校舎前
視点はレナさんです。
「おい、こっちだ!」「くっ、こいつらどこまでついてくるんだよ!」
わたくし達のチーム以外の生徒と合流後、後ろから追ってくる魔法生物を卒業生達が押さえながら校舎へと向かっていく。
校舎はすでに目の前にあり、数分もあれば校舎内へと入る事ができる。
後ろから追ってきている魔法生物は先ほどよりも量が少なくなっているのが目に見えてわかる。おそらくリクやマナ、ソウナが頑張って減らしてくれているのだろう。先程から校舎より離れた場所から感じる大きな魔力が続けて放たれている。
それが三か所から感じるのだが、わたくしはその事に疑問に感じた。
感じる場所はベクサリア平原。ベクサリア森林。そしてベクサリア平原よりも近くに来た場所だ。
本当なら四か所から感じるはず。なぜなら外にはリク、マナ、ソウナともう一人、ルーガがいるはずなのだ。
「レナちゃん! 早く来て!」
「え、えぇ。わかっていますわ……」
わたくしはアキに呼ばれて遅くなっていた足を早くする。
すると……。
『うわぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!』
前から悲鳴が聞こえてきた。
「何!?」
「……前で何かあった」
「君達。離れずについてきてよ!」
ギンにそう言われ、わたくし達は群がる生徒達がいる一番後ろに着く。だが、もう少しで校舎内に入れたはずの生徒達は身をひるがえして後ろへと走った。
「何が起きていますの!?」
「まさか……」
先に鏡を配置したギンはその鏡を通して前の状況を見ていたのか、口から言葉がこぼれた。
「校舎内に魔法生物がすでに入っている!?」
「魔法生物が校舎内になのね!?」
生徒達が後ろへと走って行く中、後ろからも当然魔法生物がいるためにその場に踏みとどまってしまった。
あるいは腰が抜けて地面に座り込んでしまった者もいる。
「今いる卒業生は魔法生物を撃破して後輩を守れ! 動ける生徒は卒業生を援護してくれ!!」
ギンがすぐに指示を出して混乱していた卒業生はすぐに動き出した。向かってくる魔法生物に魔法を放つ。生徒達の大半が怖がって魔法を乱射する。まともに放っている生徒がどれだけいるというのか。
そしてその中で白夜は魔法生物に向かって正確に銃槍を構えて撃ち、一体一体正確に倒している。アキは〈弱体化・耐水〉やら、〈弱体化・耐火〉などを使って魔法生物を弱くさせる。
ハナは完全な戦力外。なぜなら、真陽の結界が解けてしまっては罠魔法が使えないのだ。そう考えると、白夜が陰属性の魔法を使わないのは闇系統の魔法が弱体化したせいかもしれない。
その中でわたくしは、水の槍を発動させて魔法生物を攻撃していく。
「〈ウォーターランス〉!」
水の槍はイノシシのような魔法生物に当たるが、イノシシは一瞬怯んだ後、再び突進してきた。
「つ、強いですわ。〈レインクラスター〉!」
水の爆破魔法を使い、イノシシがそこに突進してきた。だがイノシシはそれを無視して突っ切ってきたのでわたくしは少し驚く。
だが、次の瞬間には白夜が撃ち抜いていて、イノシシはその場に倒れて消えていった。
「すごいですわ……白夜さん、一発だなんて……」
「……そんな事ない。……レナが体力を削ってくれたおかげ」
白夜はそう言うと、次の魔法生物を狙う。
わたくしも次の魔法生物を狙うが、ふと、屋上に光る物が見えた。そしてハテナを浮かべたその次に。
――空から銃弾の雨が降り注ぎ、周りにいた魔法生物を全部、同時に撃ち抜いて消した。
「え?」「一体何が……?」「おい、まさかこれって……」「そうだ! 絶対に【暗黙】に違いない!」「ライフルなのに同時とかあいかわらずすげぇ……」
卒業生が何が起きたのかわかると、友達の内で誰かの話を始めた。
「い、今のってライフルで撃ったの!?」
「そうだよ。彼女、【暗黙】のヤミはライフルを顕現するんだ。それもボルトアクション式のね」
そう言うと、ギンが鏡を屋上にまでジグザグに配置させて話した。
「ありがとう。助かったよ」
『ぎ、ぎぎぎギンさんですか!? そそそんな事ないです! す、すみません……』
鏡から聞こえてきたのは何やら慌てたような女性の声だった。最後はなぜか謝っていたが。おそらく、彼女が【暗黙】のヤミなのだろう。
「できたら、どうして中から魔法生物が出てきたのか教えてくれないかな?」
『ご、ごめんなさい……。こ、校舎の中からですか……? 校舎内に入った魔法生物はいないはずですが……。す、すみません……』
校舎内に入った魔法生物がいない? それならば何故中から魔法生物が出てくるのだろうか。
『で、でも、私と一緒に行動していた怖そうな生徒さんが視聴覚室にすでに敵がいるって……。そ、それで、真陽先生ともう一人の英名が閉じ込められてるって……。こ、これぐらいしかわからなくて、すみません……』
「なんだって!? 視聴覚室に!? 先程から通信が繋がらないのはそのためか!?」
『ひっ。ご、ごめんなさい……』
ちょっと涙声になったヤミが声を大きくしたギンに謝っていた。
「その生徒は!?」
『じ、自分はそんな事が出来る人を知っているって言って視聴覚室に入って行きました……。ご、ごめんなさい……。わ、私、彼に屋上で他の人の援護をしてやれって言われまして……。す、すみません……』
「なんだって!? まだ生徒なんだろう!? 後輩なんだ! そこは生徒について行ってやらないと!」
『ご、ごめんなさい……』
ギン達が話す中でも襲ってくる魔法生物。屋上からの援護が来ないので他の卒業生が対処しているが、数が先程よりは少ないので何とか対処が出来ていた。
「あの~」
二人の会話にアキが申し訳なさそうに手をあげた。
「なんだい?」
「その生徒の特徴、わからないかな? 私、いくらか思い当たる人がいるんだけど」
『そ、それなら雷属性を使うアーマメントで、制服を着崩していて、私の〈フォロースフィアガン〉を集中で受けてもピンピンしてて……実はダメージが通っていないんじゃないかって思いまして……す、すみません』
初めの雷属性を聞いた時にある程度予想。アーマメントでほぼ確信。制服と集中で受けてと言った所で決定した。
誰がどう聞いてもわたくしの幼馴染。【一匹狼】仙道キリだろう。
彼ならばそのくらいをやってのける気がする。
「だったら、しばらく安心して良いよ。視聴覚室に向かったのはこの学校の問題児」
((((あんたが言うな!!))))
此処にいた生徒の誰もがそう思った。
「【一匹狼】は一人で獲物を狩っていたの。ここにリクちゃんが来るまではね」
「リク? 一学年主席が確か……」
ギンが確かめるように呟く。
わたくしは、視聴覚室の場所を見る。そこは明かりがついていて、カーテンが閉め切られている。そのために中で何が起こっているかがわからない。そして、キリが知っていて、卒業生に手伝わせないという敵は……。
――わたくしも知っているという可能性があり、常識が通じない敵。
(漆原竜田……)
戦っている音が聞こえないのは壮大な距離を作ったから。それだけで全て説明がつく。
わたくしは確かめるようにして視聴覚室の窓に向かう。
そして、窓を開けようと手を伸ばすと……予想通り、手が窓に当たらずに前で消える。
「これは!?」
「距離をとても長くしているんですわ。これで仙ちゃんと戦っているのが竜田だと言う事がわかりましたわ」
「距離を!? そんな魔法……」
「リクさんの魔法を見たでしょう? 常識ではこの相手に勝てませんわ」
そう。いつまでも常識にすがりついていては……。
竜田がいる。ということは悪魔を使う人達が敵。
英名二人は動けない。敵が何人いるかわからない。
――わたくしはこんな所で油を売っていていいのだろうか。
神を呼べる。呼べる状況なのに呼ばないのは、姫様の言葉だった。
――神使いとなる覚悟があるならば、海流の名を呼びなさい。覚悟が出来て、そして本当に必要になった時、自然とその名が浮かび上がるでしょうから。
名がわからない。覚悟が出来ていない証拠。
覚悟って…………何?
この章は視点がかなり頻繁に変わります。
どうかご理解をいただければありがたいです……。
誤字、脱字、修正点があれば指摘を。
感想や質問も待ってます。




