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ヒスティマ Ⅲ  作者: 長谷川 レン
第三章 世界の変異
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拉致(二回目?)

しばらくレナさんが視点です。



 キリの家につくと、玄関にはなぜかメイド服を着ている弦の姿があった。ジーダスにいたころの姿は知らないから、わたくしにとっては違和感など無く、背の高い女性として見えるが、男の時の姿を知っているキリには初め一体どうやって見えたのか聞いてみたくもなった。


「……目覚めたのか?」

「違う!! 男の体がよくわからん魔法で力が入らねぇから仕方なくだ!!」


 キリは弦の開口一番の言葉を予想しているかのように返した。その様子を見ていたルナと姫様は二人で笑っているのを隠しているようにしていた。

 今のキリと弦の二人組を見ればどちらも宝塚に出てきそうだし、キリの姿は、女のわたくしとしてはとてもうらやましい部分があるのだが……。キリはリクよりも女になる事を拒んでいるし、仕方ないだろう。

 リクは順応してきているというか……慣れてしまったというか……。ともかく、自分が女になることはもう大体諦めてしまっているようだ。

 それでも女といわれると少々怒ってしまいがちだが。


「よくわからん魔法……な。まぁいい。お帰りなさいませキリ様。夜食と飲み物の準備はできております」


 メイドらしく一度頭を下げる弦。先ほどの口調からは信じられないが、表面上はこうしなければいけないのだろう。

 それよりも、わたくしはキリが自分の家に連れて行くという事が初めから決まっていたようだ。


「ほら、さっさと入れ」


 靴を脱いでキリが誘う。その間、弦がずっと玄関を開けている。


「邪魔するかのぅ」「お邪魔します」「お邪魔いたしますわ」


 靴を脱いで、電気がついている廊下の奥へ行くキリを追っていく。

 すぐ近くの部屋へと入ると、綺麗に片付けられているリビングへとついた。

 ソファに挟まれたテーブルには少しのお菓子と冷えた飲み物が揃っていた。

 夏場であるこの季節は夜は蒸し暑いのだから、たまったものではない。

 そして、リク、ルナと向かい合うようにわたくしとキリが座る。

 それからキリは弦に今日はもう休むよう言ったので、弦は先にお風呂に入って寝る事にした。


「さて……何からお話いたしましょうか……」


 いろいろと話さなければいけない事があるだろう姫様に、キリがある提案をする。


「とりあえず、呼び名は聞いたし、守護十二剣士って奴の事や、お前の事。あと、できたら俺達へのアドバイスをくれねぇか?」

「アドバイス?」


 小首を傾げる姫様。わたくしも何のアドバイスなのかがわからなかった。


「あぁ。今の俺達の力じゃ、悔しいが、お前の足を引っ張ってばかりだ。そんなのは俺は許せねぇ。だから強くなるためにお前から見た俺達へのアドバイスが欲しいんだよ」

「そうですね……。ならば、その話しは説明がほぼ終わってからでいいでしょう。貴方の覚悟は本物みたいですし」

「妾はリクと契約した身じゃから付き合うぞ?」

「もちろんです。この子も、数多くの神様と居た方がとても強くなれる」


 それから、姫様はわたくしの方へと顔を向けてくる。


「貴女の覚悟をまだ聞いていませんでしたね」


 姫様の言葉を真正面から受け止め、わたくしは心臓が跳ねるようにして鳴った。

 わたくしはついて行ってもいいのだろうか? キリやリクのように特別強いわけでもないのに。

 そう考えてしまって、わたくしは頭の中で少し悩んでしまっていた。

 それを察したのか、姫様はわたくしの返事を聞かずに言葉を続けた。


「……まぁいいでしょう。今から話す事を知っていても、まだ後戻りはできます」


 後戻りができると聞いて、無意識の内にホッとした自分がいた。

 わたくしがここまで付き合っているのは、あくまでキリがいるからにすぎない。一度、本気でリクを助けたいと思った事があるだろうか……。


「なぁ。それよりよぉ。こいつ、いつ起こす?」


 キリによって指されたのは未だにぐで~んと青い顔をして気絶している武藤アキ。えげつない攻撃によって気絶したからだろう、怖い夢でも見ているのか、先ほどから唸っている。


「そうですね。起こしましょう。彼女は守護十二剣士と対等に話した唯一の人物です」

「む? それはどういうことじゃ?」


 ルナが訊くよりも先に、キリが肩を揺すって起こした。


「う、う~ん。おばあちゃんが……川の向こうで呼んでる……? ……大丈夫……いまい……ハッ!?」


 どうやらあの世の川を渡らないで済んだようだ。

 意識が回復したアキは周りを見回す。そして、自分の身に何が起こったのか、わかったようだ。


「わ、私なんか拉致してどうするの!? 【情報師】である私の知識か何か欲しいの!? 今週の新聞はもう出したよ!? あれじゃ足りないって言うの!? そ、それとももしかして……か、体!? 体なのね!? 私を散々弄んだ後にどっかの国に売るきでしょ!? ダメ! 私なんか売ったってせいぜい一億ぐらいしかならないよ!?」


 それだけあれば十分ではないだろうか?


「アキさん。おちついてくださいですわ」

「れ、レナちゃん!? レナちゃんもこの人達の仲間だったの!? ってよく見るとリクちゃんもいる!? ……ってことは別に変なことしない……よね?」


 なんだかよくわからないが混乱が治まったようだ。リクの姿が一番安心したのだろうかと思う。

 そして、その反応を見ていた姫様はというと……。


「すみませんアキさん。実はボク、初めからこれが狙いで……」


 面白がってリクのモノマネをしてアキをさらに混乱させた。


「う、嘘……。あ、あんな天使なリクちゃんが実は闇ルート市場的な場所へと繋がっていたなんて! だ、騙したのね!? も、もしかして桜花魔法学校の女生徒みんな拉致する気なの!? す、すぐみんなに伝えないと!? は、放して! 今すぐに縄解いてよぉ!!」


 アキの目が少し潤ってきた。

 するとキリとわたくしが驚いて慰めにかかる。


「あ、アキさん! 今の姫様の言葉は嘘ですわ! ただの冗談ですの!」

「そうそう! だから落ち着けって! 第一、学校でもやっただろうが!」

「がっ……こう?」


 それで思いだそうとしているのか、上の空になる。

 わたくし達の前に座る姫様は「私はこれと言っただけであながち間違っていないのですが……」と呟いていた。確かに間違ってはいない。だが使う時と場所を選んで欲しい。


「思いだした! 確か今日のお昼休みの時に拉致られて……でも、どうしてそんなこと知ってるの? ここにいる人で言うならリクちゃんしか知らないはず……」


 そこまで言ってから、アキはキリの顔を食い入るようにして見つめ始めた。


「な、なんだよ……」

「どこかで見たような~……」

「そりゃぁ、そ奴はキリじゃからのぅ。見て当然じゃ」


 ルナが余計な事を言ったおかげで、アキの目が光った。


「キリ!? こんなかっこいい美女がキリ!? あの【一匹狼】の仙道キリ!?」


 カメラで写真を取りながら三回キリの名前を出すと、キリは微妙に頷いた。


「目覚めたの?」

「断じて違う!」


 真剣に訊くアキにキリは勢いよく否定した。


「でも、私の商会でMっ娘に人気のモデルが女になると……すごいね」

「ちょっと待てお前。今なんて言った?」


 ふ~ふ~とできない口笛を吹きながら明後日の方向へと向くアキ。

 キリの手には雷の拳が握られ、プルプルと震えていた。


「まぁ、お二人とも。今はその話をしている状況では無いでしょう?」


 姫様に止められ、二人とも一度こちらを振り向く。


「チッ。アキ、後でそのデータ消させてもらうからな」

「別にいいよ。だって私、実はキリの女体を写真で見た事あるもん」

「おい待て。今度こそ待て。誰にその写真貰った?」

「まぁ、まぁ。みなさん落ち着いて……」

「え? 前にレ――」

「ちょっと待ってくださいまし! わたくしは見せた覚えはありませんわ!」

「ホントか? アキはこう言ってんだぞ?」

「私の話も聞いて……」

「一昨日ぐらいのお昼に私が写真を見ちゃったんだよね~」

「!? そ、そういえば……」

「見せてんじゃねぇか!」

「だって仕方なかったんですの! あまりにも可愛らしいから生徒手帳に入れてたんですの!」

「なんて場所に入れてんだよ!」

「女三人寄れば姦しい、ですね。これ以上脱線するなら私もそれなりの考えはありますが……」

「私は別に見れて得したね!」

「おい! 後何人がこれ知ってる!? 全員ブッ殺す」

「み、みられていませんわ! アキさんにだけですわ」

「そうか。じゃあ二人とも埋めるか」

「ちょ、待って! 私は別にみた瞬間はわからな――」

「そうですわ! わたくしだって説明してな――」

「〈サンダー・ショック〉」




 姫様の手から魔法陣、そして雷がわたくし達三人の体を貫いた。




「ふむ。馬鹿な者どもじゃのぅ」



 完全に空気状態となっているルナが独り言をつぶやいた後、用意されていた冷えた麦茶を味わいながら飲んでいた。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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