須木奈篇 庭師と世話人〜壱〜
毎日21時更新します…
朝方までしとしと雨が降ってた。
雨の日は苦手って人、多いと思う。
女子ならば〝髪まとまらない問題〟が深刻だ。
私は普段からキューティクルバリバリヘアーを目指してるんで逆に雨の日でも調子いいとアゲアゲになる。
だから今朝は気分が良き!
ほっぺた一階ロビー。
デイケア出発前のひととき。
犬山さんと芝山さんがテーブルでタブレット見てる。
男同士、大好きなアイドルの関連動画かな。
その向かい側では立花さんがテレビに釘付けだ。
仮面ヒーローの再放送中らしい。
還暦過ぎても一生懸命観てるトコがカワイイ。
そんな男性陣に混じって、光輝く存在がある。
例えて言うなら……かっぱ巻きオンリーの回転寿司レーンから流れてくる生うにのエベレスト盛り。
もしくは泥中の蓮。
沢渡瑠衣さん二十三歳。
モデル顔負けのルックスを誇る、ほっぺた唯一の女性入居者さんだ。
ロングレイヤーのヘアーにショコラブラウンのカラーリング、メンズのオーバーサイズスウェットを可愛く着こなす。
モテ女子のお手本のような彼女がマッサージチェアに座ってファッション雑誌を読んでる。
『ここまで基本性能が高かったらカスタムすんのも楽しいわ絶対』と、銃器目線で考えるスペックの低い私。
死ぬ程頑張っても負ける。
早撃ちなら楽勝だけどな!
事務所受付で子供みたいなコト考えてると、いきなり沢渡さん襲来。
「新入りは」
「へ? あー、佐部さん? どして」
「べっつに〜」
カウンター越しに私の手を握ってくる。
意地悪そうな目で、
「スッキー愛してるゥ〜」
「ハイハイどーもです」
「ぼくも〜」
ロビーでテレビ観ていた筈の立花さんがモテ女子に抱き付いてキタ。
このちっちゃいじいさんは女性とあらば誰彼構わず抱き付いて警察沙汰になる。
「立花さーん、女性に接触禁止!」
「だめだよ周造いじめないで」
悪い顔しながら老人を抱き締める天使。
Dランドかここは。
◆
ピロピロピロピロピロピロ。
ほっぺた事務所では遅番の白木様降臨後の申し送りが始まっていた。
電話機ディスプレイには〝デイケア〟の文字が。
咄嗟に田中さんの方にすがるような視線を送るも、彼女は俯いたまま目を閉じて石になってた。
「はい、ほっぺたです。はい…………わかりました。お疲れ様です」
カチャ。
「佐部さん?」
「デイケア来てから居なくなったそうです」
一同ため息。
事務所を出て捜索に向かう私。
ほっぺた右手の交差点信号を渡りながら噴水広場に目をやると、白のスウェット男が噴水の縁に座ってるのが見える。
どういうプランでアプローチしよう…………
向こうもジッとこっちを見てる。
私は子供の頃、家出した猫を捕まえに行った時の距離感を思い出していた。
ストレートにいくと決めて真っ直ぐ彼の元へ。。
「どうしたんですか」
「人が多いと不安」
「まぁ、退院したばっかですしね〜」
顔を背けられた。
何かショーーーック!
あぁ、こーゆー時ってどーしたらいいかわからん……逃げるか?
その時ふと、入職したての頃に白木さんから言われたコトを思い出す。
『入居者さんに安心して生活してもらう為の支援。それが私達の仕事です』
安心…………かぁ。
「一緒に行きます? デイケア」
彼がピュてこっち向いた。
まともに見ちゃった緋色の瞳。
「えとえと、落ち着くまで隣にいます!」
「うん」
事務所にケータイで連絡。
白木さんとデイケアに同行の許可をもらう。
この仕事を始めて二度目のガッツポーズが出た私。
それではまた…