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離縁を告げられた日、妹は泣き崩れ、姉は怒りで震えた

「・・・全ては、キヨ様のご判断です」

イーライの声は、絞り出すように硬かった。


「私を勝手に病気にして・・・レイを騙したの?」

ユウがスッと顎を上げる。


青い瞳に怒りが宿る。


イーライはその視線を受け止め、静かに目を伏せた。


「申し訳ありません」


「なぜ?」

レイが涙に濡れた声で、怒りと疑問をぶつける。


イーライは唇をかすかに震わせ、言葉を絞り出した。


「・・・レイ様は、離縁をすることになったからです」


レイの息が止まる。


「セーヴ領に戻る」

レイの黒い瞳に、必死の覚悟がにじむ。


「レイ様、それはーー」


そのとき。


カチッ。


扉の小窓が開く音。


ヨシノが慌てて扉を引くと、重臣サムが立っていた。


サムは部屋を一目見るなり、状況を悟った。


項垂れるイーライ。

涙で揺れるレイ。

怒りを押し殺しているユウ。

固まったまま動けないウイ。

手を震わせるヨシノ。

そして――シュリと目が合い、彼は静かに頷いた。


サムは深く頭を下げた。


「姫様方・・・ご説明させていただきます」


「サム様・・・」

イーライが顔を上げる。


サムは目尻に皺を寄せ、イーライの肩を軽く叩いた。


「・・・お前は、すべてを背負い込むな」


「・・・っ」

イーライの黒い瞳がわずかに揺れた。


その横で、レイが立ち上がる。


「サム、私はこれからセーヴ領に戻ります!」


部屋を出ようとするレイの袖を、サムが静かに制した。


「お待ちください。レイ様・・・もう、帰る場所はないのです」


「どういうこと?」

ユウが片眉を上げる。


レイは強張った表情でサムを見つめた。


サムはゆっくりと告げた。


「セージ様は領地を没収され、城を出ました」


「えっ・・・!」

ユウとレイの声が重なる。


シュリは切なさに目を閉じた。


「セージ様はもう領主ではありません。

城から追放され・・・現在の行方は不明です」


「そ、そんな・・・!」

レイがその場に崩れ落ちる。


膝が床に触れた瞬間、すべての力が抜けていった。


ーー約束した。

見舞いから戻ったら、夫婦になると。


でももう・・・どこにも、戻る城はない。


「レイ・・・」

耐えられないように、ウイがそっと側に寄り、背を支える。


だが慰めの言葉は、どれも喉でつかえた。


ユウは震える口元で問いかける。


「それは、セージ様がジュン殿についたからなの?」


サムは短く頷いた。


「そうです。同盟を破った相手に、レイ様を預け続けることはできない。

そう、キヨ様が判断されました」


「そんな・・・!」

レイの叫びは涙に濁った。


サムは静かに続けた。


「ジュン様との兼ね合いもあり・・・今回は、処刑は免れただけなのです」


「ジュン殿との兼ね合い・・・?」

ユウが疑問を口にする。


サムは頷きながら話す。


「争いは引き分けで終わりました。

もし、こちらが勝ってれば・・・セージ様は処刑されていました」


レイは震えるまま顔を上げる。


頬を伝う涙が、ぽたりと床に落ちた。



ユウは、わずかに肩を震わせながら言葉を続けた。


「あの男に、会える?」


その声音は静かだったが、底に沈む感情は鋭い。


イーライは返事をしようと、一歩前に出た。


けれど、ユウはイーライに顔を背けたままだった。


まるでそこに“壁”があるかのようだった。


イーライは、静かに胸の奥が痛むのを感じた。


――ユウ様は、私を見ようとしない。手紙を出したことを許せないのだ。


それでも彼は表情を変えず、低く言った。


「お連れします」

その声は少し震えていた。


「キヨ様なら、ユウ様が来られることを、ある程度、予想をついているはずです」


イーライの言葉に、ユウは頷く。


しかし、その頷きもイーライを見ることなく、サムへ向けられていた。



《見たくない》のではなく――《見てしまえば、怒りが零れてしまう》


だからユウは、イーライを見なかった。


その拒絶の気配は鋭くもなく、静かだった。


だが、静かであるほど痛かった。


イーライは、

ユウが自分を見ることを避けていると気づき、

かすかに指先を握りしめた。


その様子を、シュリは静かに見ていた。


ーー今、ユウ様は怒っているわけではない。でも、許しているわけでもない。


シュリには、それがよく分かった。


ユウが部屋を出る頃、座り込んだレイのそばには、ウイと乳母たちが寄り添っていた。


その光景を横目に、ユウは何も言わずに踵を返し、キヨの執務室へと歩いていく。


イーライが扉を軽く叩いた。


「ユウ様が、面会を希望されております」


一拍の沈黙のあと、


「入れ」


あの甲高い声が返ってきた。


扉を押し開けると、キヨがちんまりと椅子に腰かけていた。


その姿を見た瞬間――ユウの血が、沸騰する。


怒りのまま一歩で詰め寄る。


「お前は!!」

低く唸るような声が室内を震わせた。


掴みかかる寸前、シュリが後ろから素早く抱きとめる。


「ユウ様・・・落ち着いてください」

耳元で囁く声が、荒ぶる呼吸に冷静さを取り戻させる。


「・・・ここは冷静に行きましょう」


シュリの言葉に、ユウはぎゅっと目を閉じ、息を整えた。


部屋の隅では、サムもイーライも強張った表情で立ち尽くしている。


唯一、キヨだけが涼しい顔だった。


「レイをセージ様のところへ返していただけませんか」

ユウの声は低く、怒りのため震えていた。


「それは無理じゃ」

キヨは淡々と答える。


怒りを押し殺したまま、ユウがさらに一歩詰め寄る。


シュリがそっと背後に立ち、身体を支えた――

ユウが飛びかからぬように。


「聞けば、セージ様はすぐに城を出たとか。

キヨ・・・様と戦う意思はありません。何の問題もないでしょう?」


「いや、大ありじゃ。簡単に許しては、他の家臣に示しがつかん」

キヨは扇を取り出し、ゆらりと動かす。


ユウの瞳の奥に、怒気が増していく。


後ろのシュリはそれを感じ取り、そっとユウの腰に手を添えた。


「なぜですか?キヨ様は、敵であったリオウを許したではありませんか」


「それとこれとは別じゃ」

キヨは領主の顔でユウを見上げる。


「リオウを許したのは・・・メアリー様のご機嫌を取るためですよね?」


鋭い視線を向けるユウに、キヨは惚けたような顔をした。



その時だった。


「・・・レイ様が、お戻りになったの?」


かすかな震え声が、静まり返った部屋の奥から聞こえた。



視線を向けると、ミミが固い表情で座っていた。


ユウは思考が止まり、言葉を失う。


ーーまさか、この場に。


キヨの妻であり、ユウが慕っている人がいるなんて。


イーライは一瞬で悟った。


ーーキヨ様はユウ様の訪問を予測し、ミミ様をここに置いたのだと。


実際、ユウは戸惑いを隠せない表情を浮かべていた。


ユウはミミへ向き直り、小さく頭を下げる。


「ミミ様がいらっしゃるとは知らず・・・無礼な振る舞いをしました」


ミミは静かにうなずき、キヨに目を向ける。


「キヨ・・・レイ様は、離縁されたの?」


その一言で、室内の空気が張りつめた。


ミミは椅子からゆっくりと立ち上がる。


いつも穏やかで柔らかい雰囲気の彼女だが、今は、その顔に深い陰りが差していた。


「キヨ。どうして・・・あの子に、あんな仕打ちを?」


キヨは扇をパタパタと動かしながら、気まずそうに目をそらす。


「仕方なかろう・・・。ジュン殿に付いた男を、そのまま許すなど――」


「それでも!」


ミミが声を強めた瞬間だった。


キヨは扇を軽く振りながら、冷えた声音で言い放つ。


「これは男が決める政のことだ。女は黙っていろ」


その一言は、刃のように鋭く空気を裂いた。


ミミの表情が一気に曇り、唇をきつく噛みしめる。


悔しさと怒りを押し殺したその目は、誰よりも痛ましかった。


「・・・もう二度と、レイ様をそのような目に合わせないでください」

震える声で告げるミミ。


ユウの青い瞳が、鋭くキヨを射抜いた。


ーーミミ様がいなければ、罵倒のひとつをこの男に叩きつけている。


だが――尊敬するミミ様が、目の前にいる。


その夫である男を、彼女の前で罵ることはできなかった。


キヨはそんなユウの葛藤を知ってか知らずか、気味が悪いほど優しい声で言った。


「もちろんだ。ユウ様のことも、よーく考えている。

このキヨを信じてくだされ」


そう言いながら向けてきた視線は、妙にじっとりとしていて、

“信じろ”というより“逃がさない”と言われているようで、背筋が冷える。


ユウは一歩も引かないまま、低い声で告げた。


「・・・失礼します」


その言葉だけを残し、ユウはくるりと踵を返して部屋を出た。


扉が閉じる直前、

シュリはユウの背に宿る怒りと悔しさを、痛いほど感じ取っていた。


次回ーー明日の20時20分


「悔しいわ」


怒りと悲しみを抱えきれず、ユウは中庭で立ち止まった。

その肩に、シュリは言葉ではなく“距離”で寄り添う。


抱きしめられない。

離れることもできない。

許されぬほど近い、その一瞬。


――そして、その光景を、

ひとりの男が“面白そうに”見ていた。


誰にも知られてはならない絆が、

静かに、危うく、露わになり始める。


◆登場人物


ユウ

三姉妹の長女。15歳、妹思い。怒りを抑え、キヨと対峙する。


レイ

ユウの妹。12歳。離縁と夫の追放を知らされ、帰る場所を失う。


イーライ

キヨに仕える家臣。キヨの命令で、レイを戻すため嘘の手紙を書いた張本人。


サム

重臣。状況を正しく伝え、イーライを支える誠実な男。


シュリ

ユウの乳母子。怒るユウを唯一止められる存在。


レイ

三姉妹の真ん中。姉ユウを心から慕い、妹ウイを守る優しい姫。今回の離縁で心が揺れる。


キヨ

サカイ領主。国王になるために準備中。離縁と没収を決めた張本人。政治を優先する。


ミミ

キヨの妻。今回の件に怒りを見せる、ユウが尊敬する女性。

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