1-13 数と量の戦い
西の森へと入り、道から外れた森の中を進む。
森に入ってから、チビが鼻でクンクンしている。モンスターの匂いでもわかるのだろうか。
「チビ、モンスター達の匂いがわかるのか?」
「ギュン!」
頷いてるってことはわかるらしい。やっぱりお前犬だろう。
「あんたたち、一応モンスターが出る場所にいるんだ。もう少し、緊張感を持ったらどうなんだい?」
レーミアが、ヤレヤレ……、というふうに呆れている。
「出てくる魔物はランクEだろう? 気負いせずリラックスしてるのも大事だぞ」
「あんたたちはリラックスしすぎなの! 全く……。肝が据わっていると言えばいいのか、図太いと言えばいいのかわからないね」
レーミアが尚もヤレヤレ……、いや、もう溜息をついている。そんなにリラックスしすぎなのかな。
「ギュ~?」
チビも「そう?」って言うように首をかしげている。
「取敢えず、いつ襲われても対処出来るようにだけは気構えておきなよ」
レーミアが言い終わると同時に、チビが何かを見つけたらしい。しかし、首をかしげて「なんだろう?」というような表情を浮かべている。――なんで俺はチビの仕草や表情でなんとなくわかるんだ? 調教師のLvが上がるとわかるようにでもなるのかな。もしそうだと、そのうちチビの言葉もわかるようになるんだろうか。
「ギュン!」
チビが進行を止めた。目の前は、さっきから通ってる森と何も変わらない。何かいたのだろうか。目を凝らして前を見ていると、少し先がぼやけているように見えた。
すると、おもむろにレーミアが前方に向かって近くにあった石を投げる。
空中で何かに当たったのか、バチン! という音と共に砕け散る。
「これは……、何かの結界だね。侵入者を入れさせない為のものだとは思うけど……。」
「こんな森の中に、そんな結界を必要とするものなんてあるのか?」
「いや、ないね。人が作ったもので、こんなところには何もなかったはずさ」
「現実に結界はあるよな。 だとしたら人以外のものが、ここを守る為に結界を張っているということだな」
「そうなるだろうね。何か危険があってもダメだし、アタシはギルドに報告にしてくるかな」
レーミアがそういい、道を引き返そうとした時、チビが何やら大きく息を吸っている。何かするんだろうか。
「ギュアアアアア!!」
――!! チビが突然咆哮をあげはじめた。子竜とはいえ竜、咆哮は森を揺らしながら辺りに響き渡る。
咆哮を終えてチビは満足そうにしている。
「チビ! 耳が痛いぞ! 今度からするならするって言え!」
「ギュウ……」
満足そうにしていたチビは、俺から怒られるとシュンッと、してしまう。
ん? さっきまでブレていた辺りが一部だけ違う景色になっている。
「チビ、結界を破ったのか?」
「ギュン♪」
落ち込んでいたチビは、直ぐに、さっきまでの満足そうな表情に戻る。どうやら結界を破るための咆哮だったらしい。偉いが、不意打ちの咆哮はもうごめんだ。
レーミアの方を見ると、呆れ返っていた。
「チビちゃん……。あんたも結界を破るだなんてどんな……、いや、もう驚かないよ! あんた達を常識の中の考えで見ていたらこっちが滅入るよ。」
レーミア曰く、チビがやってのけた結界を破るという行為も、どうやら常識じゃ考えられないことみたいだ。チビ、お前凄いらしいぞ。
「取敢えず結界の中に入れそうだし、中を探索してみないか?」
「何言ってんだい! まだ中が安全かもわからないのに、駆け出し冒険者のあんたが行くなんて危険すぎるよ!」
レーミアがやや本気で怒っている。結界に守られているような場所、それも人が作り出したものはないかもしれないという可能性。どちらも考慮した上で、そんなところに探索に行こうなどといった俺は、状況を軽んじていると思ったのだろう。
「大丈夫だ。いざとなったら俺が守ってやる」
「ギュン! ギュン!」
僕も守る!という様にチビもアピールしている。
「先輩風は吹かせる気は無いけど、まさか、ランクEの冒険者成り立ての子に守るなんて言われるとはね。それにチビちゃんにまで。アッハッハッハッハ――。いいよ、行こうじゃないか。その代わり、危険と判断したら戻るよ? いいね?」
「あぁ、俺はそれで構わない」
「ギュン!」
俺たちは、結界の中へと足を踏み入れた。
なんだ? 急に暗い道になったと思ったら、先へは進めるのに後ろが消えていくぞ?
もしかして、入ったのは失敗だったか?
「どうやら、入るには入れるけど、戻るには別の手段を使わないといけないみたいだね……。あたしも軽率だったかな」
「いや、言いだしたのは俺だ。俺が責任を持って帰れるようにする」
「入っちまったものはしょうがないね。脱出する条件を早く見つけるためにも、今は進むとしようか」
「ギュ~」
チビが何かを訴える。
前方を見ると、暗い道が終わり光が見えてきた。
歩を進め、辺りが明るくなったと思うと、暗い道が全て消えた。
俺が今いる場所は、辺りには木も生えていない、小高い丘の上にいるらしい。森の中にさっきまでいたのにこの状況は……。全く別の場所にいるらしいことはわかる。何かの移動の魔法とかでもあるんだろう。考えてもわからないので、そういうことにしておく。
ふと前方を見ると、またゴブリンの集団だ。前見た時より――かなり数も多いようだ。そして、前に見たものより装備がしっかりしているし、何やら統一感があるのは気のせいだろうか。全身鎧を着込み、腰に指しているのは恐らく剣だろう。他にも、魔法使いの様なローブに杖といった魔法使い風なの迄いる。何より気になるのが――、奴らは軍隊の様に隊列を組んでいる――。
レーミアの方を見ると、顔が青ざめていた。
「レーミア、大丈夫か?」
青ざめた表情で、身体を震わせながらレーミアは答える。
「あ、あれは……、ゴブリンナイトにゴブリンメイジ……。そ、それもあんな大群……」
「所詮ゴブリンだろ? 何かまずいのか?」
「京……、あいつらはランクDのモンスターだけどね……。あの規模だとランクAクラスだよ……」
「ほう、そんなにすごいのか、あれは」
「何関心してんだい! 命が危険にさらされているって言ってるんだよアタシは!」
そうこう話していると、ゴブリンの大群が俺たちの目の前まで来た。突如襲いかかるということはせず、一匹のゴブリンが、トカゲの様で足が六本ある体長3m程の生物に騎乗しながら先頭へと出てきた。他のゴブリンよりも大きく、人間位の大人位の大きさに、全身が傷だらけで、歴戦のゴブリンといったところか。恐らく、この集団の頭だろう。
「オマエタチ ケッカイ ヤブッテ ゲート ツウカ シタモノカ?」
何やら片言で聞きづらいが、会話能力があるようだ。それを見て、レーミアはまたも唖然としている。ゴブリンがしゃべるというのは、そんなに珍しい事なのだろうか。
「さっき通ってきたのが、ゲートというものならそうだ。」
「オマエタチ ワレラノ シンセイナトチ ハイッタ ハイジョ スル」
先頭のゴブリンがそう言うと、後ろで隊列を組んでいたゴブリン達が、俺たちを取り囲む様にして円陣を組んだ。これは、結構ヤバイ雰囲気だな。レーミアは身体を震わせていて、戦闘に参加出来る状態ではないだろう。
「カカレ」
頭らしきゴブリンが命令を下すと、周りにいたゴブリン達が一斉に襲いかかってきた。
俺はチビに「レーミア抱えて空飛べるか?」と聞くと、チビは頷いて直ぐにレーミアを抱えて空へと飛ぶ。ゴブリンの円陣の中心にはまだ俺が残っているが、問題はない。
チビが一気に空高くに上がり、もう大丈夫と判断して、俺は両手に【ウィンドボール】を形成する。
ゴブリン達があと1m位の場所まで来ている。俺は【ウィンドボール】を地面に近い位置に二つ維持し、ジャンプしてその二つの【ウィンドボール】を踏みつけた。
空気の破裂したような音が二つ同時に鳴り響いて、俺は空中へと急加速する。余波で、俺の傍まで来ていたゴブリン達は元の円陣を組んでいた位置よりも外側に吹き飛ばされた。
ゴブリン達は、「ギギッ!」「ギャア!」「グゲッ!」といった声を上げている。少しは、今のでダメージが与えられたのかな。だが、前列は全身鎧のゴブリンナイト達で、後列にいたゴブリンメイジ達には全く被害は出ていない。
「メイジ ソラ ウテ」
またしても命令が下ると、後列にいた奴らが魔法を詠唱して、空にいる俺めがけて【ファイアーボール】を飛ばしてくる。数の暴力とはすごいものだ。数百にも登るだろうそれは、俺に目掛けて一直線に飛んでくる。だが、【数】と【量】は似て非なるもの。数百の【ファイアーボール】がきたとしても、総魔力量が数百や数千なら問題はない。俺は飛んでくる【ファイアーボール】に対して【量】で対抗する。
「【ファイアーボール】」
俺は一気に魔力を注ぎ込み、ゴブリンの群れを覆い尽くせる大きさまでにした。【数】と【量】の勝負といこうか。
俺の手から、擬似太陽が放たれた。
「ナ ナンダ アレハ!」
下にいるゴブリン達は慌てふためいているようだ。
擬似太陽は、俺に向かってきていた小さな火の群れを喰らい、次の獲物、ゴブリン数百体を喰らい尽くした。
地面へと着弾と同時に、とてつもない轟音が辺りへと広がる。
一面に生えていた草花は燃え尽き、ゴブリン達は一匹残らず消えた――、かに思えた。が、一匹だけ生き延びている奴がいる。
「オドロカセヤガッテ! タダ デカイ ファイアーボール デハナイカ!」
トカゲは消滅しているが、リーダーらしきゴブリンが残っていた。
俺は空中から落下していき、地面に向かって【ウィンドボール】を放ち、風のクッションを作り着地する。その後を追って、レーミアを抱えていたチビも降りてきた。
「キサマラ ラクニ シネルト オモウナヨ!」
部下の死に、怒りで興奮しているようだ。そこへ、何もない空間から声が聞こえてきた。
「力の解放を認めよう。久しぶりに骨のある侵入者のようだ。その姿のままでは辛かろう」
聞こえてきた声に反応して、目の前にいたゴブリンが「ハハァッ!」と跪いた。
その声に、チビも急に唸りだしている。俺の背筋にも、悪寒が走り始めた。
「キサマラモ コレデ オシマイダ」
言い終えたゴブリンの身体が震え始める。
「リベレイト マジック ヴァリエーション(変異)」
ギルドで見たリベレイト マジックか! そう思ったが、ゴブリンの身体は弾け、光は射出されたが、射出された光が元の位置まで戻ってきて、収束した。
目の前からは、禍々しさをも感じ取れるほどの、濃密な魔力が感じ取れる。
光が次第に消えていくと、そこに立っていたのは、一人の人間の男だった。
「――この姿を見た以上、お前達は地獄を味わうことになる」
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この場を借りて、読者様には感謝致します。
今後共、駄文小説ですが、お付き合い宜しくお願いします。




