初めての……
いやぁ~、パソコンが天寿を全うされてしまい、困りました。
そんなわけでいよいよ動き出しましたよ本編も。
とっても青く澄みわたる空。この世界では化学薬品とかの製造はしていないので無論、公害も無い。
ビルで区切られた空でもなく、汚い煙に汚されたわけでもない。そんな世界でキレイに晴天の日なのだから、それはとても昼寝に最適な空気だった。
そんな最適な空気を吸ってオレはとっても上機嫌だった。なぜなら今回オレたちは国に正式に城から離れることができたのだ。城の中は住みにくいわけではなかったが、貴族たちのオレたちを見る視線がイヤで仕方なかったのだ。
「いや~、こうも晴れていると眠いナァ~」
「行儀悪いですよ。真二。」
「黙れ。ただでさえ狭苦しいのにお前にのびされたらさらに狭いだろうが。」
……もうだれが言ったかは分かるよね。ちなみに今回の移動には国から馬車を借りていて、男3人で暑苦しく座っているのである。アリアたち王族は、別の高級馬車で行くことになった。
さて今回このようになったのは、王様が言った『任務』のためなのである。
「さて、英雄諸君。契約も1人とはいえ果たしたことだし、任務に出向いて貰おう!」
―――そんな言葉を発して王様はオレたちを任務へと行かせた。なんでも契約した照の実力を計りつつ、向上をさせるためだそうだ。
オレと凍也はオマケってことだ。なんて優遇の違い。それに照は契約したってことと元々のアイツの魅力に引かれ、貴族の女子共にモテまくる。しかもアイツと契約した精霊は超絶金髪碧眼の美少女騎士と来た。
もうこれはひがむ、ひがまないの問題ではない! れっきとした差別! 神様ってヤツは一部の人間だけに万芸に秀でる才能を持たせるのである。
凍也は興味がまったく無い様子だ。それにコイツはコイツで貴族の女子の一部に隠れファンクラブがあるらしい。女の子の趣味はわからん。コイツは金の亡者だぜ? 今回の任務にしても別料金として給料を王族から貰ってるらしい(本人から聞いた)。さらに前金と成功報酬を分けることまでしてるらしい。お前はどこぞの殺し屋か? とツッコミを入れたいぐらいだ。
オレはもう誰の目からもあきらかで3人の中で空気化している。
……そんなことは知らぬとばかりに、この世界にも1つしか無い太陽は心優しく光り輝いていた。
騎士王王国はこの世界から見て、国々に影響を与える大国だが、国土的には小さいとされてるらしい。しかし凍也曰くこの国の面積はオレたちの単位に換算すると約80万キロ平方メートル(日本の2倍の大きさ!)もあるという。
そのおかげか目的地に辿り着くまでに10日もかかった。アリアが言うには国の道は整備されているらしいが、まぁ馬車じゃそんなに早く着かないだろうな。
今回オレたち3人と一緒に来たのはアリアとフラン、ナズナさんだ。特にナズナさんはどうしても行くと聞かなかったらしい。多分理由は照に合うため。下に恐ろしきは恋の思いか……
オレたち6人が目的地の村に着くと、厚手の格好をした青年が声をかけてきた。
「国から派遣された方々ですね! よくぞこんな辺境の地へようこそ! なんのおもてなしも出来ませんが、今回の任務の件、よろしくお願いします。」
と深々と頭を下げてきた。オレはとりあえず頭を上げて、と言おうとしたが凍也が
「礼なんていらねぇよ。なんにもしてないしな。それから礼をしたいなら謝礼ぐらいしてから言え。」
とフランはまたですか、と呆れる様子だったが照は眉をひそめた。
「凍也。その言い方はないんじゃないですか。仮にも村から出迎えに来てくれた人ですよ?」
「客人を出迎えるなんて当たり前だろ。まだなんにもしていないのに礼されるのがうざくて仕方ないんだよ。」
それに照は珍しく目に怒りの炎を見せて、凍也に詰め寄った。凍也も負けじとあの全てを憎むような目つきで照を睨む。
青年のことほったからして睨む珍しい組み合わせにナズナさんやアリアが慌てていると、遠くからパッパラッパ~と場にそぐわない音が聞こえ、40人ぐらいの武装した男たちに囲まれ、1人の老婆がやって来た。
すると男たちはあの厚手の格好の青年を除いた全員が老婆に跪いた。老婆はオレたちをジッと見据えてゆっくりと口を開いた。
「客人よ、よくぞ来た。ここは森の主が治める地、フォーカス。そして私は第26代村長であり森の主の声を聞く巫女、フォーナ・フォーカスだ。」
「それはご丁寧に。私はされたフラン・フェデラル・サー・デルタ・ラ・ランスロットと申します。この村からの依頼を受け、王都から参上いたしました。」
いきなり出てきた村長ばあさんに堂々と受け答えするフランはさすがと言うべきか。しっかり騎士として正しい恭しい礼をする(ホントに正しいかは知らんけど)。しかし村長ばあさんは衝撃の言葉を出してきた。
「来てくれてたのは嬉しいが、すまないが帰ってもらえんか。」
……はっ!? なに言ってんのばあさん!? ここまで来て帰れはねぇでしょう。
「何言ってんだ、ババア? 勝手に依頼しといて帰れはねぇだろ。」
どうやら照との喧嘩に水を差されたことに腹を立てているみたいで、見るからに苛ついているってのがわかる凍也が声を出していた。するとばあさんはさっきの厚手の格好の青年を指差して、
「そこの若造が勝手にそちたちに依頼したのじゃ。さらに依頼内容はそちたちには〈暴れる巨大生物の駆除〉としているようだが、我々にとっては神にも等しい『森の主』なのじゃ。
この若造がなぜか知らぬが、『森の主』を倒すと言いそちたちに依頼したのじゃ。」
「ふざけるな!! その『森の主』とやらに僕達の村は荒らされているんだろう!!」
「ラーカス! 我々の財産は全て神である『森の主』が分け与えてくださったものだ。我々の神である『森の主』を侮蔑するなど大罪に値するのがまだ分からんか!!」
青年とばあさんが言い争いを始めて、跪いていた男達は誰か止めようとうろうろしていた。そこにフランが仲裁に入った。
「分かりました。この任務に関して依頼を実行するかは私たちに任せて頂きたい。王国側としてはもう任務を受けた状態なので。
しかしまずは長旅で疲れてしまったので今日はお開きにしたい。どこか宿屋はないか?」
「僕の家は宿屋です。」
「ではそこに今日は止まらせて貰おう。」
なんか一悶着ありそうなこの村の村長から離れてオレたちはラーカスという青年の後を追った。
空は10日前とは違って安穏とはほど遠い、分厚い黒い雲に覆われていた。
「すいません。村長の失礼をお許し下さい。」
とラーカスは宿に入って一番に謝ってきた。
「いや、別にいいって。オレたちそんなに気にしてナイしさぁ。」
「というか、あのババアの言っていた『森の主』ってのはなんだんだ?」
凍也は絶対社交辞令とかできないよな、と内心思ってるとラーカスは重苦しそうに声を出した。
「『森の主』とはこの村に伝わる伝説の生き物のことでこの村を囲う村を支配しているといいます。」
「えっ、じゃあそれは伝説なんじゃ……」
「いえ、なんでも森の支配する最大の捕食者を『森の主』としているそうです。だから一応実在はしてて、ここからは怪しいけど『森の主』は巫女、今で言う村長と話しが出来るそうなんです。なんか巫女のほうは言葉を受け取るだけだそうですけど。」
「それは会話じゃないじゃん。まるで神様からのお告げみたいな。」
そうオレが言うと、ラーカスは大きく頷いて、
「そうです。この村は『森の主』を大きく信仰していて、主を侮蔑することはとても卑しいこととしています。」
「で、なんでその主とやらは暴れてんだ?」
「分かりません。ただ巨大な蟻みたいな生き物が森から出ては村の農作物をとってたり、村民を殺したりしてるんです。
その巨大な蟻の進行を村人たちは神の怒りだとか言って供物を捧げるというので対策をなんにもとらないんです!」
なんだそれ? まるで数百年前の宗教絡みの話のようだ。
すると凍也が口を突如として開いてきた。
「で、お前はこの問題をどうして欲しいんだ?」
「無論、解決して欲しいです。でも、村長からの命ですので従わないわけにはいきません……」
「違うな、俺らの王宮に依頼をしてきたのはお前だ。だからお前に依頼を続行させるか否かの権限がある。」
ラーカスが顔を上に上げると、フランがにっこり笑って、
「その通り。さて君の意思では依頼は続行かな?」
「はい! もちろんです!」
まずは依頼成立とオレがなんにも関与してないところで話を進めてるみたいなので、ちょいと質問をする。
「ええと、巨大なアリって言ったけど、どういう感じなんだ?」
「すいません、僕自身『森の主』に会ったのは一度だけなので見た目が巨大な蟻ということしかわかりません。またその蟻はそれに比べたら小さい小型の蟻の集団を引き連れています。」
「どういうのを目的で村を襲ってるんだ?」
「それも不明です。村人を殺したりすると思えば、生け捕りにして持ち去ったりして……」
するとラーガンが言葉を一度切って話した。 なぜかさっきよりも暗い顔をしていた。
「作物もサトウキビばかりを狙っています。」
「サトウキビ? ってあの砂糖のもとの?」
「ええ、それです。ここの平原は気温の変化が一年を通してあまりないんです。」
サトウキビばかりを狙う、アリの集団……人をさらって行く理由は分からんが、アリをおびき寄せるアイディアは浮かんだぜ!
「よし、村人たちを集めてこい! あとサトウキビもどっさりもってこい!」
「なにをする気ですか?」
照がいい質問するのでオレは最上級の笑顔で答えた。
「アリの野郎共のおびき出し作戦だよ!」
小一時間後、オレたち森が鼻の先にある草原に来ていた。村人の連中も100人前後の規模で来ている。
村長のバアさんはなんと純金の塊の束を用意していた。『森の主』の供物だそうだが、どっからそんなものを……
「それでどういう策なんだ?」
凍也が珍しくオレに話しかけてきたと思ったら、やはりその話か。
めちゃめちゃ嬉しいがそんなことは顔には出さず、オレは話し出した。
「いいか、相手がどれだけのバケモノであろうとアリだ。で、ローガンの話からしてサトウキビが大好きな様子だ。
そこでサトウキビを一部燃やしつつ、サトウキビを森の近くに置くんだよ。そうすりゃ……」
「蟻の大群が大挙してやってきて来るからそこを叩きのめす、そういうことか?」
凍也がため息混じりに言った。見るからに失望したっていう顔である。
「なんだよ。不満かよ。」
ちょっと怒ったが、次の瞬間オレ以外の全員がオレの答えに首を縦に振った。
オレが唖然とする中、アリアが理由を述べ始めた。
「そもそも、サトウキビを燃やしたら、臭いなんて焦げ臭いだけですし、敵と遭遇した次の考えがまったくないじゃないですか。」
……その通り。ほかのみんなも同じような視線だ。これ以上なんか言ったら、倍になって返ってきそうなので、しどろもどろになっているといきなり大きな音がした。
ドドドドドドドドドドド……という地鳴りのような音である。それもどんどん大きくなっている。
全員が逆に静まり返って、音がする森の方に目をやっていると、ソイツはいきなりやってきた。
アリだ。ただただ巨大なアリ。それ以外にそれを形容できる言葉をオレは知らない。
高さは3メートル程あり、全長は12,3メートルはあるだろう。その巨大な口あたりから「カタカタカタ」と嫌な音がしている。
巨大アリの周りには2メートル程のアリがいた。それも二本の足で立って、残り4本の手(?)で木製の槍のようなものをもっている。
オレはガタガタ震えていた。もちろん武者震いなんかじゃない。単純な恐怖だった。英雄とか言っても恐怖心まで消してはくれない。どんな力を持ったヤツでも所詮、人。戦う覚悟が必要なのだ。
あんなバケモノと戦うなんてオレにそんな勇気なんて……
「信二!」
叫んだのはアリアだった。オレのこと呼び捨てにしたのは二度目だな、とかどうでもいいこと思いながらもなんとか意識をもどしたオレはアリを見た。
すると巨大アリはその口を大きく開けてなにオレンジっぽい液体を吐いた。その液体は飛び散り、土に触れた瞬間、土が叫びをあげたかのような音をたてとけ始めた。
「酸性の液体か! その蟻には近づくな! やるなら後ろからしろ!」
凍也がそう叫ぶときにはあの小型のアリを刀でなぎ払っていた。さすがのすばやさである。
「分かりました! 小型のを片付けてからです……」
照はシャルル改め金色のサーベルを振りかぶって、
「ね!!」
4匹のアリを横のまとめて両断した。
それぞれでアリを攻撃しているにもかかわらず、オレの心はビビったままだった。
クソ! なんであいつらはあそこまでできんのにオレは立つことが精一杯なんだよ。
ふと村長のバアさんが巨大アリに近づいているのが見えた。
「なにやってんだよ、バアさん!」
「『森の主』にお怒りの理由を聞きに行くのじゃ。邪魔するでない!」
「相手は主でもなんでもねぇ! ただのバケモノだ!」
話を聞くタイプじゃないと思ったオレはバアさんを無理やり引っ張った。バアさんがなんかわめいてるけど、気にしねぇ。
巨大アリはまたあの液体を吐いてきやがった。しかも今度はオレに向かって!
オレは足がもつれて転んじまった。最高にカッコ悪いが、なんとか液体はよけられた。
液体は純金の塊についていた。そしてその金もまるで病に冒されていくかのように、溶け出した!
オレは唖然としながら考えはまとまっていた。
金という貴金属さえもとかす酸性の液体はこの世にひとつしかない……
「王水……」
まさか世界1の酸性といわれる王水を吐くだなんて……絶望の思いで振り返ると、巨大アリが巨大な口をでっかく広げていた。口の深くなっている部分に王水がたっぷり入っていて、心なしかニタリと笑っているように見えた。
そして巨大アリは液体をオレにかけようと、頭を振って……
「天光なる聖槍!!!」
輝くような叫びと共に光の塊が巨大アリにぶつかり、吹っ飛ばした。
振り向くとアリアが杖を構えていた。よく見ると汗が出ていたり、肩を上下に動かすなど消耗しているようだった。
巨大アリはよろよろと立ち上がると、そのまま森の方へ駆け出していった。ほかのアリもそれを見るやいなや、森へと逃げ出していった。
ぽつんと静かになった草原でオレはアリアに礼を言おうとすると、村人の連中がアリアを取り囲んでいた。真ん中には村長のバアさんがいた。
「なんということを……! お前は『森の主』を攻撃し、傷を負わせた! お前のした行為は神への冒涜以外の何者でもないぞ!」
はぁ!? なんでアリアが攻められるんだ?
ほかの村人たちも口々に「神への怒りを買うとは……」、「これだから王族連中は……」などとほざいていた。
そしてアリア自身、そんなことは気にもしないという顔だった。いや、気にもしないじゃない、慣れているという表情だった。
村人のおかしな怒りと小言、そしてなによりアリアの表情……ムカツキまくったオレはアリアとバアさんの間を割っていた。
「なんじゃ、貴様もその女に加担するのか。神への冒涜者に!」
「おい、バアさん。アリアがやったことはアリのバケモノをぶちのめしただけ。ほかはなんにもしてねぇよ。
もし、それを神だ、なんだというんだったらいますぐ森へ行ってあのアリを崇めて来い!!」
それであの巨大アリを思い出したのか、バアさん以外は萎縮したようだった。バアさんは怒りに震えてるって感じで、踵を返していった。
村人も去っていったので、オレは礼をいうことにした。
「大丈夫か、アリア? あとさっきはありがとな。」
「……いで。」
「へ?」
「余計なことしないで!」
オレびっくりしながらもなんとか応答した。
「余計なことって、なんだよ?」
「さっきみたいに私うを庇ったりすることです。」
「はぁ? なんで余計なんだよ。」
「いいから、私を今みたいに庇ったりしないでください。私は人に助けてもらえるような立場の人間じゃないんです。」
「助けてもらうのに、立場とか関係ねぇだろ!」
「では、はっきり言います。あなたのような逆に私に助けてもらうような人では、私を助けることができそうもありません。そんな人に助けてもらっても正直、迷惑です。」
頭をハンマーでぶん殴られたみたいにガツンときた。そう、オレは今回、なにもできなかった。ただただ足が震えていただけだった。
ほかの2人は剣を振るっていたのにもかかわらず。
挙句の果てには守るべきはずの『巫女』のアリアに助けられてしまったのだ。
そりゃ、迷惑がられても仕方がない。
アリアはオレの顔を見向きもせずに村の方へ歩いていった。疲れているだろうから手を貸そうとしたが、できなかった。
雨雲からぽつぽつと雨が降り、近くの小さな川が抉れた土で黒々と濁っていた。
如何でしたか。 ご感想をできればよろしくお願いします。