1-8 鋭い物ほど綺麗だ
フィリスという人物の家に向かって歩き出した京は、道に迷っていた。
「スラム街にあって、そこらへんにいる奴に聞けばわかる。そうは言っていたが……、話しかけたい様な奴が一人もいないぞ……」
そこらへんを見れば、恐喝をしてる者や喧嘩をしてる者。あとは、酔っ払ったりしてる者位しか目につかない。
しょうがない。開き直り、一番近くにいた酔っぱらいに話しかける。
「そこの方、フィリスという人の家を知らないか?」
ビクッ
酔っぱらいは、酒の酔いも一気に覚めたように目を見開き、いきなり背筋をピンっと伸ばし、こちらを向き話し始めた。
「フィリスさんの家なら、そこの角を曲がって左手に見える家です! 家の前に、人が二人程立っているので直ぐわかるはずです!はい!」
緊張して慣れない言葉を使ってるのか、まだ酔っているのか、何かに怯えているかの様にそう答えてくる。
「ありがとう」
一言告げ、銅貨を5枚程渡してやる。
俺が角を曲がるまで、先ほどの酔っぱらいは直立不動で、何かに怯えていた。
角を曲がって左を見ると、ガラの悪い男が二人立っている家を発見した。
「ここは、フィリスさんの家で間違いないだろうか」
「あぁ!? なんだお前は! フィリス様になんか用かよ!」
口調は荒いが、喋ってる言葉からして、ここはフィリスさんの家に間違いないようだ。
「紹介されてきたんだが、フィリスさんに会わせてもらえないか?」
そう言って、紹介状を取り出す。
「誰の紹介だってんd……、なっ!」
男は、先ほどの酔っぱらい並に、いきなり背筋を正した。
「失礼しやした! フィリス様に用でしたね! こちらです!」
急に態度を変えた男はすんなり案内してくれた。
オヤジさん、実はなんかすごい人なのか?
そんな疑問を抱きつつ、案内に付いていき2階の部屋の前へと行く。
「フィリス様。先代からの紹介で客が来てます」
中から凛とした声が聞こえてきた。
「通せ」
案内してくれた男が「どうぞ、こちらへ」と、手を差し伸べドアを開き、中へと入る。
「私がフィリスだ。父上からの紹介者と聞いたが何の用だ?」
そこにいたのは、赤紫色の髪に背は170位、スタイルも良く、肌を露出した服装で、目つきが鋭いが、綺麗というに相応しい容貌の女性がいた。
「父上というのは宿屋のオヤジさんの事で良いんだよな?そのオヤジさんに紹介されて、魔法を教えてもらいに来た」
淡々と、そのまま来た理由を述べる。
「そうか。父上が、紹介に足る人物に魔法を教わらせる為、ここを紹介したと。だが、先にこちらが名乗っているんだ。そちらも名乗るのが筋じゃないか?」
鋭い目つきが更に鋭くなり、俺は、言われてみればそうだ。と思い名乗る。
「余りに君が綺麗で失念していたよ。俺は京。冒険者に成り立てのひよっこって奴だ」
そう言いながら右手を差し出す。
「はっ! アタイを口説こうなんて100年早いんだよ。父上の紹介だから引き受けるが、まだお前の事を信用したわけじゃない。下手な事を言うんじゃないよ」
手を払い除けられ、目つきも鋭いままだ。そそるな。
「お前じゃない。京だ。じゃあ、100年後に口説かせてもらうよ」
真っ直ぐフィリスの目を見ながら言葉を返す。
「フッ……。度胸だけはあるみたいだね。少しは気に入ったよ」
フィリスは少しだけ目元を緩ませ、口を綻ばせる。
「早速本題だが、魔法を教える前に、京のギルドカードを見せてごらん」
言われて直ぐ、ギルドカードを差し出す。
「京 24歳 冒険者 ランクE――。 ……なんだって!?」
綺麗な顔が崩れるのも気にせず驚きの表情を見せる。
「やはりそんなに異常なのか?」
段々、自分の事が心配になってきた。俺大丈夫なのか?
「異常も何も……。素養が全属性あるだけに留まらず、魔力量も……。なんだってんだい。なにか変なことでもしたんじゃないのかい?」
「俺は言われた通り検査を受けただけだ。特別なことはしてない」
場に沈黙が流れる。してないよな?
「父上にはこのカードを見せたのかい?」
首を横に振る。
「ハァ……。未だに人を見る目がありすぎるな父上は……。よし! 魔法を教えてやろうじゃないか!」
フィリスの後ろをついていき、外へと移動する。
「おい。アタイは今から西の森へ出る。留守を頼んだよ」
外にいた2人にそう告げると、俺を連れて裏口へと行く。
そこにいたのは2頭の馬。体中が傷だらけだが、立派な体躯をした黒い馬達だ。
「京。馬には乗れるのかい?」
「乗ったことは無いが、大丈夫だと思う」
フィリスはニヤリとする。不敵な笑みまで妖艶だ。やはりそそる。
「この子達は気性が荒くてね。自分の背に乗せた奴が乗せるに値しない奴だと判断したら落としちまうんだ」
フィリスはそう言いながらも一頭の馬に跨る。
「京も乗ってみな。」
そう促され、馬に近づいていく。
馬は、鼻息を荒立たせて威嚇してくる。
そんなこと気にせずに、鼻に手を近づけてさする。
「乗せてもらうぞ」
一言告げて馬に跨る。
「ブルルン!」
暴れる様子を一瞬見せたが、直ぐに収まる。
「へぇ~。その子がそんな直ぐに大人しく乗せるとこなんて初めて見たよ。やるじゃないか」
「どうやら、乗るに値すると認めてくれたらしいな」
「まぁいいさ。西の森に行くよ。しっかりついてきな!」
「美女を追いかけるとは、味があるな」
「ハッ!」
フィリスが先に駆け出し、そのあとを京が追走する。
目指すは西の森。