実力行使
「クハハハハハハハハハッ!! ひぃ、ひぃ……あぁ、腹痛ぇ……クハハハハ! 笑い止まんねぇハハッ」
「もう! 笑い事じゃないんですよ? もうちょっとで全員気絶しそうだったんですから……」
何とかすぐに解いたので保健室には行ったが一時限目だけ。二時限目からはちゃんと来ている人が数多くいた。
でも、二時限目もこれなかった人もいた。
そして、現在は昼食のお昼休み。
同じクラスの三人がまだ完全復活していないので食堂で弁当を買い、ベクサリア平原の湖のほとりに来た。
すると、そこに先約として仙道キリがいたのだ。
「しっかし、よくやるよなぁお前も。まさか魔力操作ミスで全員を保健室送りとか。クハハッ」
思い出したようにまた笑ったキリ。
ボクはむっとしながらご飯を口に含む。
「まったく……。キリさんは酷いです……。ボクがちょっと間違えただけでそんなに笑うなんて……」
しかも一時限目が終わって二時間目が始まった時。学年主任が授業のその時間で、説教をされた。
午前中に魔法を使うことは禁止されているのに使ったのだ。それはボクだけでなくて他のクラスメイトにも言われた。
ボクは、ケンカしそうな空気を止めようと使ったのだが、問答無用で怒られた。
でも、ケンカの原因はボクがチームをまだ決めていなかったようだったからみたいだし、自分にも悪いところがあると自覚する。
チーム……。このままいけば一人で参加する事になってしまう。
ルナ達の力を借りれない以上、まだ不安定の空白魔法を使うしかない。そして一人では絶対に勝ちあがれない……。
夢で出てきたあの女性が伝えたかった事をしなければ世界が崩落してしまう……。だけど、今は魔石争奪戦にも集中をしなければいけない……。チームも決めていない……。
どうしたらいいんだろう……。
「夢で出てきた女性だぁ? そいつが今騒ぎになってる闇系統属性の弱体化とトラップ魔法の無力化を知ってんのか?」
「あ、あれ? キリさん、どうしてその事を……?」
まるでキリがボクの考えをまるで読んでいたようにして訊いてきたのでボクは驚いてむしろ聞き返してしまった。
「はぁ? リクが勝手に喋ってたんだろうが」
「え? ボク……口に出ていました?」
「ああ。でも、ケンカの原因は……ぐらいから口から漏れてたぞ?」
口に出ていたなんて……。
ボクは無意識のうちに話していた事に驚きながらも、キリの続けた言葉を聞いた。
「で、夢の女性ってなんだ?」
キリの興味が完全にそっちに移行したのか、一切他の事は口にしなくなった。
「あ、そういえばキリさん。この際もうチーム組みませんか?」
なんとか話を逸らそうと、チームについて聞いてみたが。
「夢の女性の話が先だ」
まったく相手にされなかった。それどころか、キリは先ほどよりも近寄ってきている。
「い、良いじゃないですか。今は魔石争奪戦の――」
「早く言えよ」
「あ、あのですね……」
徐々に後ろに下がりながら答えているとキリもそれについてきた。
ご飯を食べていたのもあって、手を使って下がっていたので逃げる事が出来ない。
そしていつの間にか木を背にして、逃げる道をおさえられてしまった。
そして、キリがダンッと手を木に叩きつけると、顔を近づけた。
「俺が興味あるのは夢の女って奴だ。チームを組んでやってもいいがまずは夢の女が先だ」
「で、でも……。キリさんが知る必要は……」
ボクは断ろうとしたがキリがさらに顔を近づけてきた。
「うるせぇ。どうせまた厄介事に首突っ込んでんだろ? 俺にも手伝わせろ」
「でもキリさんにはジーダスでとてもお世話に……」
「あぁ? あんなのはただの遊びだ」
なおも食い下がるキリ。これはもう絶対に聞かないかぎり動かなさそう……。
そして、顔が近い。キリの呼吸がわかるぐらいに近い。
それになぜか自然と赤くなる。
「あ、あの! わかりました! わかりましたから一回離れてください!」
慌ててそう言うと、キリは素直にスッと離れてくれた。
そしてなぜかボクと反対方向を向いた。
ボクはとりあえず顔が赤くなっていないかな……なんて思いながら緊張していた息を吐く。
「それじゃあ、早く話せ」
やっと振り向いてくれたキリが、早々にそう言う。
いまさら言わないなんて言ったら絶対にキリは激怒するだろう。それにボク自身が一回言った事を撤回するだなんて許されない。
男に二言は無いのだから!
「今の姿は女だけどな」
「うぐっ」
胸に突き刺さるキリの言葉。
そしてボクはまた声に出していたというのか……。
「まぁその様子だと絶対に教えてくれそうだな」
そう言うと、キリは持っていた菓子パンを口に運ぶ。
ボクも元の位置に戻って弁当のご飯を口に運んだ。
そして考える。どうしてボクはこんなにも押しに弱いのかと……。
母さんの時も流される事があるし、他の時だってそうだ。
「で、夢の女ってなんだ?」
「いえ……ボクもその人の事はそんなに知らないのですが……。その人が、守護十二剣士の知と闇が消されたって聞かされて……」
すると、キリが「何?」と言って目つきが睨むように真剣な表情になった。
どこか知っている単語でも出てきたのだろうか?
「もう一度言ってくれ」
「え?」
キリがもう一回と言ってきたので、ボクは先ほどの言葉を繰り返した。
「その人が、守護十二剣士の知と闇が消されたって所ですか?」
すると、キリはボクの言葉を何度も繰り返すように小さく言葉にした後、確認するようにボクを見た。
「確かに、守護十二剣士って言ったんだよな?」
「はい。言いましたけど……」
「……そうか……」
ボクの言葉を確認すると、キリは何か考え込むようにどこか遠くを見つめた。
その様子をボクは不思議に思い、今度はこちらから訊いてみた。
「あの、守護十二剣士の事。キリさん何か知っているんですか?」
「そうだな……。前にアキが面白い情報を持っていたから俺が脅迫して聞き出した」
「なんてことしているんですか!?」
アキに脅迫だなんて……。さすが【一匹狼】と言うべきなのか……。
「正確には一人でいる所を俺がたまたま盗み聞きした時に面白そうだったんで脅迫しただけだ。なかなかに面白かったがその時はただの作り話だって思ってたからな……。アキ自身もただの作り話だと言っていたから余計に頭に残ってる」
「いや、だからって脅迫しないでくださいよ!」
「じゃあ言い直す。実力行使」
「もっとダメです!」
まるでふざけているかのように言うキリに全力でツッコム。
「クハハ。まぁそんなこんなで作り話だと思っていた事がここで現実に起こった話だってわかったわけだ。……とすると……」
キリは何かを思いついたかのようにして、そして傍目から見て、とてもわかりやすい悪い顔と言う物をした。
「あの……キリさん? 顔が怖いのですが……」
「リク。今からアキを拉致して拷問して吐き出させるぞ」
「ダメですよ!? 何を考えているのですか!?」
すると、キリがボクの襟を持った。
「あ、あの、キリさん?」
「そう考えれば善は急げだリク! 今すぐにアキを拉致るぞ!」
「矛盾していますよ!? まったく善じゃありません!! ってボクの襟を持たないでください!」
全くボクの話を聞かずにキリはボクを引きずるようにして連れて行く。
「せめてボクの手を持ってくださいよぉ!」
「あぁ? 仕方ねぇなぁ」
するとキリは襟からボクの右手を掴む。
ボクはとっさにそう言ってしまったのだが、これはこれで少し恥ずかしい。と言うか、キリの手ってこんなに大きいんだ……。
そういえば、いつもキリは拳一つで戦っている。
雷を纏っているとは言え、雷分の強度が上がっても拳が強くなければ石さえも壊す事が出来ないのではないだろうか?
そう考えると拳で戦う人は体を鍛えなければいけないのだろうか?
ボクも、夕食後は稽古を交え運動をしていたりランニングなどをしている。それなりに鍛えてある方だと思う。なのに、キリの体格とボクの体格は全く違う。
どうやったらボクみたいに華奢な体ではなく、キリ見たいな体格のいい体になれるのだろうかと思う。
(まぁ、今は女の体になっちゃってるんだけど……)
その事にとほほと肩を落としながら、キリに連れて行かれるまま、校舎へと向かった。
誤字、脱字、修正点があれば指摘を。
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