らしていた。

 そして、レナとキリ以外の魔力を感じ、その魔力を解き放つのを感じる。魔法を発動したのだろう。かなり大きな魔法だ。

 湖のすぐそこまで来て、ボクは間に合うと確信して湖のほとりへと出た。


 すると、そこでは何者かが竜巻のような魔法を放っており、その竜巻の先がレナとキリへと向いていた。

 二人とも何やら言い合っていて、動く気配が無い。なぜかと思った瞬間、キリからほとんどの魔力を感じない事がわかった。


「シラ!」

『わかりました』


 ボクは溜めていた魔力を解放し、二人の前に魔法を発動する。


「〈氷柱〉!!」


 現れた氷の柱は、見事に竜巻の魔法を受け止め、壊れる事なく二人を竜巻から守りきれた。

 ボクはそれを確認すると、その二人の目の前に着地する。

 水しぶきが飛ぶが、考えては居られなかった。


「大丈夫ですか!? 二人とも!」

「リクさん!」


 レナがボクの名前を呼び、その表情は歓喜に満ち溢れていた。

 レナはまだ魔力がありそうだが、キリは……って。


「……キリさん。これ、つけます?」


 ボクはそう言って、指輪を見せるようにする。


「戻りたいのはやまやまだが、今戻ると俺死ぬんだよ……」

「え!? ど、どうしてですか!?」


 まさかレナがやったとは思えない。レナがキリに勝てるほど強いとは思っていないから。

 まぁ何はともあれ、来ている服が男物だったらボクは今すぐにでも指輪を外したいのだが。


 そんなことを思いつつも、ボクは先程風の魔法を放った敵を見る。

 そこには、ライダースーツに鎧をつけ、まるで侵入するために作られたような服を着た女性が立っていた。その手に持っているのはサーベルと呼ばれる刀の一種だろう。

 だが、そんなことよりもボクは驚く所があった。


「貴女は……レナさんの家で会ったメイドさん?」


 ボクの記憶では、確かレナの専属メイドとやらの人だったような気がする。

 なのになぜ彼女が風の魔法を使ってレナを?


「リクさん。風香が、校舎内に潜入していたって言う敵、ですわ……」

「え? 風香さんが!?」


 レナにそう言われ、驚く。確かにあの服は潜入目的に適する服だ。アサシンだとボクは聞いていた。そして、あの服はイメージにぴったり……。


「ホント……なんですか?」


 ボクはレナにではなく、湖の端にいる風香にそう聞いた。


「本当ですよ。私は暗殺者(アサシン)。何年も前にこちら側に付いたのです」


 風香にそう言われ、ボクは手に籠る力が弱くなる。

 レナが彼女の事をよく知っていた事から、他の召使いよりも厚い信頼を得ていたような人だったような気がする。レナが呼んだ時はほとんど彼女しか呼ばなかった事からもわかる。

 その彼女とレナが戦う。どれほど辛い事だろう。

 ボクはそう考えて、ルナを構えてレナ達よりも数歩前に出る。レナはおそらく戦えないだろう。だからボク一人で戦う事にする。


「リクさん、わたくしも……」

「いえ、レナさんは休んでいてください。辛いでしょうから」


 ボクはそう言ってレナを止めるが、レナは無視してボクの隣へと並んだのだった。


「やらせていただきますわ。身内なんですの。ルクセル家の長女として、けじめはしっかりと付けさせていただきますわ」


 いつものレナでは無い。そう感じた。

 彼女からとても強い意志を感じる。何かを決断したような、そんな意志。これ以上ボクが言うのは野暮と言う物だろう。

 ボクは何も言わず、隣にレナが立つ事に異論を唱えなかった。


「それじゃあ、俺は向こうの方で見てっからな」


 キリがそう言うと、ゆっくりとだが、風香と反対側の湖の岸へと向かっていく。

 ここが湖の中心に位置するのでどのルートに言っても問題は無いのだが、魔力が無い今は魔法生物にやられてしまう恐れがある。ボクはその心配をして、魔法を放つ。


「〈氷柱〉」


 氷の柱が、キリの向かう方面の森の隙間を縫うようにして現れる。これでそちら側から魔法生物が来る事は無い。


「リクさん。前に家に来た時、お父様のお話をした事があると思いますわ」

「ありましたね。確か、普段は優しいのに、進路の話になると……」

「えぇ。仙ちゃんに言われて気がつきましたわ。しっかりと、強い意志を持って、自分の進路を決めさせてほしい。迷っているからダメなんですわ。わたくし」


 自白のような話を、ボクは黙って聞き続けた。


「他人から見たらしっかりとしている人に見えたかもしれないですわ。でも、わたくしは迷ってばかりですの。リクさんは、迷った事はありますの?」


 レナにそう聞かれボクはこれまでの事を思い出す。

 だが、自然と、どんな時でも迷ってはいなかったような気がする。

 だからボクはこう答えた。


「信頼している人がいる限り、ボクは迷ったりなんかしません。だって、その人達を困らせたくないから。まぁ、ボクって結構勘で動いている時ってありますけどね」


 あははっと笑いながら答えると、レナは羨ましそうに見ていた。


「そんな人だからこそ、仙ちゃんも気になってしまうのかもしれないのですわね……」

「はい?」


 何故そこでキリの名前が出てくるのかと疑問に思うが、レナは話す気が無いのか、答えてはくれなかった。

 そしてレナは、おそらく一番訊きたかった事だろう言葉を口にした。


「リクさん。迷ってばかりのわたくしでも、力になって欲しいと思いますの?」

「もちろんです。だって、ボクはみんなと一緒にいたいですから」


 笑顔になってそう言うと、レナがほほ笑むようにして、真剣な面持ちに戻る。


「ならばわたくしも、覚悟ができましたわ。リクさん。しばらくの間ですが、風香を止めて欲しいですわ。決着は、わたくしが付けますわ」


 レナが、風香へと真剣な瞳を向ける。

 ボクは、しっかりとわかるように頷いて、ルナを握る手に力を込める。


「神様の声が、聞こえたんですね?」

「えぇ。しっかりと」


 ボクはレナの言葉を耳に残し、水しぶきをあげて走り始めた。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

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