拉致(?)
校舎に入ると、ボクはキリにアキがこの時間どこに居るのかを訊かれたので、素直に食堂だと答える。
それを訊いたキリはさらにボクの手をひいて食堂に入り、アキを見つけ次第……。
「レナ、アキ拉致ってくぞ」
「は? 仙ちゃん?」「え?」「へ?」「……じゃあね、アキ」
白夜だけが優しい目をしていたような気がした。
「い、い、【一匹狼】が私に何の――」
何やらまったく今の状況を理解していないアキをキリが首襟をつかんで持ち上げる。状況が理解できないのは仕方がないが。
「んじゃリクは走ってきてくれ」
「別にいいですけど……」
ボクが歯切れ悪くしていると、アキがジタバタとし始める。
「は、話してよ【一匹狼】! 私の何がもくて――」
だけどアキに有無を言わせずにキリは「時間が無い」と言い、アキを引きずったまま走りだした。それも〈雷迅〉を使って。
いつの間にか魔力解放をしていたキリ。いつの間にか離れてしまっている。
「何かあったんですの?」
そこをレナが訊いてくる。けど、ボク自身もあまり状況が理解できていない。
「すみません……。ボクもあんまり……」
「そうですの」
レナはそれで納得したのか、イスに座り直す。
すると、今度は白夜が言葉を漏らした。
「……それにしてもキリはタイミングがいい」
「そうなのね。まるで狙ったようにして現れたのね」
白夜の呟きにハナも同意する。
「タイミングがいい……って何がですか?」
「……キリが現れた丁度その時アキがキリの事を喋ろうとしていた」
「何だかアキちゃんは【一匹狼】に何かされた見たいだったのね!」
「中身が何かは教えてはくれませんでしたわ」
キリがアキに言う事……。そう考えてボクは先ほどキリがアキに脅迫して、という話を思い出していた。
なるほど。確かにキリはアキに何か、と言うか完全に脅迫をしていた。
そして今回も脅迫か何かになると思われる。
ボクはため息をつきながら、あれ? と思いだす。
ここにレナがいるのだ。しかも普通にみんなとご飯を食べている。
「れ、レナさん? 大丈夫なんですか?」
「? 何がですの?」
「一時限目の時の……」
ボクが申し訳なさそうにそう言うと、レナはあぁと思いだしたようにした。
「その事なら大丈夫ですわ。もう皆さん完全復活ですの。中にはリクさんの魔法を受けてむしろ喜んでいた人もおりましたわ」
うん。最後に言った人は一度病院に言った方がいいと思う。精神関連の病院に通えばいいと思う。絶対にどこか悪いから。
とりあえず、その人の事は放っておいて……。
「そうですか……ありがとうございます」
ボクはペコリと頭を下げる。
そして、完全に姿の見えないキリを追い掛けるために身体強化魔法を使う。昼休みからは魔法を使ってもいいのだ。
「それでは、キリさんを追いかけないといけませんので……」
「ええ。仙ちゃんに付き合うのは大変かと思いますが、仙ちゃんが行きすぎたら凍らせちゃっていいですわ」
凍らせてどうさせる気なのだろうか……。
ボクは再度頭を下げた後、キリとまた会うためにまた湖のほとりへと戻って行った。
その途中、何人かの男子生徒が落ち込んでいたり、狂乱して暴れている男子生徒を他の男子生徒が一生懸命止めていたりしていた。それは女子生徒でも言える事だった。
一体何が起こったのかと思ったが、ボクはキリが待っているだろう湖のほとりへと急いで向かった。
そして、湖のほとりへと着いた先は……。
「あの……何をしているんですか……?」
「ん? 聞き出し」
おびえているアキにキリが脅すようにして雷を纏って拳を作っている。
ボクには脅迫しているようにしか見えない……。
脅迫されているアキの表情はずっとぶるぶると震えている。
「ま、まま、待ってよ! 情報が! 情報が欲しいなら何でも上げるからこういうことやめよ? ね?」
アキが何とかキリをなだめようとしているが、別にキリは怒ってる訳では無いはずなのだ……たぶん。
「いや。普通の情報じゃねぇからな」
そんなアキの言葉をキリは一言で切り捨てた。
するとアキはキリが何の情報を欲しがっているのかがわかったらしく、先ほどよりも慌て始めた。
「またあの情報!? だからあれは私の作り話だって――」
「悪いな。リクからその話が本当だって事がわかったからな」
キリのその言葉を聞いた直後。アキがぽかーんと口を開けた。
そして、さすが【情報師】と言うだけあるのか。アキは思考をフル回転させてようやくなぜ自分がここに連れて来られたのか。どうしてその情報をキリが欲しがるのかがわかった。
「もしかして、リクちゃんもその守護十二剣士って精霊か何かに会ったの……?」
「えっと、会ってはいませんけど……。でも、夢であの人言っていた事は絶対に嘘じゃないと思いましたので」
「へ? 夢?」
アキがまた思考停止する。
またぐるぐると思考をフル回転するけど、どうも今回は自分が納得できるような理由が思いつかなかったようだ。
「えっと、そうですよね……。夢じゃ信じられませんよね……」
普通の人だったら夢を信じるおかしな人と見受けられてしまうかもしれない。だけどそれは仕方ないかなって思う。
でも、キリのように信じてくれる人もいる。それが何よりうれしかった。
「夢……ね。理由はよくわからないけど、何だか関わったらヤバそうな感じ?」
「あぁ、ヤバイ感じだな。運が悪けりゃぁ命を無くしてもいいだろ」
命を無くす……。そう言われてみればそうだろう。
守護十二剣士がどれだけ強いのかはわからないが、その剣士たちに黒い悪は勝ったのだから今のボクじゃまったく太刀打ちできないだろう。
「うぅん。それは困るけど……。でも、私も私でいろいろと調べているんだよね……」
「例えば?」
キリがアキに訊く。アキは、言うか言うまいか悩んでいる所に、キリが拳を動かす素振りを見せたので自分に害が来る前に自分がこれまでやってきた事を言った。
「前にリクちゃんに紋章を書いてって言った時あったでしょ?」
「はい。ありましたけど……」
あれが一体何の関係があるのだろうか?
すると、アキはスカートのポケットに手を突っ込み、一つの石のような物を取りだした。
「この石ね? その守護十二剣士って名乗る人が落として行ったみたいで、私が拾ったの」
その石には何やら紋章のような物が書いてあった。そして、その紋章が……。
「え? ボクの書いた紋章に似て……」
そう。ボクが無意識で書いたあの絵に似ていたのだ。
「だからさ。リクちゃんが夢とか言っていたけど……私は信じるしかないんだ。この石の事とその守護十二剣士って名乗る人の事を知るならば、まずはこの絵をかなり似せて書いたリクちゃんの事を信じるしかないから……。私はリクちゃんが何かを知っているかと思ったけど、まさしくその通りだったね」
「へぇ。こんなの書いてたのか……。ちょっと見せてもらってもいいか?」
「あぁ、どうぞお構いなく~」
アキは意気揚々と石をキリに渡す。
キリは人差し指と親指でつまんだ後、いろいろな方向から眺めるようにして見た。
「なんだ? これ、小さい字が書いてないか?」
「あ、気づいた? それ、読み難いからこっちに書き写してみたんだ。なんかもうばれちゃったみたいだし、見てもらってもいいよ」
何やらメモ帳を取り出したアキ。
それもキリは受け取り、中身を見る。
「は? 何だこれ」
「だから、書いてあった事だってば」
「書いてあった事だと言っても……これ、読めんのか?」
キリが指を指すそれをボクは覗きながら見てみる。
すると、何やら暗号のような物が書いてあり、一目ではこれが文字だとは思わない。
とすると、これは古代文字のような物なのだろうか?
『これは……。なつかしいですね』
ボクの疑問を消してくれるように、シラが答えてくれた。
「シラ、読めるの?」
『はい。もちろんですりく。その『文字』は『ヒスティマ』が『創造』されたときにつかわれていた『文字』で、その『文字』にはちからがあるとされています。じっさいに『魔力』にちかいなにかをおびております』
ヒスティマが創造された時って……作られた時ってことだよね?
どれだけ昔の文字ですか……。
でもとりあえずシラが読めるようなので、ボクはこのメモ帳を貰えるかどうかと訊いた。
「アキさん。このメモ帳、貰っちゃだめですか?」
「え? 別にいいけど……」
まさか欲しがるとは思っていなかっただろうアキ。だがこの事を何となく予想していたキリは別にどうも思っていなかった。
「他に何の質問も無いんだったら早く解放してほしいなぁ」
早くみんなの元に戻りたいのだろう。だけどボクはそんなアキに一つだけ訊いておかなければいけない事があった。
「あの、アキさん……」
「ん?」
「アキさんのあった守護十二剣士ってライコウ中心から何時の方向で、何を司っていたんですか?」
ボクがそう言うと、アキは思い出すように頭を押さえる。するとアキはハッと顔をあげた。
「確か、ライコウの結構中心で、ジーダスに行った時なんだけど、四時の方向だったよ? あと、炎の根源を司るとか……」
四時で炎。
四時ならば一応消される心配はないと考える。
「姿は……」
「えっと、フードコートを被っていて、顔は炎で包まれていてわからなかったね」
「そうですか……。ありがとうございます」
ボクはアキに礼を言う。
これだけ情報があれば何とか見つける事が出来るだろう。
でも、結構中心って言うと……ジーダスがあった辺りかな?
その辺りを調べた後、段々と広げていく事にしよう。
「そろそろ解放してくれるとありがたいなぁって……」
「ん? あぁ、別にいいぞ。だがこの事を他の奴に言ったりしたら……」
ドゴンッ。キリが手短にあった石をたたきつぶした。
「わかってます! 大丈夫! 口が裂けても言わないから!」
キリが釘を刺してくれた事により、アキは絶対に言わない事を誓った。
それからアキは駆け足でここから逃げ去って行くのだった。
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