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ヒスティマ Ⅲ  作者: 長谷川 レン
第三章 世界の変異
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『だいじょうぶなのですか?』


 ボクはゲートをくぐると、寝ているルナとツキを起こして刀を両腰に顕現する。重みを感じて、少し走りづらくなったが持っていないと襲われた時に対応できない。

 シラの言葉を聞きながら、そんなことを考えていた。


「しょうがないじゃない。だって真一がいきなり……」


 考えてみれば自分は指輪をしたままなのだ。真一にまた女装していると思われたのだろう。男なのに……。


『ふぁあ……。しかしのぅ。こんな夜遅くに起こすとは……妾は眠たくてかなわん』

『あたしも~』


 ルナはともかく、ツキは絶対に嘘だろう。

 基本起きているのが、月が出ている夜だけなのだ。

 それ以外では大体寝ているのがツキ。こんな時間に眠たいと言われたらツキはいつなら眠たくないと言うのか。

 ともかく、緊急時なのだ。二人にはしっかりと働いてもらわなければいけない。

 ボクは人気のない道をひたすら彼女に指示されるままに走って行く。


『そこを右』


 普通に屋根を伝っていけばいい話なのだが、屋根を走ってくのは目立つし見つけられやすいと言う事で道を走っている。

 そして魔力もなるべく隠さなければいけないので身体強化魔法も使えない。

 とにかく、なるべく近づかなければいけないのだ。

 彼女が言うには、別に黒い悪の仲間らしき人達と戦う必要はないと言う。それが壁として、倒さなければいけない状況以外では。

 ただ、守護十二剣士は絶対に助けなければいけないので、刀は必ず抜くだろう。


『あの信号機の交差点を左に曲がって』


 ボクは息を切らして、それでいてなるべく息をしないように走りながら、その交差点を曲がる。

 まだ何も見えないので、ずっと先なのかと感じる。

 身体強化魔法が使えれば、ここまで疲れないのだが……。


『そこの路地を左に曲がって』


 彼女の声がまたする。ボクはそこの壁を曲がると……。



 ――不意に出てきた人物にぶつかってしまった。



「きゃぁ!」

「わぁ!」


 ボクも、相手も走っていたからか、それぞれが尻もちをついた。


「いたたた……はっ! 大丈夫ですか?」


 ボクは、ジンジンする痛みを耐えながら、ぶつかった相手に大丈夫か確認を取る。

 すると……。


「だ、大丈夫ですわ……。こちらこそ、すみませ……」


 ぶつかった相手は、口を止め、目をパチパチと二回ほどまばたきをする。

 なぜならそれは、ボクも、相手も、よく知っている人物だったからだ。


 電灯に照らされたその髪は藍色で、スラリと伸びた脚。語尾が「ですわ」とお嬢様口調の二つ名【泉】を名乗るその人。

 レナ・ルクセルだったのだ。


「こんばんわ。レナさん。こんな時間に何をしているんですか?」

「こんばんはですわ。こんな時間にと申しましても……。わたくし、仙ちゃんの後を追っていただけですわ」


 キリを? 一体なぜキリを追ってこんな所に出てくるのだろう?

 レナの家はここからかなり離れていると言っていい。そうしてまでどうしてキリを追っているのだろうか?


『急いで』


 彼女の声がボクを急かした。


「すみませんレナさん! ボク、すぐに行かないといけませんので!」

「え? ええ……」


 ボクは、とりあえずキリやレナの事を考えるのはやめて、指示された方向に進んだ。


 そして、置いて行かれたレナはと言うと……。



「……リクさん。こんな時間にそうやって急くのはよくないですわ。バレバレですの」



 レナは独り言のように呟いた。


 その事を知らないボクはと言うと、指示されるままに道路を進み、そして、やっとの事で着いた場所は、何もなさそうな道路だった。


「はぁ……はぁ……。こんな所で、戦っているんですか?」

『そう。だけど、彼らは基本自分のテトリーに相手を誘い込むからまずはフィールド魔法を破らなければいけない。場所、わかるよね?』


 彼女の確認するような声に、ボクはしっかりと頷いた。

 普通の人には見えていないだろうが、空間のある一部分にヒビが入っているのだ。そしてそのヒビからは光が漏れている。

 あの中に――。


 そう考えて、ボクはルナを鞘から抜き、両手で上段に構える。

 そして、魔力を集中したその時だった。


「よぉ。待ってたぜぇ? 聖地様?」

「!?」


 すぐさまルナを構えてツキを引き抜く。そして声の聞こえてきた屋根を見上げる。

 そこには、マナを説得する時に戦っていた、月を背にしている漆原竜田の姿があった。


「どうして、こんな所に……」


 そこまで言ってから、単純な答えだと言う事に気がついた。

 黒い悪とは何も一人では無いのだろう。しっかりと仲間がいて、それでいて竜田がその仲間だと可能性もあるのだ。

 だが、これはむしろラッキ―なのかもしれない。

 なぜなら……。


「シーヘル・ツヴァイさんの意識がまだ戻りません……。貴方がやったんですか?」


 ボクは率直に訊いた。時間が無い事がわかっているのだ。

 だけど、竜田は首を振った。


「俺じゃないな。答えを言っちまえば、この先で守護十二剣士と戦っている奴が一人いるんだけどよ。そいつだよそいつ」


 この先に……。

 ボクは、自分でも気がついていない内に、刀を強く握りしめた。

 すぐ近くに居るとは思わなかった。シーヘルを意識不明の重体にさせた奴が……。


「まぁこの先は行かせないがな」


 竜田は屋根から跳び下りて来て、剣を構える。それは、前にも見た事のあるシャドウデビルだ。

 距離を関係なしで攻撃する事の出来る能力を持つ、竜田についている悪魔だ。

 それを攻略するには、竜田が次に飛ぶ所を完全に予測をしなければいけない。

 そんな彼が道をふさぐ。竜田を回避してフィールド魔法を無力化して二人を出す事は出来ないだろう。

 ならば……。


「いくよ。ルナ、ツキ、シラ」


 ボクは左手でルナを、右手でツキを、それぞれ光の奔流が流れ出ている二刀を握り、右腕にシラを神具として顕現する。


『うむ。夜の魔術は昼よりも強いのじゃ』『了解~。月の出ている時間帯はあたし強いよ~♪』『まえのように『黒く燃える部屋』ではありません。わたしもじゅうぶんにちからをはっきできます』


 それぞれ三人の神様の声を聞くと、ボクは身体強化魔法をできるかぎりで全開にする。

 最近では全開にすることが良くあるので全開に出来る時間が飛躍的に上がった。前に竜田と戦った時は魔力切れだけでなく技術的な物まで負けていた。

 だが、こちらは毎夜真陽と稽古しているのだ。

 二度も負けたくない。


「ハッ。よくよく考えたら前に戦った時は聖地様が守る側だったなぁ。今回はまさに間逆の立場だって訳だ!」


 竜田の嬉々とした声が深夜に響き渡る。

 だが、いつの間に結界魔法を使ったのか。防音効果のある魔法がここら一帯を囲んで発動されていた。


「さぁ。来いよ! 聖地様!」


 竜田のその声とともに、ボクは脚に力を込めて竜田との距離を縮めた。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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