開始
『私は初めから終わりまで、この第一闘技場から動くつもありはありませんので、卒業生、先生方含め、私に一太刀でも浴びせたいと言う人は是非とも、この第一闘技場に来てください。終わった後、私との戦闘で傷ついたり、使った魔力は回復させるので安心してください』
禅幣ルーガ。ボクの母親であるロピアルズ総司令のカナの補佐。今日の服は動きやすさを重視してか、薄着のバトルドレスのみだった。ところどころ肌が見えているが、決して色気を感じさせない。それは彼女自身から滲みでるオーラの所為でもあった。
「お、おい。まじかよ……」「どうしようか。魔石盗られないって言うし……」「俺、ちょっと挑んでみようかな?」「私達、行ってみない?」「そうね……。一度は挑んでみましょう」
それぞれの生徒達が動揺する中、ルーガに挑んでみようと言う生徒が続出した。それもそうだろう。戦っても何のリスクも無いし、何より、戦いが終わった後、回復をしてくれる。
魔石争奪戦で一番重要なのは魔力。魔力切れになってしまえば前のマナの如く、戦力外となってしまい足手まといとなる。だからこそ、それぞれのチームに魔力を回復するための魔法薬を人数分用意されている。だが、人数分なだけあって数が少ない。
他にも、それぞれのチームに回復薬が人数分×2あったり、戦争のときに使うと言われている食べ物も用意されている。
戦争というのは、この国は無いという。理由としては、ここライコウは自由国であるため、他の国が攻め入る必要が無いのだ。いくら力を持っている人がいるとしても、無害である事を知っているから。
『あぁ。お前ら少しは静かにしないかぁ。今日は、私と同じ立場で戦場を見てくれる人もいるんだよぉ』
真陽がマイクを持ってそう言うと、その同じ立場で戦場を見る人とやらを探し始める。すると、真陽が小首を傾げ始めた。
居ないのだろうか? そう思い始めたころ、何やら空からヘリが飛ぶ音が聞こえてきた。
その音が聞こえてくると、探していた真陽が突如、げんなりし始めた。
「なんだなんだ?」と、生徒達が空を見始める。
ボク達も空を見ると、そこには確かにヘリが飛んでいた。何やら『R.A』と書かれたマークがヘリの扉へと書かれていてそのヘリがこの第一闘技場の真上へと静止した。
そしてガララッと勢いよく開かれる扉。「とうっ♪」と何やら可愛らしさを備えた少女らしい声が聞こえると、白銀の少女がヘリから飛び降りてきた。そしてボクは嫌な顔一つせずにはいられなかった……。
肩を叩かれる感触がする。
「ど、どんまい~……」
マナの同情するような言葉と共に、白銀の少女が「すちゃ♪」とか言いながら綺麗に着地する。
……そう、生徒達が避けたその中心に。
『紹介するよぉ。私の古くからの親友、ルーガの上司。二つ名は言えないがぁ、ロピアルズを動かしているロピアルズ統括者。赤砂カナだよぉ』
「はぁい♪ ロピアルズを動かしてるカナちゃんだよ~♪ 今日は真陽ちゃんの招待を受けて参上しちゃいました♪」
笑顔で手を振る母さんに。
「何をやってるんですか!?」
叫ばずには居られなかった。
「あら♪ リクちゃんおはよ~♪ 朝はとても眠たそうだったわね♪」
「ボクの質問に答えてくださいよ!!」
「何って……ヘリからの紐無しバンジージャンプ?」
「いや、それただのジャンプじゃないですか! ってそういう意味じゃありません!! どうしてこんな所に居るんですか!?」
「招待を受けたからよ♪」
「招待!? そんなにいつ受けたって……」
そこまで言ってからハッとして思いだした。
一週間ぐらい前の夜。ボクが空白属性という希少な魔力を使えるという事で忘れていたが、母さんは真陽に何かしらの封筒を渡して怪しい話しをしていた。
もしかして、その封筒に入っていた物が……。
「カナさんが真陽さんに渡していた封筒って招待を受けたっていう紙だったのね……」
ソウナが頭を押さえて「まったく気がつかなかったわ……」と小声で呟いていた。
そうしていると、何やら生徒達の間にどよめきが沸き立つ。
「ろ、ロピアルズの統括者だってよ」「ま、マジかよ……」「なんで今日はこんなにVIPが多いんだ?」「逆にいいとこ見せれで将来安泰になるわよね?」「それより、どうしてリクちゃんが叫んでるのかな?」「知り合い?」
このどよめきを誰かしらが納めてくれないだろうか……。
『えぇ。みんなも知ってる、天童リクの事だがぁ。今日付けで名前を赤砂リクに戻すよぉ。嵐も去ったからねぇ』
「え!? ちょ、真陽さん!?」
真陽がそう言ったために、生徒達が更に動揺する。
赤砂と聞いて、生徒達は驚いて固まってしまった人もいる。先ほどロピアルズ統括者で説明されたカナの名字と同じなのだ。この国で一番大きい組織の子供である事を暴露されたということだ。
ちなみに、名前を偽ったりするのはヒスティマでは特に気にすることではない。
「みんな♪ 私のリクちゃんを可愛がってる?」
『もちろんです!!!!』
動揺や固まっている人でもこれには答えれるようだ。目頭が熱い。涙を流したくなってきた。
「え? え? リクちゃんってロピアルズ統括者の娘だったの!? これは大スクープだよ!」
「そうなのね! 来週はきっと倍近く売れるのね!」
喜ぶ二人。
「真陽さん。結構軽いノリで暴露したわね。リク君。ドンマイ」
「まぁ嵐が去ったって言うのはホントの事だからね~。これからのリクちゃん、大変そうだな~」
同情してくれる二人。
「さすがカナ様ですわ! あれだけ統一性の無かった生徒達を一言でまとめあげましたわ!」
何やら違う方面で盛り上がっている一人。
「……カナ、真陽。……グッジョブ」
無表情でグッとを作る一人
「クハハハハ! は、腹イテェ」
笑いこける一人。
どうやら、ボクに味方は二人しかいないようだ。
「あれ。それよりキリさん。どうしてここに居るんですか?」
先程まで笑っていたのでボクは冷たい声で訊いた。
「まぁ、そう怒るなよ。たまたま近くにお前がいたから来ただけだっつの」
腹を左手で押さえながら言うキリ。今すぐどこか行けばいいと思う。
『それじゃあカナちゃん、こっちに来てもらえないかぃ? そろそろ魔石争奪戦を始めたいんだがぁ』
「りょうか~い♪」
母さんがそう言うと、一瞬でその場から消え去り、真陽の隣へと笑顔を浮かばせながら鎮座していた。
生徒達がそれを見て驚きながら真陽へと向き直った。あと、母さんがテレポートしたかのように動いた後、近くに居た卒業生が驚きを隠せなかった。
『よし。それじゃあ、今から五分後に自動的に転送されるよぉ。武器の安全装置がちゃんと付いているか確かめて、ついてなかったら私の所に来なぁ。ついている事を確かめたら、準備をしなぁ』
そう言って、真陽が闘技場の土を踏む。
それから、数人が真陽の方へと近づいて行く姿が見受けられる。武器の安全装置がついていなかったのだろう。
武器の安全装置とは、生徒達が死なないように、刃の部分に魔法をかけて死なないようにするための物だ。そして、もう一つ魔法を受けても死なないようにするために、それぞれの生徒達自信にも魔法をかけておく。そうすることでけが人は出ても、死人は出ないようにしているのだ。
「アキちゃん。準備はいいのね?」
「バッチし! あとは……」
そう言いながらアキがボク達六人を寄せる。これで周りの人からはボク達のやり取りがわからなくなる。
キリは、アキが作戦をつたえる事を悟り、自分から離れていった。他の人の作戦など興味が無いらしい。
「この魔石。レナちゃんが持ってて」
「え? わたくしですの? アキさんリーダーですからアキさんが持っていなければいけないのではないんですの?」
確かに、魔石はチームに一つ配られていて、他のチームはリーダーが持っている。そして、それが当たり前だと思うのだが……。
「いい? 私が読唇術で話しているところを見た限り、リーダーが魔石を持っているのは一年と一部の二年だけ。三年とほとんどの二年はリーダー以外が持ってるの。先生達も、魔石をリーダーが持たなければいけないなんて言ってないでしょ?」
そういえばと思いだす。注意事項とか、先生の説明とかでチームのリーダーが魔石を受け取るようなことは言っていたがチームのリーダー以外に渡してはいけないなんて言っていない。
「それと、転送されたらすぐにソウナちゃん。探知結界を発動できるように準備しておいて」
「わかったわ」
「他のみんなも武器だけでも構えて置いて」
アキがそう言うのでコクリを頷き、言葉を紡いで自分の武器を顕現する。
ボクはまだ準備する事が出来ないが身体強化魔法を使うことぐらいはできる。これはコントロールする必要が無いので何分でも使えるのだ。開始直後に会ったら、最悪素手で戦う事になるだろう。
「だけど、もし会ったのが一学年五位の臼井白露のチームか、二、三学年一位から三位のチームだったら即退散。白夜ちゃん。一応テレポートの用意をしておいて」
「……場所は?」
「湖のほとりか、第二闘技場」
第二闘技場。確かそこは第一闘技場と同じ広さだが、第一闘技場と違って水が敷き詰められていて、足場はところどころにある島しかない。
アキが提示した場所はどちらも水がある場所。レナと、そして華属性が得意であるハナの戦力が増強するところだった。その代わり、マナが劣るがそこは魔法の連射力でどうにかなるだろうという話だった。
そうして話しが終わると、丁度よく体が光り始める。テレポートする合図だろう。
『それじゃあ頑張ってねぇ。魔石争奪戦、始めぇ!』
真陽のその声と共に、視界が真っ白になった。
誤字、脱字、修正点があれば指摘を。
感想や質問も待ってます。




