Intermission 忍び寄る影
『マジか? 体育館の結界は本物で、闇もトラップもそのまんま、か。チッ。【黒き舞姫】の弱体化が少しでもと思って闇と知を上の奴らが消したのにさ……。そううまくいかねぇか』
「仕方ない。真陽は【邪神殺しの無双少女】と共に居たのだから」
『ハハッ! 確かに、あの化け物女と一緒にいりゃあ世界に干渉する事も出来るか』
竜田の笑い声が電話の向こう側から聞こえてくる。
耳障りだ。そしてなぜあんな奴を助けなければいけなかったのだか……。
『あ、そうそう。上からの命令だ。お前、一人で光か土を殺してこいよ』
なぜ私が……。
『別に光は九時だし、土は十一時だから一人でも充分だろ?』
守護十二剣士はそれぞれの根源を司っているのだ。いくら私でも一人で戦うことは大変だろう。
例えば、先ほど言った光を司る守護十二剣士は光の究極魔法をいくらでも使ってくるだろう。屈折したり光の速度で動いたりしそうで到底追いつけそうにない。
土を司る守護十二剣士は究極魔法を使えばおそらく世界で一番堅いオリハルコンなどを作ることなどはいくらでも出来るだろう。そう考えれば攻撃が絶対に通らないような気がする。
その事を考えていると「はぁ」とため息が出てくる。実際には出していないが。
『まぁそう落ち込むなよ。お前の実力は組織で二位だろ? 一番上を抜かせばさ』
そう。二位。
一番上を抜かせば三位にはなるが、私の上には二人しかいない事になる。
本当に、面倒くさい。早くあの時が来てくれないものか……。
楽しい事も終わってしまったし。しばらくはおとなしくしていようと思ったのだが……。
そこでふと、私は言い訳をしようと考えた。
「……そうだ。私はこれから寝るつもりだから竜田がやって」
『自由だなぁ! おい! それと俺じゃあんな化け物と一人で戦えるかよ!』
電話の先で叫ぶような声が聞こえた。正直言ってウザイ。私は静かな所の方が好き。
『まぁとにかく、そう嫌と言わずにやってくれ。じゃねぇと俺が上から怒られちまう』
「……なおさらやりたくない」
『うぉい!』
嫌な奴が怒られるならばむしろ私はやりたくない。だってその方が楽しそうだから。
最後の一言が無ければここまで拒否反応が出なかったが嫌な奴が怒られるならば私にとっては好都合。
生理的に無理な嫌な奴が怒られるのだ。とっても面白そうだ。
『頼むからやってくれ。決行は今夜の午前一時だ。わかったな?』
ここでわかったか? と聞かないあたり、竜田らしい。そして面倒くさい。
だけど、やらなくてはいけないみたいなのでやる事とする。
「わかった。でも一つ条件がある」
『なんだ?』
私は一間置いて、言いだそうとした時。
「あれ? あんたこんな所で何やってるの~?」
「!?」
すぐに後ろを振り向く。
すると、そこにはマナがいつの間にか後ろにいて話しかけて来ていた。
まったく気がつかなかった。そんなにも自分は嫌な奴との会話に集中していたのだろうか? そんなつもりは全くなかった。
仕方ないので、私は自分の持っている携帯を左手でトントンとマナにわかるように合図した。
「あ、電話中だったんだ~。ごめんね~」
そう言いながらマナは離れていった。
今の会話が聞かれていないか疑問に思う。だって普通に【魔神殺しの夢幻少女】やら竜田やら口にしていたのだ。そして普段の話し方と少し違う。
彼ら彼女らと話す時は竜田と話している時の口調と全く違う。
だから少しでも私に疑問を持たなければいいのだが……。
「貴方のせいで失敗した」
『俺の所為かよ……。どんな所で電話してんだ?』
「ベクサリア平原」
即答した。
『めちゃくちゃ見通しのいい所じゃねぇか……』
「……の、森」
そして分けてやった。
『分けんなよ!! つなげて言えよ!!』
……彼もなかなかツッコミができるではないか。
率直にそう思った。
だが、リクを見ている方がよっぽど楽しい。
……なぜ楽しいのだろう……。
私には――。
『で、条件ってなんだ? もういいだろ?』
「竜田も同行して、私が戦っている最中にリクちゃん達を近づけさせない事」
『何だ? そんなことでいいのか?』
竜田の意外だというような声がする。
私からもっと無理難題でも押しつけられるのかと思ったのだろうか?
もちろん。無理難題だ。なぜなら……。
「そんなことでいい」
竜田は一度負けている。
不意をつかれたとはいえ、竜田は〝ガルダ〟から逃げれるほどの力は持っている。それを出来なかったのはリク、寝虚、雑賀、妃鈴と戦って力を消耗したからだ。特に【眠り姫】の寝虚と【金光の白銀】、そして『聖地』のリク。だが……。
――そんなのは理由にならない。
「貴方の魔法はリクちゃんに破られる。その上でどうやって戦うのか、少し見者。終わってから見物しててもいい」
『……そうだな。リベンジと行こうか』
どうやらまともに戦ってくれそうだ。
まぁ見ることは絶対にできないと思われるが。
『だが、本当に来るのか? 聖地様はよぉ』
「大丈夫。今日の様子を見る限り、リクちゃんは夢を見ている。おそらく今日は家に帰ってもまたヒスティマに帰ってくる。一人で」
『はぁ? 夢? ってかいくら俺でも聖地様一人だったら楽勝だぜ?』
竜田はそういうが、正直無理だと言わざると得ない。
竜田は確かに強い。だが、それは特有の魔法を見破られるまでだ。
距離を変える魔法でもルナを使えば破れるだろう。ならばあとは武器を操る技術だけだ。
それに……。
「絶対に貴方は負ける。そして守護十二剣士には逃げられる」
『なに?』
声音が変わる。それもいつになく真剣な。
この声ならばいくらでも聞いていられそうだ。
「だって、二度目の夢を見たという事はあいつがほとんど目を覚ましたという事。世界の柱の危機と知れば、あいつは絶対に出てくる」
『は? あいつ? あいつって誰だ?』
知らなくていい。知っているのは私だけでいい。
ありとあらゆる情報を知っている私には、今夜、守護十二剣士を襲っても意味が無い事を知っている。
「それじゃ」
『は!? またき――』
ピッ。
携帯の電話を切って懐にしまう。
そして、天を仰ぐ。
竜田がリクと戦っている最中は守護十二剣士と戦っていられるだろう。
そして最後らへんであいつが竜田に勝って私の方にまでくるだろう。
すると守護十二剣士には逃げられ、そして私もタダでは済まないだろう。
だが、私が考えていた事はそんなことよりも……。
「…………顔。どうやって隠そう」
守護十二剣士と戦うよりも、顔の隠し方の方が気になった。
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