チーム決めて無くない?
「あまり期待して無かったが……。意外とアキ知ってたな」
「そうですね……。やっぱり【情報師】としての好奇心がアキさんを動かしたんでしょうか?」
普通に考えてそれしか考える事が出来ないが。それ以外にアキが動く理由なんて無いのだ。そういう人だから。
それにしても……。
「キリさん。アキさんにも恐れられているんですね……」
「ん? そうらしいな。別に意識してもいなかったが」
あれが普通でいいのだろうか……。
「俺は元々【一匹狼】。一人で勝手気ままに襲うのさ。自分の敵を、な」
キリがどこか遠くを見ながらそう言う。
まるでキリはこの場所が見えていないようにもみえるが、過去に何かあったのだろうか?
そんなふうに感じる哀愁が漂う。
「そんやぁリク。俺やっぱお前とチーム組まねぇわ」
「え!? どうしてですか!?」
どうしていきなりそんなことを言ったのか、ボクはキリの意図をまったく掴めなかった。
当のキリは、あくびをしながら、こう答えた。
「いや、今頃気がついたんだけどよ。リクと組むと楽しみが大幅に減るんだよ」
「はい?」
キリは一体何を楽しみにしているのだろうか……って、強者との戦いか。
でも、キリほどの実力の持ち主ならば生徒なんか相手にならないから先生を……。
「えっと、まさか複数の先生相手に単身で?」
「それも楽しみだが、他にもあるな」
他にも何か楽しみな事があるらしい。全くボクにはわからない。
「まぁこの話はまた今度だな。もうすぐチャイムも鳴る」
キリは取りだした携帯の画面を見ながらそう言う。
「そうですね……。じゃあ、ボクは次の授業の集合場所に行きますね。キリさんは……」
「さぼる」
当然だと言わんばかりに言うキリ。
ボクは完全に呆れて物も言えなかった。
これのやり取りがお昼の時でよかったとボクは思った。
もし午前中になんてやっていたらきっとレナに謝らなければいけなくなっていたからだ。
キーンコーンカーン……。
予鈴が鳴り、ボクは急いでベクサリア平原へ向かう。……と言ってもここ、湖のほとりはベクサリア平原内にあるので平原にいると言えばいるのだが……。ここは集合場所よりもすこし遠い。
でも、校舎内から行くよりかはこちらの方が断然早い。
あの馬鹿みたいに大きい校舎の五階から来るよりもこちらからくるほうがとても楽だ。まぁ五階から落ちれれば向こうの方が早いかもしれないが……それは絶対に先生に止められて怒られるだろうと思うからやらない。
ボクは集合場所までに行くと、もうほとんどの人が集まっている。
「あ、リクちゃ~ん!」
そして、その中で手を振ってくるマナ。ボクもそれに気がついたのでそちらの方に走って行く。
別に列などは関係ないので集まっていればとにかくいいのだ。
遠くの方からは、もう先生たちも見えて来ている。
そして、また先ほどと同じチャイムが鳴る。
それは午後の授業の始まる合図だった。
「魔石争奪戦までにはもう一週間を切っている! 魔石争奪戦でいい成績を残すように! 今回も魔法の鍛錬を行う! 何かわからない者がいれば見回っている先生たちに訊いてくれ! 以上! 時間になりそうになったら一度戻ってくる事! 解散!」
声の大きい茄波先生がそう叫んだ後、生徒達はある程度の人数を組んで散り散りになって行った。
おそらく、茄波先生はチームでの連携を練習しろと言いたかったのだろう。
それを理解しているからこそ、生徒たちはそれぞれチームに別れたのだと思われる。
そして、別れたチームを見て、覚えようとする人もいた。
それぞれの人達がなるべく他のチームの情報を得たいのだろう。知らないチームを襲うよりも、知っているチームを襲った方が楽と言う事を知っているからだ。
知らない敵と知っている敵。どちらが戦いやすいかと言われれば、ほぼ全員の人が後者を選ぶだろう。
そして、なぜか注目する生徒が多かったのはボクの方だった。
「えっと、どうしてみんなボクの方を見るんでしょうか?」
「そりゃぁ、リクちゃんは学年で一番強いんだよ? チームの情報は絶対に欲しいって思ってるよ~」
「私もそう思うわ。だって一番強い敵の情報は得ていて損は無いもの」
マナも、ソウナも、もっともな事をボクに向かって言う。
そういえば、ボクは学年で一番強いという証のバッチを持っているのを忘れていた……。
残念ながら、今のボクはきっと学年最弱だと思われる。
まだ空白魔法を習得していないのだから。
「それでは、ボク達も行きましょうか」
ボクは、いつものメンバーであるマナ、ソウナ、レナ、白夜、そしてアキとハナと一緒に、魔法の練習を始めた。
なるべく、マナとソウナ以外には空白魔法の事がわからないようにシラに頼んで、ボクが空白魔法の練習をすると同時に氷魔法を発動させる。
空白魔法は目に見えないから他の人は氷魔法を発動していると思うだろう。
「ねぇねぇ。そういえばさぁ私達、まだチーム決めて無くない?」
唐突にアキがそういう。
他のみんなも魔法の練習を個々でやっていたり教え合っていたが、全員がピタリと魔法を止めた。
「えっと、それはつまりどういうことなのね?」
ハナの質問に、アキはピンッと人差し指を立てて言った。
「ここに居るのは七人。そして、魔石争奪戦のチームの上限数は?」
すると、それに反応して白夜が答えた。
「……七人」
「つまり、アキさんの言いたいことはここにいる七人でチームを組もうということですの?」
「そゆこと♪」
アキの言いたい事をレナが言ってくれたので、ボクはなるほどと納得する。
「でも、ボクはそれでもいいですけど、みなさんはいいんですか?」
ボクはみんなにも確認を取ってみる。
すると、まずは考えるようにしていたマナが答えた。
「ここにいる七人だと……。前衛が二人に後衛が五人ってことになるけど……」
「え? どうして?」
前衛なら三人はいるじゃないとアキはボクと白夜、そしてソウナを見る。
だけどソウナは、ボクとマナ同様、神の使用を禁じられているので剣、ディスを使う事が出来ない。
だからソウナは必然的に後衛の支援に回るしかないのだ。
「ごめんなさい。私、今回は支援しかできないの」
ソウナが自分からアキにそう言うと、アキは「そうか~」と納得する。
「でも、何とかなるでしょ! なんたってこっちはリクちゃんがいるんだもん!」
そう言って今度はボクに目を向けられるけど……。
「えっと、実は最近、魔力コントロールが悪くて何度か魔法を失敗していたり……」
何か理由をつけなければいけないと思った時のとっさの言葉だった。
まさか自分で魔力コントロールが無いって言うだなんて……。いや、実際にそうなのだから言い返せないが。
「えぇ……。そうなると前衛で白夜ちゃんが頑張って貰わないといけなくなるけど……。まぁ白夜ちゃんなら頑張ってくれるか」
「……そう長い時間は無理。……私が戦えるのはせいぜい五対一」
白夜は五人の人間を同時に相手取る事が出来るのかと考えていると……。
「……そして私は五の方に入る」
「多数の方だった!?」
「……有利の状況だったけど……やったか……と言った仲間のおかげで、残念ながら負けてしまった」
「どれだけ一の人強いんですか! って言うか途中で絶対に負けフラグが立っているじゃないですか!」
しかも完全に仲間のせいにしている。これではその仲間とやらがかわいそうだ。
「……そして、その仲間の名前が下僕と言う名の〈シャドー〉」
「魔法!? そしてまた〈シャドー〉ですか!? ってか喋ったんですか!?」
ツッコミどころが多すぎる。
「……さすがリクちゃん。……ここまでやるとは……」
「意味わかりませんってば……」
あいかわらず白夜が言いたい事がわからない。
そして、そのやり取りが終わったとみたアキは、みんなを見わたしてから言い放った。
「ここにいる七人がチームになることに異論は無いよね?」
「賛成なのね!」「了解ですの」「……頑張って盾になる」「支援は任せて」「まぁ頑張ろうね~」
まぁ結果的にいつものメンバーでチームになれたことは運が良かっただろう。もし知らない人のチームに入ったならばボクはむしろ緊張してうまく動く事が出来ないだろう。
だが、まだ空白魔法を物にしていなければ知らない人のチームに入ったのも同然だ。
(頑張らないとね……)
魔石争奪戦も……。
黒い悪を食い止めるのも……。
……ボクが。
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