蒼介篇 決戦〜弐〜
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地平線まで続く緑の牧草地帯。
道路や境界線にはバラ線が張り巡らされていて、放牧した牛が気軽に脱走出来ないようにしてある。
たまに自分を馬と勘違いしたお馬鹿が、それを飛び込えようとしてお乳血だらけになってたりもするけど。
広大な敷地内には原生林があったり、小川が流れていたり、熊がよく出たりする。
この土地にシリト様の眷属五百余名の鬼が日本中から集う。
老若男女、中には家族連れもチラホラ見える。
畑を一つ開放して駐車場兼休憩所にしているから皆テントを持ち寄っての、ちょっとした野外フェス状態。
もうすぐ集会が始まる。
オレは一番前で五百人に向かって立っていた。
学校の朝礼でいうところの先生のポジション。
さっきから隣の林道先生がうるさい。
「ね、蒼介。アンタ見たんだろ。同族殺しの戦闘!」
「マジで瞬殺だったの?」
「あの組長姉弟を?」
「ま、アタシでも殺れるけど」
「仲いいのか? 同族殺しと」
「一度会いたいんだ」
少し嫉妬した。
ウチで最強の一角を担う林道さんの目がキラッキラだ。
先日の決闘は国内外でも既に話題になっていた。
バンパイアはこういう話が大好きだから。
離れたところで加藤さんが苦虫噛み潰したような顔してて怖い。
林道さんは顔近いし、佐部さんを紹介しろとか必死だ。
会ってどーすんだよ、と思う。
右手から歓声が上がった。
シリト様が拡声器を持ってころころ走って来る。
「あーテステス、ワンツーワンツー」
フォーマルな子供服姿。
サスペンダーに半ズボン、蝶ネクタイ。まるで七五三のよう。
「皆さーん、こんにちはー」
ちわぁぁぁぁ…………
五百人の挨拶に、隣の畑で放牧している牛達も驚いてこっちを見てる。
「遠路遥々ご苦労様でーす。えーと、今日集まってもらったのはぁ。百五十年続いたイザコザに終止符を打つ時が来た事をお知らせする為でーす」
牧歌的だった空気がいきなり変わった。
「この度鬼の作法に乗っ取り、侵略者であるハラキリ丸こと〝蒼き狼の末裔〟の駆除処理を決定しましたぁ!」
一斉にざわつくオーディエンス。
「蒼き狼の末裔?」
「あの、帝国のか!」
「八百年クラスだろ……バケモンじゃねーか」
皆、一様に驚きを隠せない。
鬼の強さは生きた時間に比例する。
シリト様でさえ、まだ二百年クラスだ。
敢えて波紋がおさまるまで待つ鬼の長。
全ての顔がこちらに向いてから話しを続ける。
「なお、この件は近々行われる始祖会議の前に片付けまーす」
不安そうな顔。顔。顔。
ざわつく集会場。
仕方ない、とは思う。
これまでいがみ合っていた隣の中学の番長が、実は世界ヘビー級チャンプだった、みたいな話なんだから。
集中力の途切れた五百の中坊達。
「確かにハラキリ丸は化け物ぽいけど……」
静かに拡声器を足元に置くシリト様。
「?」
皆の目が集まる。
すると牧場中に響き渡る声での絶叫。
「我々はああああああッ、この日本でええッ、このコミュニティを守ってええッ、人と共存して生きてきたああああッ」
皆一斉にシリト様の方を向く。
「未だ世界征服の野望を掲げるうううッ、ハラキリ丸はああッ、そのバランスを崩す者おおおおッ」
今の生活が壊される……
眷属達は我に返る。
この小さな国で築いてきたものが奪われようとしているのだと!
「我々の家にいいいッ、入り込んだ害虫をううッ、退治しようじゃないかああああああッ」
小さな右の拳を突き上げるシリト様!
「この国を護ろう! これは戦争だ!」
五百人それぞれの顔に殺意が浮かぶ。
吸血鬼は元来好戦的な種だ。
「我々には加藤と林道がいるよーッ!」
パッと皆の顔に光射す。
「加藤だ……」
「林道もいる」
「二人がいれば大丈夫だ」
「〝ドロドロ〟の加藤と〝どくどく〟の林道」
加藤ッ、林道ッ、加藤ッ、林道ッ。
五百人の大コールが牧場に巻き起こる。
日本で最強の鬼として彼らへの信頼は厚い。
シリト様に促されて手を振る加藤&林道。
「化け物退治して、今まで通りのいい距離感の日本で行こーッ!」
万歳!万歳!万歳!万歳!万歳!万歳!万歳!万歳!万歳!万歳!万歳!万歳!万歳!万歳!万歳!
それではまた…