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ヒスティマ Ⅲ  作者: 長谷川 レン
第三章 世界の変異
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釣れた

視点はレナのままです。



「あ! そんやぁ竜田の野郎は!?」


 キリが思い出したようにして言う。それはわたくしも忘れていて、竜田が倒れていた場所を見ると、そこには大量の血痕が残されているだけだった。竜田の姿が見当たらない。


「……逃げられましたわね……」

「なんとも、タフな奴じゃのぅ……」

「素晴らしいです。まさか『絶刀技』を受けて動けるほどの力を残していたなんて……」


 わたくしとルナが悔しさを残す所に、リクは素直に感心していた。だが、ここまでの自信があると言うことはまさしく必殺という所だったのだろう。


「ですが、彼の事はいいでしょう。当初の目的は達成できました。それに彼とはまたどこかでお会いする事が出来そうです。負けフラグをよく言う御方ですから」


 くすくすと口元を手で押さえて笑うリク。その姿を見ていると、女のわたくしでさえ見入られてしまいそうだ。

 そして、わたくしは少々気になった事を一つ。今もどこかへ行ってしまいそうな天使に訊いてみた。


「そういえば、わたくし達はたぶんですけど、一度、他の守護十二剣士にあっているんですの。真紅の髪がとても印象的な人ですの」


 そう。新鮮な記憶に焼き付いているのはジーダス攻略戦の時、カナと真陽を同時に相手にした真紅の髪の男。 マナよりも赤いその髪はとても特徴的で、いまだにあの男が放つ異様な雰囲気を覚えている。


「ほう。そいつはおそらく封を司る守護十二剣士だろう。あの放浪癖のある奴とよく会えたものだ」


 放浪癖があるのか……などとどうでもいい事はひとまず置いておいて、わたくしは言葉を続けた。


「見た所、あの男の方は天使さんのように感情がありませんでしたわ」


 何が言いたいのかと言うと、わたくしはどうして天使にはそこまでの感情が備わっているのかと言う事。

 それを察した天使は、言葉を詰まらせずに言った。


「それはおそらく、封を司る守護十二剣士に意識が無かったのだろう」

「どういうことですの?」


 意識が無ければ動く事などできないではないか。と言うわたくしの言葉を遮って天使は続けた。


「我ら守護十二剣士は普段は意識を失わせているのだ。試練を発動する上で、初めから意識を覚醒させていれば一瞬で決着がつく可能性がある。意識を覚醒させれば、封を司る守護十二剣士も我と同じように感情を持つだろう。意識が無いとは、我ら守護十二剣士にとっては力を抑えるリミッターなのだ」


 なるほど……。つまりあの状態の守護十二剣士は寝ている状態なのか……と、わかりやすい構図を頭の中で展開して保存しておいた。


「それではな、人の子らよ。しばらく我は人の目が無い世界の部屋へと行っている」


 そう言うと、天使は光の粒子となって消えていく。世界の部屋とやらはよくわからないが、ともかく襲われる心配は無いと見て良いようだ。


 そして、完全に消えた所で、キリが話しだした。


「ンじゃあ、こっから移動しねぇか? おもしれぇ奴が釣れたしよぉ」


 そう言って目線だけを瓦礫に向けるキリ。不思議に思い、わたくしもそちらへと目線をやると……気づかれたと思ったらしい髪の毛が慌てて瓦礫を向こう側へと消えて行くところを目撃した。


「時よ……〈クロック・リターン〉」


 リクの声が聞こえると、突如瓦礫が浮かびあがる。そして、自分の意思があるかと思わせるように元の位置へと戻って行き、元の建物の形へと独りでに戻っていった。

 その魔法を見て「ほぅ。時魔法か。珍しいのぅ」と感心しているルナ。わたくしはこんな魔法を見た事が無いと驚くよりも先に、瓦礫が浮いて慌てている女生徒の方が気になった。


 桜花魔法学校の制服を来た女生徒……眼鏡をかけている茶髪で、手にシャッターにガムテでフラッシュを見えなくしたカメラとメモ帳を持っている生徒、【情報師】武藤アキが一人でいた。


「あ、あははははははは……」


 どうやらもう手遅れだと感じたのか。アキが諦めたように後頭部に手を当ててから笑いをし始めた。

 その様子からそれなりに前から聞いていたのだろうと推測。その時には、わたくし達全員に笑みがこぼれていた。




「連れてくぞ」「了解ですわ」「うむ」「手荒なマネは好きではありませんが……面白そうですね」

「え? え?」



 ガシッ。



「ま、待って、私をどうす――」

「「「巻き込む(みますわ)(のじゃ)」」」

「そういう事ですから、釣られた自分を恨んでください」

「う、嘘でしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!??」




 うるさいのでリクの中に入っている人が魔力で作ったと言うガムテープを口につけて塞ぎむーむーと暴れる手足を魔力で作ったと言う縄で手足首を締めあげる。


「よし。こんなもんでいいだろ」


 キリがアキの体を持ち上げる。いまだに暴れるアキを一度キリがドスッとえげつない事をしておとなしくさせた。


「そういえば、かなり後になってしまいましたが……わたくし達は貴女の事をなんて呼べばよろしいんですの?」


 いつまでのリクの中に入っている人ではとてもじゃないが呼んで居られないと言う事で、わたくしは彼女にそう聞いてみた。


「そうですね……。事情により名前は言えませんが、姫様と呼んでいただければ幸いです」

「姫様ですわね」


 ある程度予想していた事ではある。

 あの守護十二剣士という強者が我らが主と言っていたほどだ。女王、王女、姫ぐらいは覚悟しておいた。


「それ、実際に口にすると恥ずかしくないか……?」


 恥ずかしいと言って不服そうな顔をするキリ。


「ですが、名前は言えません。どうか、姫様で通してもらえないでしょうか?」


 頼み込む姫様。

 わたくしは別に問題ない。今の時代でも姫様を名乗る国はあるのだ。

 他の国は大体、絶対王政だったりするのでこのライコウみたいに自由国ではない。この国ではすべての民が平等なのだから。ただ、そんな国でもロピアルズのような指揮者がいなくてはいけない。でなければこの国は他の国と同じようになって行く事だろう。


「まぁ、仕方ねぇの……か?」

「ありがとうございます。それでは……どちらに行きましょうか?」


 姫様が小首を傾げる。仕方ない、これからどこに行こうかは決めていなかったのだ。


「とりあえず、俺の家に来るか? 俺の家には弦しか居ねぇし、問題ない」

「そうですわね」


 即決定。

 わたくしの家は連れて行ったら必ず怒られる。第一、抜け出している事でさえ秘密にしているのだからなおさらだ。

 リクの家はソウナはともかく、ユウとカナという手に負えない二人がいるので却下だ。第一、リクも起きていない。


「それでは、行くかのぅ。家はどっちじゃ?」

「あぁ、こっちだ」


 そう言ってキリは南へと足を向けた。


「ぬ? キリ、家は北ではないのか?」

「なんでだ?」


 さも不思議そうにするキリ。ルナは腕組をしてハテナを浮かべていた。


「いや、キリはよくリクと帰っておったではないか。ここからならば天童の家やゲートには北へと進まねば到底つかぬぞ?」

「!?」


 そこでやっとキリは何を言われたのかわかったらしく、肩で持っているアキを落としそうになった。

 わたくしも、ルナが何を言いたいのかがやっとわかった。

 つまりルナは……いつも最後までリクを送るキリの家はもっと北側にあると言っているのだ。

 キリの家はわたくしの家から数分ですのに……。


 ちなみにわたくしの家はリクさんよりも南、桜花魔法学校よりも北側にある。

 つまりいつもキリは家を通り越しているのだ。


「……リクに言うんじゃねぇぞ?」


 諦めたのか、キリが素直に言った。

 ルナは「やはりのぅ」と言って南へと進み始めた。


「よくわかりませんが……話を聞く限り、もしかしてキリさんはこの子の事が好きなので――」

「断じてありえん!」


 速攻で拒否するキリ。その言葉に安堵するわたくし。

 姫様は、その二人の様子を見て、くすくすとまた笑っていた。


「ですが、まんざらでもなさそうですね」

「そうなんですの? 仙ちゃん?」


 少しくぐもった声でそう言うと、キリは顔を横に振る。


「あ、ありえねぇっつぅの! 俺は男だぞ!? そしてリクも男だ!」

「私は星霜の時を生きてきましたが……そう言っておいて、魔法で女性となった人と結婚した男性はとてもたくさんいました」


 姫様のその言葉により、わたくしはさらに疑いの目を向ける。


「おいレナ! こいつの言うことなんて聞くなっての!」


 どうしてか、キリよりも姫様の言う事の方が信憑性があるとわたくしの第六感が言っている。

 このままではいけないのかもしれない……。リクに手を貸して世界を守る事も大切だが、もう一つの方も……。




 ――ドクンッ。




「!」


 突然、心臓が脈打つようにして、辺りの音が消えるような感覚に陥る。

 キリが何か言っているようだが、それよりも、ハッキリと聞こえる別の声。




 ――我が名を呼べ……高貴な水の巫子よ……。守るための力を求めよ――




 目を開けているのに、視界が見えなくなり、その声に全身を使って耳を傾けてしまっている。


(誰……ですの……?)


 心で聞き返しても返事が来ず、いつの間にか辺りの音が元に戻っていた。


「……い。……てんのかレナ! レナ!」

「は、はいですの!」


 いきなり音が戻ったかと思うと、目の前で名前をキリに呼ばれたために驚く。

 先程はここよりももう少し遠くにいたのだが、いつの間にか目の前まで来ていたようだ。


「ったく。まぁいい。とっとと俺の家に行くぞ」


 歩き始めたキリに、わたくしは自然と歩を進めながら先程の声について考えていた。


(きっと……海の神様ですわ……。でも、どうしたら名を呼べますの……? それよりも、何か急いでいる感じが……)


 すぐに呼び出さなくてもいいだろう。なのにあの神様は何か急いでいる感じがする。


 なんだか嫌な予感がする。

 とても近い時期に何か、とんでもない事が起きるような気がして……。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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