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許されぬ口づけ

ユウの肩は、まだ小さく震えていた。

シュリの胸に顔を埋めたまま、その震えは止まらない。


蝋燭と月光が重なり、部屋は淡く照らされていた。


シュリの手がユウの髪を静かに撫でると、荒かった呼吸が次第に落ち着き、肩の震えも和らいでいく。


――落ち着かれた。

胸の奥でほっと息をつく。


それは忠義の務めでありながら、

同時に誰よりも愛しいと想う人を抱き締められる、ひそかな幸福でもあった。


だが、その想いを口にすることは許されない。


自分は乳母子――越えてはいけない境界がある。


「ユウ様、足を見せてください」

掠れた声で言った。


先ほど椅子を蹴り続けたせいで、ユウの足は赤く腫れていたのだ。


ユウを椅子に座らせ、軟膏を手に取りながらシュリはそっと裾をめくる。


月光に晒された足は透けるように白く、思わず呼吸が止まった。


薬を塗りながら、ふと我に返る。


自分がユウの肌に触れているという事実に。


「……!」


慌てて手を引く。


「すみません。母を呼びます」


「……良いのよ」

ユウの声は真剣で、どこか甘える響きがあった。


「でも……」


「足が痛むの。早くして」

命じる声に逆らうことはできない。


「……はい」

シュリの指はかすかに震えながらも、最後まで手当を終えた。


「終わりました」

小さな声で告げたシュリを、ユウはじっと見つめていた。


沈黙が流れる。


蝋燭の灯が揺れ、月光が彼の横顔に影を落とす。


「……シュリ」

甘えるように呼ぶその声に、心臓が大きく跳ねた。


――拒まなくてはいけない。


わかっているのに、身体は動かない。


ゆっくりと近づいてくるユウの顔。


頬にユウの吐息を感じる。


抗う間もなく、月の光の下で唇が重なった。


柔らかく、熱を帯びた口づけ。


それは、もう何度目か分からない口づけだった。


禁じられた想いに抗えず、甘い吐息が夜の静けさに溶けていった。


唇を離した後、二人はまた自然に引き寄せられ、重ね合う。


深く、長く。


ユウの吐息は甘く、幸せそうで、その音がシュリの胸に染み込んでいく。


やがて彼女は胸に顔を擦りつけ、力を抜いた。


小さな吐息――それは眠りの気配だった。


興奮の後に強烈な眠気に襲われるのは、いつものこと。


「ユウ様……」


抱き上げて寝台へと運ぶ。


靴を脱がせ、毛布をかける。


目を細めて眠る横顔。


左の下瞼には薄く青い血管が浮かんでいた。


痛々しいほど繊細で、それでも美しい寝顔だった。


母を呼ぼうと一歩踏み出す。


けれど、足は止まった。


月明かりに照らされるユウを見下ろし、思わず唇が震える。


「……私は、あなたを好いています」


起きている時には決して言えない言葉。


残された部屋には、静かな寝息と月光だけが漂っていた。


シュリは黙って部屋を出た。


ーーいつの日か、ユウは領主の元へ嫁ぐだろう。


幸せになってほしい――心からそう願う。


そのとき、自分は笑っていられるだろうか。


自信はない。


それでも、どうか――と祈るように頭の中で繰り返す。


ありえない話だが、もしキヨの妾になったとしたら……そんな未来は、考えたくもない。



シュリの手がユウの髪を静かに撫でると、荒かった呼吸が次第に落ち着き、肩の震えも和らいでいく。


――落ち着かれた。

胸の奥でほっと息をつく。


それは忠義の務めでありながら、

同時に誰よりも愛しいと想う人を抱き締められる、ひそかな幸福でもあった。


だが、その想いを口にすることは許されない。


自分は乳母子――越えてはいけない境界がある。


「ユウ様、足を見せてください」

掠れた声で言った。


先ほど椅子を蹴り続けたせいで、ユウの足は赤く腫れていたのだ。


ユウを椅子に座らせ、軟膏を手に取りながらシュリはそっと裾をめくる。


月光に晒された足は透けるように白く、思わず呼吸が止まった。


薬を塗りながら、ふと我に返る。


自分がユウの肌に触れているという事実に。


「……!」


慌てて手を引く。


「すみません。母を呼びます」


「……良いのよ」

ユウの声は真剣で、どこか甘える響きがあった。


「でも……」


「足が痛むの。早くして」

命じる声に逆らうことはできない。


「……はい」

シュリの指はかすかに震えながらも、最後まで手当を終えた。


「終わりました」

小さな声で告げたシュリを、ユウはじっと見つめていた。


沈黙が流れる。


蝋燭の灯が揺れ、月光が彼の横顔に影を落とす。


「……シュリ」

甘えるように呼ぶその声に、心臓が大きく跳ねた。


――拒まなくてはいけない。


わかっているのに、身体は動かない。


ゆっくりと近づいてくるユウの顔。


頬にユウの吐息を感じる。


抗う間もなく、月の光の下で唇が重なった。


柔らかく、熱を帯びた口づけ。


それは、四度目の口づけ。


禁じられた想いに抗えず、甘い吐息が夜の静けさに溶けていった。


唇を離した後、二人はまた自然に引き寄せられ、重ね合う。


深く、長く。


ユウの吐息は甘く、幸せそうで、その音がシュリの胸に染み込んでいく。


やがて彼女は胸に顔を擦りつけ、力を抜いた。


小さな吐息――それは眠りの気配だった。


興奮の後に強烈な眠気に襲われるのは、いつものこと。


「ユウ様……」


抱き上げて寝台へと運ぶ。


靴を脱がせ、毛布をかける。


目を細めて眠る横顔。


左の下瞼には薄く青い血管が浮かんでいた。


痛々しいほど繊細で、それでも美しい寝顔だった。


母を呼ぼうと一歩踏み出す。


けれど、足は止まった。


月明かりに照らされるユウを見下ろし、思わず唇が震える。


「……私は、あなたを好いています」


起きている時には決して言えない言葉。


残された部屋には、静かな寝息と月光だけが漂っていた。


シュリは黙って部屋を出た。


ーーいつの日か、ユウは領主の元へ嫁ぐだろう。


幸せになってほしい――心からそう願う。


そのとき、自分は笑っていられるだろうか。


自信はない。


それでも、どうか――と祈るように頭の中で繰り返す。


ありえない話だが、もしキヨの妾になったとしたら……


そんな未来は、考えたくもない。

お読み頂きありがとうございました。 

昨日、新作短編を投稿しました。


ユウの物語のはじまりは、ひとつの“偽り”から生まれました。


――妻の出産から二十日。娘の名前はユウ。

抱きしめたいのに、抱けない。

夫グユウは、静かな春の中で“愛のかたち”を見つけていく。


父と母が過ごした、もうひとつの季節の記録。


『抱けぬ妻を、愛し抜いた ―沈黙の夫と春の約束―』


https://ncode.syosetu.com/n5809lf/


良かったらご覧ください。


次回ーー明日の20時20分


何もなかったかのように始まる朝食。


けれど、絡む視線と揺れる瞳がすべてを物語っていた。


――昨夜、二人の間で、何かがあった。




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