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ヒスティマ Ⅲ  作者: 長谷川 レン
第五章 魔石争奪戦
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チーム:スレイヤー


 視界が開けると、そこは広い高原だった。周りを見渡してみるがボク達のチーム以外、誰一人としているような気配は無かった。


「……これなら、探知結界を張る必要はないわね」


 ソウナが溜めていた魔力を納める。


「確かに、これなら目視で十分だね。転送された瞬間に〈インヴィジブル〉なんて使えないし。余計な魔力は使いたくないもんね」


 アキがそう言うので、ボク達は周りに誰もいない事を確認する。

 〈インヴィジブル〉は透明になる魔法。視認ができなくなるだけで、そこに居るし触る事もできる。ただ、匂いも消えるので見つけるならば探知結界をしなければいけないのだ。


「でも、ここは広すぎだからこのまま湖のほとりに行こう。こんな所でスナイパーに狙い撃ちされたらたまらないからね」


 そう言うと、アキが近くの森に向かって歩き始めた。


「あれ? そういえば、生徒の中にスナイパーを顕現する人っているんですか?」

「いるよ。それも三学年次席。【無音】の耀(あかる)。私の情報だと彼女は四人チーム。チーム名は『スレイヤー』だったような気がした」


 さすがアキだと思う。ここまで情報を集めているとは思わなかった。


「前衛は三学年五位の【護傭】の明石だけ。明石先輩は護衛目的の傭兵のような人だからたぶん【無音】は表には出てこない。他の二人も後衛でスナイパーだった。どこか広い場所を見れる場所を探して――」


 そこまでアキが言った時、突然白夜がアキの目の前に躍り出て顕現していた槍を振るった。


 キィンッ! と甲高い音が鳴るのと、ガァンッ! と銃を撃った音が重なった。誰かがアキを狙撃しようとして、白夜がそれを防いだようだ。


「敵!?」


 方向からして今入ろうとしていた森の方から撃ってきたということだ。そして再び白夜が槍を振るうと、銃弾を弾いた。一発一発の間隔があると言うことは、ボルトアクションという一発ごとに薬莢を手動で変えなければいけない方式のライフルか何かだろう。


「……いつまでも防げない。……一発が重いから手が痛い。……アキ。……指示」


 白夜が手をもう片方の手で押さえながら言う。


「う、うん! マナちゃん! 炎の壁を作って!」

「わかった! 〈フレアウォール〉!」


 アキが慌ててマナに指示をすると、マナが炎の壁を出現させる。

 そうすると、パタリと銃撃が納まる。炎の壁だから魔法は防げても銃弾はつきぬけると思われるのだが……。


「どうして、撃って来ないのでしょうか?」

「簡単よ。相手も魔力が惜しいんでしょう。〈フレアウォール〉は視界が揺らぐから外す可能性も高いのよ。でも、一番の理由は魔力弾だからじゃないかしら?」


 なるほど。銃弾は魔力弾を使っているのか。それなら魔力が惜しいはずだ。実弾なら〈フレアウォール〉を突き抜けれたが。

 それよりもボクは、先ほど撃っていた人をどうするかアキに聞いた。


「あの、今撃ってた人。かなり大きなライフルを持ってた女の人でしたけど、どうするんですか?」


 ボクの目が確かならば、大人しい感じのする顔の女の人だった。


「え!? リクちゃん見えたの!?」

「はい……。だって撃つ時、銃口の光が見えましたから。そこを注目してみたら見えまして」


 ここから森までそこまで……大体一キロぐらいしか離れていない。だから目視できる。ボクの目はかなりいい方だから。

 今は炎の壁が邪魔をして見えないが、今も魔法を解く隙を窺ってライフルスコープを覗いているのだろう。


「なら……。白夜ちゃん。後何回ぐらいなら銃弾防げる?」

「……二回。……それ以上は槍が持てない」


 白夜が手の具合を確かめながら言う。


「二回かぁ。さっき二回撃ってきたけど、それが最速だったら……ここから走って三回は撃たれる……」


 やはりきついだろうか。ボクには銃弾が見えなかったので白夜のように弾く事が出来ない。防ぐ手段が無いのだ。


「マナちゃんの魔力も持たせたいから……。リクちゃん。何とか一回は防げない?」

「すみません。ちょっと難しいです」


 防ぐ手段が無いと聞くと、アキはまた考え始めた。こうしている内に狙撃していた人が逃げてしまうのではないかと思われたが……その心配は無かったようだ。


「ふん!」


 ブォンッと音がして炎の壁が切り裂かれる。


『!?』


 〈フレアウォール〉を切り裂いた男のネクタイを見ると、緑のチェックが入っている。つまり三学年だ。ちなみに青のチェックが一年で黄色のチェックが二年だ。


「ん? お前、一学年主席のリクじゃないか。じゃあ耀の銃弾防いだのはお前か? ……の割には武器を持ってないが」


 男の先輩が剣を再び構えながら言ってくる。そして、その男の人から先程訊いた名前が出てきた。


「耀? ということはアキさんが先程言ってた四人チームね。前衛は明石先輩しか居ないと言うところかしら?」

「へぇ。さすが【情報師】がいるだけなことはあるな。俺らの事は筒抜けか」


 肯定した所を見ると、アキが言ったことは本当だったらしい。


「マナちゃん! すぐに魔法を張り直せない!?」


 その状況の中でアキはマナへと指示を送る。


「また同じ魔法か? そういうことは俺がさせないな!」


 明石が剣を振りかぶってマナへと突進し始めた。その間を、白夜が横入りして止めた。


「……行かせない」

「さっき銃弾を止めたのはお前か。名前、なんて言うんだ?」


 明石は白夜の事を知らないらしい。白夜は実力を隠しているし、知らないのも無理はないだろう。


「リクちゃん! その間に後衛の耀と二人を倒しに行って! 三人の誰かが魔石を持ってれば明石先輩も無力化できるから!」

「わかりました!」


 白夜が明石を止めていてくれる事を願いつつ、ボクは脚に力を込める。


「耀の所へつけたらいいな! その間に狙撃されるのがオチだ!」

「……そんな事ない。……リクちゃんなら狙撃なんて簡単にかわせる」


 勝手にボクが避けれるなんて言わないでほしい……。明石が「ほぅ」とか言いながらボクの方をチラ見してくる。


「ハナは下がって! レナちゃんと私で明石先輩を押さえる! マナちゃんとソウナちゃんはリクちゃんを援護!」


 アキの的確な指示により、それぞれが動き始める。

 レナが水の魔法〈ウォーターランス〉で攻撃し、そしてアキが妨害魔法〈アンチ・マジック〉をして魔法による耐性を下げる。。


 指示されてすぐに動くアキやレナに驚きつつも、明石は剣を振るって対処するが、それは白夜に止められた。

 邪魔だと思いつつも白夜と武器を交えていると、水の魔法やアキの妨害魔法が明石に直撃する。


 ボクはそれを流し眼で見るだけで、本命である耀へと向かって全速力で走る。身体強化魔法を使っているのでその速さは風を置き去りにして進む。自分の魔力だけしか使っていない為に音速は出ないが、それでも生徒達の中ではかなり早い方だと思われる。

 そのおかげで、驚いたのか半分ぐらいまで走ってもまだ銃撃が来なかった。

 完全に人の姿が目視できると、全部で三人がこちらを覗いていた。おそらくあれが耀のチームなのだろう。ボクは更に走るスピードを上げる。


 その中でいつまでもこうしてはいけないと言った風に、スコープを除き、ライフルの引き金を引く生徒が一人。ボクはその銃口の射線上から動き、弾丸を避ける。避けられた事に驚きながらもボルトアクションのボルトを引き、もう一発撃ってくる。それも同じように回避。

 焦りを感じて覗いているだけの二人に早く撃つように指示する。ボクはそれらを見ずに直線状に居る女の人だけを見て走る。案の定、慌てていた二人が撃った弾はボクが避けずともかってに外れていった。


 ボクはその間に身体強化魔法を脚と手だけに集中して、ボルトを引くのに手間取っている女の人に向かって、思いっきり跳躍した。


「くっ。これが一学年主席!?」

「すみません。ボクの勝ちです」


 ライフルを横に構えて盾にするも、ボクの強化された拳がライフルを避けて女の人のお腹へと直撃した。息を吐き、木に撃ちつけられた彼女はどうやら木を失ったらしい。ボクは心で謝りながら、両側に居た二人も同じようにして体術だけで沈めさせる。

 マナとソウナの支援が無くてもいけた事にボクはホッとする。魔力を温存できたと。

 それから、唯一女の人であった最初に沈めた人。つまり、耀さんの制服をまさぐるが、魔石は出てこなかった。

 他の二人が持っているのだろうかと思いながら制服をまさぐっても魔石は持っていなかった。つまり……。


「明石先輩が魔石を?」


 ボクはそう呟き、まわりに注意を払いながら耀が持っていたスコープを使って元の位置を見る。すると、さすがに一対五は分が悪かったのか、明石が沈んで魔石を持って喜んでるアキの姿が見られた。


「何とか、一つ目のチームには勝てましたね」


 誰に言うまでも無く自分にそう言って、転送されていく耀と他の二人を見ていた。


(これが24時間続く……。頑張らないと)


 緊張と不安を感じながら、ボクはそう思った。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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