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ヒスティマ Ⅲ  作者: 長谷川 レン
第一章 何気ない日常
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一瞬の鍛錬

視点はレナ・ルクセルさんです。



「御馳走様ですわ」


 食事終わりの挨拶をして、わたくしは席を立つ。


「レナ。宿題があるなら終わらせておくのだぞ?」

「ふふ。大丈夫ですわ。すべて終わって……」


 そう言いながら、わたくしは最初の行事である魔石争奪戦の事を思い出した。


「どうしたんだ? 何かあるのか?」

「いえ……。なんでもありませんわ」


 お父様に稽古をつけてもらいたかったが、会社が忙しいと思うし、時間をさける事は出来ないだろう。

 わたくしはお父様に一礼をしてから食堂を出る。数人のメイドがついてくるさなか、一人のメイドが近づいてきて声をかけた。


「よろしいのですか?」

「大丈夫ですわ。その代わり、風香さん。頼めますの?」

「もちろんです。レナ様」


 綺麗に礼をする彼女はわたくしの専属メイド。わたくしが小さいころから専属メイドとして働いている人である。年は46歳らしいのだが、実際に見てみると二十代以上、三十代以下にしか見てとれない容姿だ。

 だが、それが普通だった。魔力を持っている者ならば、四十代でそれくらいに見られることは当たり前なのだ。


 わたくしは家の外に出ると、歩く事数分で敷地内にある湖についた。

 先祖代々水系統の魔法を得意とするため、水を使った何かが近くになければいけないのだ。ルールで決められているわけではないが、それがあればもし自分の家に襲撃を受けても得意なそれで反撃に出る事も出来るからだ。

 ちなみにわたくしの家の敷地内にあるのは湖と噴水、そしてプールぐらいだ。噴水は外にはもちろんの事、家の中にまである。

 着いた湖の広さは家一つ分。ところどころに島が作られているのでそれを足場にすることができる。湖の深さは人の腰辺りほどだ。


 わたくしは、その湖の中心へと移動する。下半身が濡れるが水を使う者にとっては何の苦でもない。後で水気だけ飛ばせばいいだけの事である。

 そして、両手を広げ、魔力を解放して自分の声にこたえてくれる友を喚び出す。


「我が名はレナ。水を司る〝ウィンディーネ〟。我が声を聞き、我が前にいでよ」


 すると、傍の水が膨らんできて、はじける。

 中から出てきたのは半人半魚である可愛らしい人魚のような娘。でも、他の人からは水が形作っているとしか見えない。精霊は契約している本人しか本当の姿を見せないのだ。


「わたくしの鍛錬。付き合っていただけませんこと?」


 頭に手を乗せて撫でていると、ウィンディーネは嬉しそうに首を縦に振ってくれた。


「そう。ありがとうござますわ」


 頭を撫でていた手をどけると、湖の島に降り立つ風香を見る。

 手にはサーベルのような武器を持っている。彼女の武器だ。すでに魔力解放、そして武器の顕現まで終わらせているようだ。


「それではレナ様。手っ取り早く強くなるためには実践を多くする事です。私はアドバイスこそすれど、手加減はしません。よろしいですね?」

「えぇ。十分ですわ」


 それを聞いた彼女はサーベルを振るう。すると風の刃が迫ってくる。

 わたくしはそれをあえて避けずに水の壁を張る。


「〈ウォーターシールド〉!」


 ここは湖の中心。辺り一面は水だから相性関係の無い水と風ぐらいならば防ぐ事が出来る。

 予想通り、風の刃は水の壁に妨害されて威力を無くし消滅する。


「〈ウォーターランス〉!」


 今度はわたくしが魔法を放ち攻撃。風香の八方から水の槍が襲う。

 風香は跳んで他の島へと避けるが着地する寸前にわたくしがまた魔法を放つ。


「〈レインクラスター〉!」


 雨のような水が襲う。それは水の中では貴重な爆発系の魔法で、魔力はそれなりに使うが範囲が広く、避けることは困難。


「着地を狙う……良い事ですが威力がありません。〈ストーム〉!」


 それを風香は魔法を発動して防ぐ。

 身を纏うように風の渦が出現して〈レインクラスター〉をすべて無力化。その後に〈ストーム〉をわたくしに向かわせた。

 渦となって接近するそれはこれまで一度として防ぐ事が出来なかった魔法。


「くっ。ウィンディーネ!」


 私は精霊に与えている魔力をさらに強くして発動している〈ウォーターシールド〉の発動と先ほどとは違うほどの魔力で強度を増す。今日こそ防ごうと、強度を出来るだけ強くする。

 〈ストーム〉は〈ウォーターシールド〉に激突し、今のところはヒビも入らず防げていたが……。


「まだまだですね。魔力の線の先までしっかり意識できていません」


 ほんの少し。魔力の力が増しただけ。それなのにそれまで防いでいた〈ウォーターシールド〉がいとも簡単に砕けてしまった。

 わたくしは迫りくる風の渦を水の中に避難することで回避。ウィンディーネの力で水の中で呼吸ができたり、早く移動する事ができるので潜り続けてもいいが、ここは浅すぎて上から丸見えだ。単なる緊急回避でしかない。


「ぷはっ。はぁ……はぁ……」


 水が髪をつたって落ちる。手で目元の水を拭う。

 わたくしは考える。たった少しの魔力を込めただけで〈ウォーターシールド〉が簡単に壊れることはありえない。魔力は関係ないのだ。

 風香が言った魔力の線の先。それしか情報はなさそうだ。

 魔力の線……。おそらくそれは魔力供給線。その先まで意識する……。

 毎回この言葉を聞くけど未だに意味がわからない。

 ウィンディーネが心配そうに顔を覗いてくる。わたくしはウィンディーネの頭を撫でて大丈夫な事を伝える。


「今日はここまでですね。お風呂の準備はできております。レナ様」


 ほんの少しの攻防。それだけなのにここまでと言う風香。だが、それはわたくしの身を案じてだ。

 初めのころ、〈ストーム〉を回避出来なくて直撃を受けた。危うく、意識が飛ぶところだったが見ていたメイドの一人が補助(アシスタント)なのですぐに回復してくれた。それから風香がお父様に怒られたために次からは〈ストーム〉が決着の合図となってしまった。

 それ以外の練習は学校の午後の授業でしている。


「わかりましたわ……。風香。付き合ってくれてありがとうございますわ」

「いえ。レナ様に頼っていただくだけでも私は幸せです」


 深く頭を下げる風香。わたくしは湖から上がり、魔法で水気を無くしてからウィンディーネを還した。

 まだまだ足りない……。風に負けているようじゃ、到底雷を使う幼馴染に勝つ事が出来ない。

 せめて魔力の押さえられた〈ストーム〉ぐらいは防げるようにならなければ……。


 〈ストーム〉は中級魔法だが魔力がかなり押さえられてるので初級魔法でも防げるレベルだ。魔力だけで考えると。

 ……お風呂に入りながらでも魔力を解放して魔力コントロールを上達させなければいけないかもしれない。


 期限は一週間。『魔石争奪戦』の時だ。

 魔石争奪戦の順位によって成績が大きく上下する。残っていた時間とかも成績に関する。

 だから少しでも長く生き残り、それでいて魔石をたくさん奪わなければいけない。

 わたくしのように、日常の中にこうして練習をする人は数多くいる事だろう。

 それがリクのような学年主席ならばなおさらである。


 ……リクは練習をしなくても神の力を持っているのだからする必要はないと思われるが。

誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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