リク(?)
吹き飛んだ竜田自身も何が起きたのかわからないのか、受け身を取りながら状況を確認する。
すると……俺の目の前にリクがいたのだ。
先程、致命傷ではなくとも大量出血で動けないほど傷つけられたはずのリクが。
「リク……お前、動いて……」
「静かに」
リクが、俺を貫いている剣の柄を右手で握る。そして左手では、刺さっている傷口にあてた。
「少し痛いですが、我慢していてください。〈リジェネ〉」
左手が白い光に包まれる。すると傷口の痛みが除所に引いていくだけでなく、斬られている肉も再生していく。それと同時にリクは少しずつ剣を引き抜いていった。
そして、俺は少し違和感を覚える。リクの様子が少しおかしい。
それに先ほどの〈リジェネ〉と言う魔法。俺の記憶が正しければそれはかなり高等な治癒魔法なハズだ。リクがそんな魔法を知っているとは思えないし使えるなんてなおさら……。いや、ルナがいれば――。
「仙ちゃん! 大丈夫ですの!?」
レナが心配して近寄ってくる。その傍らには神様三人……って何!?
「お前ら……どうして外に?」
俺は疑問に思った事を三人にぶつけるが三人とも同じ顔をする。
「妾たちは……その……」
「えっと、わたしたちもよくわからないのです」
「あたしもちょっと……」
そう。何が起きているのかわからないと言ったような顔を。
「はい。もう大丈夫です」
「お、おお……」
いつもとは違う優しい雰囲気を出すリクに、俺は戸惑う。だけど、リクが手を離しすと、ガクンッと脚腰が抜けて膝を吐く。
「仙ちゃん!?」
レナが何とか倒れる前に俺の肩を持つが、重たそうだ。
「まだ動けたんですか、聖地様……」
一人、遠くにいる竜田がリクへ殺気のこもった瞳で睨むが、リクは怯まずに堂々と見返す。
「それはこちらの台詞です。相当な力で蹴り飛ばしたつもりでしたが?」
それはそうだろう。近くにいた俺の耳にまでメリメリとめり込む音が聞こえたのだ。あれは骨が折れていてもおかしくは無い。
「悪いなぁ。俺は頑丈なのが取り柄だからなぁ! 〈デビルソウル〉!」
そして、竜田は黒く染まった右手を地面に叩きつける。
それが除所に竜田の全体を黒く染め上げ、まるでスーツのように纏う。
「お前……」
明らかに先ほどとは違う雰囲気を醸し出し、それから……。
「グ、ガガガガァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
――竜田が発狂したように声を荒上げた。
「何ですの!?」
「普通に見て、あれは完全に食われてるだろ!?」
頭の隅で連想される悪魔。それこそが今の竜田の姿ともいえる。
あいつに悪魔が宿っている事はわかったが、あれでは理性も何も……。
「二回目ですね」
「え?」
唐突に呟くリク。その目には哀れみと悲しみが浮かんでいる。
「何が二回目……なんだ」
「彼が、この短期間の間に悪魔をその身に纏わせた事です。彼もどうなるかわかっているはずなのに……」
リクの言葉が竜田に届いたのか、理性がぎりぎりに保たれている竜田が返事をした。
「俺ガ……二度ノ敗北ヲ味ワウハズガ無イ……。アイツノ言ウ事ハハズレダァ!! 〈暗黒砲・魔破〉ァァァァアアアアアアアアア!!」
黒い光が走り、魔法が飛んでくる。
あれを受けてはマズイと本能で理解している俺は急いで体を動かそうとするが動かず、このままでは直撃してしまう。レナやリクに動かしてもらおうかと思ったが、リクは絶対に無茶をしていると思われるし、ましてや肩を貸して貰っているレナが運べるはずもない。
「お前ら! 俺を置いてとっとと避けやがれ!!」
「ダメですわ! 仙ちゃんを置いてはいけませんわ!! 〈ウォーターランス〉!!」
ありったけの魔力を込めたのか、レナの水の魔法が発動される。
それはいつもの魔力の比では無い。おそらくいつもは次の一手を考えて押さえているのだろう。
だが今発動された水の槍は、大人の腹に風穴開けれるほどの大きさだ。いつもは腕に穴が開くぐらいの大きさなのに。
水の槍は、竜田の放った魔法に向かっていき、衝突。豪快な音を立てて互いに押し始める。
「く……ッ。絶対に……絶対に守りますわ!!」
だが、やはりと言うべきかレナの魔法が押されているのが良くわかる。
このままでは絶対に死んでしまうと思った矢先、リクが見たこともない片刃の剣を持って竜田の魔法へと向かっていった。
「おい! お前なにする気だ!!」
「斬る」
たったそれだけを言って、リクは片刃の剣を下段に構えながら走る。
そのスピードは決して早くも無く、魔力を溜めている感じもしない。完全な自滅行動だと思い、俺は何とかリクを止めようと体を動かそうとするが動く事が出来ない。
「クソが! なんで動かねぇンだよ!!」
竜田にくらったあの浸食の影響がまだ残っている体を叩きつける。だが、強く叩けないのでとても弱くて痛くもかゆくも無かった。
俺は黙って見ている事しかできず、リクへと視線を向ける。レナは魔法の制御に集中しているからか、リクに気がついていない。
そして、リクが剣を大きく引いた後……。
――ほんの一瞬だけだが魔力を感じる事が出来た。
「〈次元刀〉」
ズ、パァンッ!
「「「!?」」」
その場にいる、誰もが目を見張った。
レナの魔法と、竜田の魔法に横線が入ったのだ。それも綺麗に上と下に別れた。
それだけでなく、その魔法の脇にあった瓦礫ですら魔法に入った横線の遠直線上で斬られていた。しかも瓦礫の斬れた後はとても綺麗で、初めから分割してあったように滑らかな切断面が見えた。
「ア、アリエネェ!」
「ありえるんです。この世界でありえないと言う言葉は存在しません」
「!?」
いつの間にか竜田の目の前まで接近しているリク。剣はすでに持っておらず、その代わりに鞘のついた刀を持っていて、完全に居合切りをする態勢に構えていた。
そして……。
「〈絶刀技居合――」
「マタモ! マタモ俺ハァ!!」
身を引く竜田。その表情は驚愕に満ちていて……。
「――空絶〉」
白い軌跡が、竜田の体を通り抜けた。
力なく、崩れ落ちた竜田。黒い魔力がすっと消えていき、完全に悪魔の魔力が消える。
その様子を見ていた俺とレナは、一体何が起こったのか全く理解できなかった。
竜田がリクに斬られ、そして倒れた事がわかった。だがリクは竜田相手にここまで圧倒出来るハズが無い。出来るならば俺達が来る前に倒せていたハズだ。
リクは、竜田の首に手をやると、ホッと一息し、それから俺達の方へと歩いて来た。
一体何が起きているのか。そして本当にあれはリクなのか。何故神様三人は外に出ているのか……。俺は率直に訊く事にした。
「お前何者だ? 全部、答えろよ……」
例え命を助けてくれたとは言えそれが敵の作戦でもありえる。俺が敵意を含めた目でそう言うと、リクは俺とレナ、神様三人の前に立つと……深く頭を下げた。
「申し訳ございません……。時間が無いのです。そのお話は守護十二剣士を守り通してからでもよろしいでしょうか?」
一応話してはくれそうだな……。そう思って俺は頷いた。
とにかく、今の答えでリクでは無い事がわかった。何物かはわからないが、今は頼るしかなさそうだ。
俺は動く事ができないし。
「ところで……いつまでそちらの女性の肩をお借りしているのでしょうか?」
「うるせぇな。竜田の魔法で力が全く入らねぇンだよ」
今現在、俺はレナが支えているためにこうやって立っていられている。
「しかしのぅキリ。傍から見ると少々……」
「んなことはわかってるっつぅの。しょうがねぇじゃねぇか」
「だっさいよねぇ」
「わかってるっつってんだよ!! ツキはケンカ売ってんのか!?」
いやみったらしく言ってくるツキに俺は睨むが「こわ~い」とか言いながらツキはシラの後ろへと隠れた。
「ま、まぁまぁ。おちついてくださいきりさん。つきはこういう『バカ』なんですから」
「一言余分じゃない!?」
ツキはそう言うが、お前の方が余分だと俺は心で思う。
「でも、貴女は大変じゃないですか?」
「べ、別にわたくしは大丈夫ですわ。心配されなくても……」
「そうですか……。私は今すぐに貴方を動く事が出来る体にすることができますが……」
リク(仮)が呟いたのを俺は聞き逃さず、喰らいついた。
「ホントか!? 今すぐに力を取り戻す事ができんのか!?」
俺は確認するようにリクに訊くと、コクンと頷いた。
「はい。この後守護十二剣士と戦っている人と戦う予定ですから、こちらにとっても体が動かない人は足手まといでしかならないのです。ですからここに置いて行くこともできますが、それは貴方がたが許してくれないでしょう?」
リクは見わたすように見る。すると、誰もがリクの言葉に頷いた。
このままリクの体を持ち去られてはたまらない。
「じゃあ、やってくれ。今すぐに」
「わかりました。それでは……」
リクが掌をこちらに向ける。
「〈新体転換〉」
魔法を発動したかと思うと、光が俺の体を包み、徐々に……ってちょっと待て。
「お、おい……。その魔法、まさか……」
少しずつ、体に力が戻ってくるので俺はレナから離れる。だが、そんなことはどうでもよくて、またも覚えのあるその感覚に俺は……。冷や汗が滴る。
徐々に視界が低くなっていき、首筋に髪の毛が当たるような感触。胸が重くなって行き、ある場所がどんどんなくなって……。
「ま、待て! これ、まさか…………性別を変える魔法か!?」
「はい。そうですけど?」
何を当たり前な、見たいな顔で返された。
「訊いてねぇぞ!?」
「訊きませんでしたよね?」
完全に声が男声から女声へと変化し、聞きたくもないボーイソプラノの声が俺の口から出てくる。
下を見ると、足元が膨らんでいる胸で見えず、男の象徴であるあれも無くなっているのが嫌でもわかり、完全に女になった事がわかった。
「言えよ!」
「だって訊かずに今すぐにって急かすから……」
「急いでたのお前だよな!?」
時間が無いやら何やら言っていたのは完全にリクだ。それでいて急かすとは何事か。
なのに当の本人は無視して手を顎にあてて考えるようにしていた。
「それにしては、あまり慌てないのですね。少々残念……」
「お前それ狙ってたの!?」
「何の事でしょう? さ、早く行きましょう」
何を言っているのかわからないと言った風な顔をしてクルリと回転。まっすぐに歩いて行く。
俺はこのままでいるのはとてもじゃないが無理なので何とか頼んでみる。
「なぁ、戻してくれねぇか?」
「置いて行きますよ?」
その一言で俺は元に戻るかこのまま追うかが天秤に乗せられた。
元に戻ればリクの後をついて行く事が出来ない。リクに頼れと言ったのに、本当のリクが目を覚ました時に近くに居られなかったら絶対に本当のリクはショックを受けて二度と話さなそうだ。
このまま追えば、せいぜい男の体が回復するまで女でいるだけであり、リクに頼れ言った言葉を実証できる。
…………俺は心の中で涙を流しつつも、無言でリクの後について行くのだった。
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