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第三章 千夏の思惑

「誰か来たのか?」と聞かれ、私は真理恵が来たと答えた。「真理恵とは?」と聞かれると、昔からの親友と返事した。 


 彼は私の交友関係に興味が無いらしく、男友達の話を持ち出してもこれといった目立った反応は見せたことが無い。これをク―ルと呼べば聞こえは良いが、裏を返せば私にそれ程の関心が無いのではとも思える。しかし、これまで争いごとの一つも無いのは、この関係の温さが私達には丁度良いのだろうと勝手に解釈してるのは私だけだろうか。 

「その真理恵がね、どうやら傷心の中にいるみたいなの。ここのところ彼氏の話もしなくなったから、今日、勢い余って聞いちゃった。そしたらね、黙り込んじゃって。それって、別れましたって事じゃない。誰にだって分かるよね。で、どうしたら真理恵が元気になるのかを相談したかったって訳よ」

 鮫島晃太は理解出来ない表情をした。 

「どうして俺が考えなくちゃいけないんだよ。顔も知らない人を元気にしろって言われても、そんな事が出来る訳無いじゃない」 

 あんた、少しは興味ってものを見せなさいよ。とは、さすがに言いはしないが、やっぱりあんたは温い男。 

「別に貴方が直接元気にする必要は無いんだよ。それは分かるよね?で、例えば、貴方と私は無関係の立場にあるとして、貴方の目の前で私が傷心してるとする。さあ、それを見た貴方はどうするでしょう?」

「ん?別に何もしないよ」「どうして?」

「面倒臭いだけだから」

「あ―、そうですか」

 やっぱり聞かなきゃ良かった。 

「でもね・・・」

「何よ?」

「向こうから話し掛けてきたら相手するかな、一応は」

 千夏は、確かにそれはそうだと思った。女性から話し掛けられて、そうそう無視する男は少ないだろう。そうなると、真理恵が好みそうな相手を見つけることが先決だな。


ああ見えても真理恵は結構見た目は気にしないタイプで、内面から入る癖があるから優しい感じの男が良いだろう。年齢は、同年代か少し上。仕事は公務員かサラリーマン。住まいも近いほうがストレスを感じない、まあ、ざっとこんなもんだろう。 

「じやあ、もういいわ。自分で考えるから」


 胃潰瘍も食事療法を基本とした治療により完治し帰宅した千夏は、さっそく市役所勤めの美佐子に連絡を入れてみた。やっぱりこの子は期待を裏切らない。面白いと言うや否や、思い当たるところを狙ってみるという返事を貰えた。


 しかし、これはお遊びとは違う。二度と真理恵が悲しまないような相手をあてがわなくては意味が無いのだ。それには、事前に自分で確認しておくことが絶対条件で、場合によってはキャンセルも必要となるだろう。千夏は彼女に事情を追加した。


 まだ時折、残暑のような熱気が郊外の小さな街を覆い、行き交う車のウインドウに嫌という程照らされ鬱陶しくなる。今日はそんな日でもあった。


 街一番のショッピングセンターは、程よい人の波で秋の訪れを歓迎し、その一角にあるレストランの通りで千夏はぼんやりと人待ちをしていた。 

 

「こんにちは。早かったんですね。写真と同じ感じですぐに分かりましたよ」

 そこには、先日美佐子から見せて貰った男性の顔があった。美佐子は、あんたは写メで良いよね?と無理矢理私を撮り、それを見せると言っていた。 

「こんにちは。初めまして。今日は無理なお願いですみません」

 千夏は軽めに頭を下げた。 

「いいえ、僕も暇な毎日なんで、こんな事でも刺激的なんですよ」

 彼は照れながらそう言ったが、千夏はこんな事でも?と思った。


人は、第一印象が重要だという。横柄な態度、気遣い出来ない言葉。これなどは最悪の中の最悪。それからすると、彼は前者はともかく後者がなってない。それがどうにも気に掛かって気に掛かって仕方がない。だが、お願いした方としては、気に入らないからここでサヨウナラなんて言えない。それこそ、こっちが気遣い出来ない女になってしまうのは明白である。ともあれ、軽くランチでもしながら観察を続けることにしよう。


彼は潤と名乗った。名字と合わせると、阿川潤。完全に名前負けの部類に入ることだろう。阿川は、彼女は欲しいが堅い職業が災いして女性がフランクにならない為、なかなか恋愛に発展しないのだと嘆いた。千夏は思った。果たしてそうなのだろうか。女性が心を開くのに仕事が関係あると定義した話は聞いた事が無いし、勿論、私も同じである。恐らく、こいつは相当な勘違い男に違い無いだろう。 

 一時間が経過した頃、私はこの場に限界を感じた。「そろそろ・・・・」

 そう私が言い掛けた時だった。 

「そう言えば、千夏さんの刺激って何ですか?普通、毎日が平々凡々ですよね。で、その平々凡々の生活の中で、千夏さんの刺激は何なんだろうと思ったんですが」

 こいつ、いきなり何を言いだしたかと思えば。既に帰宅するつもりになっていた事を遮られた上に私の刺激は何かだって。ふざけるんじゃない。私だってちゃんと刺激的に生きてるさ。お前こそ、彼女の一人も居ない平凡野郎のくせして、いっちょ前の口をきくんじゃない。頭に来た。完全に頭に来た。 

「じゃあ、また連絡しますね。さようなら」

 だが、美佐子の仕事仲間である以上、職場での彼女の立場を悪くする訳には行かない。そう、その程度の事は私にだって分かる。だから、今日のところは格段の作り笑いで済ませよう。

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