須木奈篇 ソードマンとガンスリンガーガール〜肆〜
毎日21時更新します…
私、寮に住んでるんだけどね。
近くにスゴく有名なお寺があって。
毎月末に縁日をやってる。
今日は二月二十八日。
普段なら寮に直行でコンビニ飯食って、ごろん! がルーティンの私。
でもサ、たまには足を止めて雰囲気だけでも味わって帰ろうかなと思う。
……嘘です。
仕事終わりで銃撃ちまくってお腹ペコペコなんで。
これから屋台を荒らしに行きます。
飢えた女豹が早歩きで正門に辿り着くと、平日の夜なのに境内は人で賑わってる。
護摩祈祷はもう終了してたけど屋台は二十時までやってるみたい。
ありがとー屋台!
名物の滝だか池だかには目もくれず。
とりあえず屋台に駆け込む。
焼きそばからのタコ焼き、唐揚げ、おでん。
屋台が用意してくれたテーブルに並べてドンドン片付けてく。
屋台サイコー!
ひと息ついた私は缶ビールを買うと、ようやく境内の探険を開始した。
「やたら石像が多い」
ビールを飲みながらの感想。
それだけ。
そんな不信心者の前に数十段の階段坂が立ち塞がる。
どうやら坂を上がり切ると本堂脇に婚活のパワースポットがあるらしいよ、効果抜群のヤツが。
でも今の私には無用だ!
むしろ階段使わない派の意地とプライドに賭けて。
ここは絶対に登らん!
かっこよく踵を返したその時。
目の前に同年代の男子、降臨!
モスグリーンのパーカーに黒のスウェットパンツ。
フードを頭から被った私より少し上背のある彼。
前髪から覗くその緋色の目は……
ひ緋色ッ?
私の、遥か頭上を見つめてる…………
「ビックリしたぁ! こんなの測った事ないわ」
ナイロンジャケットが汗ばむ私。
コイツ、何言ってんの?
「でっかい首無しの竜か…………」
何て? 今、竜って言った?
「こりゃいきなり本人とサシになってたら、マジちびってる絶対。そこだけは自信あるわー」
「…………」
出来るだけ、不信感一杯の表情で睨みつけてやった。
あまり好戦的な態度を取るのは得意じゃない。
「あ、ごめんなさい。オレ蒼介。まさか決闘現場の真ん前の施設にこんな大物が…………イヤ、ちょっと動揺ハンパないッス!」
何か勝手にアワアワし出した。
少しガードの下がる私。
悪いクセだ。
「始祖クラスって日本にはシリト様とハラキリ丸しかいない筈だけど。そか! 君の主は外国人か」
「主?」
また驚いたように私を見てハッとするフード野郎。
蒼介? だっけか。
「何も知らないみたいだ」
両手をパーカーのポッケに突っ込むとヒラヒラ舞う。
「ごめんなさーい、忘れて下さーい」
叫びながら。
ヒラヒラ去ってく彼を見送る形の私。
「…………何だアレ」
二十時を迎えて。
人々がぞろぞろ帰り始めた。
親子連れの子供達はそれぞれの戦利品を掲げてる。
男の子は射的の景品等々。
女の子はヨーヨーや水笛。
若者はカラオケに繰り出し、年寄りはブログの更新を始める。
月イチの縁日は人々の生活にちょっとした非日常を提供している。
今宵の私もまた、そんな一人。
それではまた…