……ごめんなさい
今日の授業が終わり、何とかクラスメイトの包囲網(?)を突破してソウナと一緒に家に帰ると、あいかわらず先に帰ってきているユウが迎えてくれた。
「二人ともおかえり~♪」
そしてボクに向かってまたもジャンプしてきたので、また回避す――。
「そうはいかないよ!!」
それを見越していたのか、ユウが急に角度を変えて回避したばかりのボクの所へ跳んできた。
仕方ないのでユウを抱きかかえるようにしてキャッチ。
そのまま放り投げた。
「わぁ!」
何とか立て直して両脚で着地するユウ。
そしてボクはここで挨拶をしておく。
「ただいま、ユウ」
「ただいま。ユウちゃん」
それに続いてソウナも挨拶をする。
「お帰り~。って騙されないよ!? なんで投げたの!?」
そのまま忘れていればよかったのに……。なんて思ったボクはそのまま素通り。
今日の午後の練習は疲れたのだ。睡魔が襲ってきていて、少し寝たいと考える。
「お兄ちゃんどうしたの?」
「下校している最中に少し眠たいと言っていたからそのままベットに入るんじゃないかしら?」
「そっか~。それじゃあ、今日はユウの当番だから夕食は腕によりをかけて作ろ♪」
「ユウちゃんが作るのって大体ヤキソバでしょう? どこに腕によりをかけるのかしら……」
ソウナの疑問を無視してユウは冷蔵庫の中身を見ると「材料が無い!?」と言って電話でカレンを呼び早急に具材を買いに出かけていった。
「……カレンさん……。呼ぶ意味あったのかしら?」
ソウナの呟きにボクは激しく同意した。
ともかく、これで騒がしい人が家の中にいなくなったのでボクは自分の部屋に入ってカバンを置いて、ブレザー、シャツ、スカートを脱いで、下着姿になった後、そのままベットにもぐりこんだ。
そのままもぐりこんだ理由は着る気力もないほど眠たかったからだ。
そして、ボクの意識は持って行かれた。
それからボクは夢を見た。それも、またあの人の夢――。
『大丈夫? 何だかやつれているようだけど』
「はい。大丈夫です……」
『そう……』
ボクの心配をしてくれているのだろうか?
とても嬉しい事だが、少し午後の授業で疲れただけだ。
だけど、彼女はそれを読み取ってなのか、手でボクをこまねく。
ボクは自然と近づいて行くと、すっ――と彼女の胸にボクを埋めるようにして抱擁してきた。
その身はとても温かく、無抵抗なボクの体を包むようにする彼女。
すると、少し体が軽くなったようなそんな気がした。
『貴方の心はとても温かいですね……』
「ボクの……心?」
『はい。私にはしっかりと貴方の心を感じれます。だからこそ、ごめんなさい』
なぜ、謝るのだろうか? 彼女が何かしただろうか?
いや、彼女はボクに助けを求めただけだ。別に何もしていない。
「謝らなくていいです。何を謝っているのかはわかりませんが……ボクが自分で決めているだけですから」
『そうじゃないの……。貴方が今責められている元凶を作ったのは私。だから私は……』
彼女が顔を伏せる。
責められている? 誰に責められているのだろうか?
いや、彼女が言いたいのはきっとその事じゃなくて、精神的な事なんだろう。
「謝る必要なんてありません。今もこうやって、ボクを癒してくれてるじゃないですか」
『それは……少しでも貴方が楽になるように』
彼女の顔が上がる。
綺麗なラインを書く顎にまるで聖母のような瞳が悲しい目になっていて、整った鼻とキュッとしまった唇。
彼女の顔を、間近で見ることは無かったが、ここまで綺麗な顔だと、吸い込まれていきそうだ。
すると、彼女の顔が突如目を細め、暗い世界の向こう側を見るようにして虚空を見つめ始めた。
ボクはその行動に疑問が浮かんだが、次の瞬間。
『敵が……。黒い悪じゃない。その仲間かもしれない敵が守護十二剣士を襲っている』
「!?」
ボクはハッとして目を開けた。
「きゃぁ!」
突如として上半身を起こしたボクの隣には、私服に着替えていたソウナが驚いた顔をして静止していた。
「もう、ビックリするじゃない……それより、どうして下着なの? それも純白なのね」
「ソウナ……さん?」
どうして彼女がボクの部屋にいるだろうか? そう考えると、そういえば少し寝る時にドアのカギを閉めていない事を思い出した。
「どうかしたんですか?」
「え? あ、あぁ。その……」
何かを考えるようなしぐさをするソウナに、ボクはハテナを浮かべる。
すると、何を決めたのか、一回こほんと咳払いをしてから言った。
「午後の授業。そんなに疲れたの? リク君。今何時かわかる?」
え? そう思ってボクは部屋にかかっている時計を見る。
するとそこには……午前1時05分と書かれた時計が置いてあった。
「え!? もうこんな時間!?」
「ええ。夕飯の時に体を揺すっても起きなかったし、ユウちゃんが恒例って言う起こし方をしても起きなかったし……」
あの、お腹に思いっきり乗る起こし方と言うよりも攻撃的なやり方で起きなかったとは……。
ボクは相当深い眠りに……。
『もう守護十二剣士が戦ってる』
「!?」
声が聞こえる。それも、夢で聞いたあの声だ。
そうだ……。ボクが起きたのはあの話を聞いてからだ!
ボクはすぐさまクローゼットに入っているTシャツとズボン。それから前にマナを説得する時に来ていて、そのまま白夜に貰った魔法鎧のバトルコートを来た。
「どこに行くの?」
さすがにソウナが変だと思い、真剣な瞳で聞いてきた。
「えっと……少し、ヒスティマに……」
「……私も行くわ」
ボクの腕を取って、止めるソウナ。
だけどボクは……。
「……ごめんなさい。〈スリープ〉」
「え? リクく……」
まさか止められるとは思っていなかったのだろう。ソウナは抵抗するための魔法をまったく使っていなかった。
たちまちソウナは目を虚ろにさせてボクのベットに倒れ込んだ。
そして、数秒後に「すぅ。すぅ」という規則正しい呼吸がされた。
『いいの?』
「はい。ソウナさんにはあまり危険な事をしてほしくないですから」
ボクがそう言うと彼女の声は帰っては来なかった。
ボクは、これがユウに見つかったら大変な事になりそうだなと思いながら、窓の鍵を開ける。
「……行ってきます」
窓の外に出て、窓を閉める。
「シラ。鍵かけておいて」
『わかりました』
光が窓を通り抜けて人型となるシラ。
それから窓の鍵をかけると、カーテンを閉めた。それからまた窓をすり抜けて来てボクに訊いてきた。
「ところで、さきほどからだれとはなしているのです? わたしたちはだれもはなしておりませんよ?」
「あ、えっと……」
どうやら神様達は彼女の事を気づいていないらしい。
話していいかどうか悩んでいる所、彼女自身から言っても大丈夫だと言う。
「なんて言ったらいいのかな……。最近、夢でよく見る人なんですけど……」
「『夢』でよくみるひと、ですか? ……『神様』でしょうか?」
神様……ではないだろう。
神様だったらルナもツキもシラも、全員がわかるだろう。
「……ですが、なんだかいまのりくはいつもよりも『魔力の質』がつよいです」
「え? 魔力の質?」
ボクは走りながら、ついてくるシラに訊き返した。
「『魔力の質』とは、いわゆる『戦闘能力』です。これで『魔力の質』がつよいとはわかりましたね?」
「うん。でも、それだったらいつもと一緒じゃないの?」
ボクがそう訊いた時だった。
「あれ? お~い、リク~!」
「「!?」」
目の前からボクを呼ぶ声。深夜なのに近所迷惑なその声はボクの親友である真一の声だった。
なぜここに!? という考えとともに、ボクは隣にいるシラを一体なんて説明しようか考えた。
そして考えた末……真一ならば絶対に信用しそうな理由を思いついた。
「シラ。今すぐにボクの中に戻って。それも光を出さずに。できる?」
「え? だいじょうぶなのですか? あいてはみえていますよ?」
ボクはシラの疑問に小さく頷く。するとシラはそこからすっと消えた。
「!?」
そしてそれを見ていた真一が目を見開いた。そう。真一は幽霊スポットオタクなのだ。すっと消えたシラを見ればきっと幽霊だと思ってもらえればシラの事は説明がつくだろう。
そして、ボクは真一の前で止まらないと絶対に何か怪しまれそうだと思い、そこまで走った。
「真一。こんばんわ。こんな所で何をしているんですか?」
ボクが何もなかったかのようにそう話しかける。
すると、真一がいきなりふるふると体全体を震えさせた。
「?」
ボクはその様子にハテナが浮かび、しばらくそのままでいると……。
「天使が……ここに天使が……」
「はい?」
なんだか真一の様子がおかしい。
ボクは、真一のデコに手をやる。別に熱は出ていない。仕方ないので、今度は声をかけながら肩を揺らした。
「真一? 真一? 聞こえてますか?」
すると……。
「す……」
「す?」
小さく漏らした声を聞き取り、ボクがその続きを訊いてみたが……。
……訊かなければよかったと思った。
「好きだぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!」
突如、ボクに跳びつこうとジャンプして襲い掛かってくる真一。
「いやぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!」
ボクはその真一のお腹に、魔力がこもった拳がめり込んだ。
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