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秘密を抱えた政略結婚 ―血に刻まれた静かな復讐と、許されぬ恋の行方―  作者: 雨日
第6章 妹の婚姻 姫でいられた最後の一年
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強い血を欲する者

◇ 同じ日 昼下がり サカイ城 西棟 メアリーの部屋


昼の光が、容赦なく部屋に差し込んでいた。


白いカーテン越しから、降り注ぐ逃げ場のない日差し。


その光は、隠すことも許さず、

キヨの裸体をあらわに晒している。


幾重にも走る刀傷。

年を重ねた証のように肩に浮かぶ、くすんだシミ。


「・・・キヨ様」

メアリーは、白い身体をそっと寄せた。


指先で触れたのは、熱の残る肌。


欲を吐き出した後のキヨは、ひとつ息を整え、

ゆるく笑って彼女を見下ろす。


「どうした、メアリー」


黒く艶やかな髪。

光を受けて浮かび上がる、白い背中。


キヨは、その背を撫でながら言った。


「明るいところで見ると、やはり綺麗じゃな」


「・・・恥ずかしいわ」


メアリーは小さく身をよじり、

恥じらうようにキヨの胸に頬を寄せた。


だが、その声には、計算された甘さが滲んでいる。


「南領の争いでは・・・弟のリオウが、随分と活躍したと聞いております」


「そうじゃな。あやつは、よう頑張った」

キヨは、何気なく答える。


「・・・その戦に従った者たちも」


メアリーは、細い指でキヨの首筋をなぞった。


「次の戦でも、キヨ様のために尽くせる“甲斐”が欲しいと・・・申しておりました」


指先が、ゆっくりと下へ滑る。


キヨは、口元を歪めた。


「そうじゃの・・・」


低く笑い、


「その指が、もっと下へ行けば考えてやらんこともない」


にやり、と。

欲と権力が混じり合った笑みだった。


メアリーの指は、ゆっくりと下へ降りていった。


その指先は、わずかに冷えている。


「領地を広げたのなら・・・今度は、妃が必要です」


メアリーの身体は、言葉に合わせるように、少しずつ下へと沈んでいく。


「妃か・・・そうじゃな・・・」

キヨの声は、かすかに上ずった。


「ええ。なるべくなら・・・強い血が欲しいです」

メアリーの声は、低く、滑らかだった。


「キヨ様のために。トミ家の繁栄のために――」


キヨの呼吸が、荒くなる。


「強い血・・・」


「そうです」

メアリーは、迷いなく続けた。


「例えば・・・セン家の血を」


その一言で、空気が変わる。


「セン家の・・・娘を?」

キヨの声は、もはや苦しげだった。


「ええ。例えば――ユウ様、など」


その名が落とされた瞬間、メアリーの唇は、動きを止めた。


「それは・・・ダメじゃ!」


叫ぶような声とは裏腹に、キヨの声には力がない。


「どうか、考えてください」

メアリーは、低く囁く。


「リオウの妃を」


「ダメじゃ・・・」

キヨは、かすれた声で首を振る。


「ユウ様は・・・ダメじゃ・・・」


拒絶の言葉は、まるで自分に言い聞かせるようだった。


――その時。


コン、と。静かな音が、扉を叩いた。


「キヨ様。まもなく、会議が始まります」


低く、抑制された声。


イーライだった。


「・・・イーライ、もう少し・・・」

キヨは、未練を滲ませて言う。


「時間は押しております」


ドア越しに響く声は、淡々としていたが、そこに揺らぎは一切なかった。


「・・・メアリー」

キヨは、名残惜しそうに距離を取る。


「残念だが、今日はここまでじゃ」


「あぁ・・・残念ですわ」

メアリーは、切なげに眉を寄せる。


だが、その瞳には、何の痛みも宿っていない。


「・・・今夜、また来る」


キヨはシャツを羽織り、乱れた息を整えながら身支度をする。


そして、ドアの取手に手をかけた。


扉が開いた瞬間、イーライは、寝台の上にいるメアリーと目が合った。


メアリーを見る、その目には――感情の色が、なかった。


探るようでいて、同時に、距離を置く眼差し。


扉が閉まり、キヨとイーライの足音が遠ざかる。


室内には、昼の光と、冷えた沈黙だけが残った。


次の瞬間。


メアリーは、すっと身を起こし、水を口に含んで、迷いなく吐き捨てた。


「・・・あと少しだったのに」


その声は、冷えて、乾いている。


「今夜こそ・・・言わせてみせるわ」




キヨとイーライは、西棟の玄関を出た。


強い日差しが、容赦なく目を射る。


「急ぎましょう」

イーライが声をかけると、キヨの足がピタリと止まった。


キヨの視線を、イーライがゆっくりと辿ると、


回廊に――ユウが立っていた。



更新が遅れました。待っててくれた皆さま、ありがとうございます。


次回ーー明日の20時20分


勝利とともに帰還した男は、

姫を見て、自分の未来を確信した。


拒絶は届かず、

守る剣も抜けない。


そのすべてを、

一人の女が、黙って見ていた。


――この国の行方が、静かに決まる。


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