蒼介篇 シリトとハラキリ丸〜参〜
毎日21時更新します…
北海道には梅雨がない。
それでも天気は崩れたりするし、道東は雨でなくても霧が多い。
憂鬱なシーズンには違いないだろう。
夕方、搾乳前のひととき。
牛舎でオヤツのサンドイッチをパクついてると久しぶりに佐部さんから電話が来た。
ビデオ通話だ。
あれからハラキリ丸サイドに動きはなし。
こちらも様子見していた訳なんだけど。
何か嫌な予感がする…………
画面には佐部さんがスマホをセッティングする様子が映し出されていた。
どうやら動画を撮るつもりらしい。
やっぱり嫌な予感しかしない。
ビルの間にあるコインパーキング? 狭い駐車場に車が三台ばかり。
辺りに人の気配はない。
カメラに背を向けた形でスタスタ歩いて行く佐部さん。
一度こっちを見て止まった。
アングルを気にしてるらしい。
「面倒臭いから。ここでいい」
佐部さんがそう言うと真っ赤なジャージ姿の男が建物の影から現れた。
三十代の痩せ型メガネ、髪型ツーブロック。
「蒼狼隊紅玉組組長石切宗吾です」
蒼狼隊組長!
嫌な予感的中。
何て事だ……よりによって蒼狼隊の。
しかも組長!
ヤツらの組所属の鬼達は精鋭中の精鋭で。
その組長は怪物揃い……
残念ながらウチで相手出来るのは加藤さん、林道さんの二人しかいない。
男はゆっくりした動作で腕時計と眼鏡を外してポケットにしまい込んだ。
几帳面さと場慣れした感じが伺える。
「ハラキリ丸様の命によりアンタを粛清します」
ジャージの脇に両手をクロスして差し込みカランビットナイフを二本取り出す。
逆Rのブレード。
「私の能力は対人戦闘向きです。これまで七十四匹の〝外来種〟を駆除してきました」
クンクンと臭いを気にし出す佐部さん。
「血を吸って来たのか」
「はい」
「殺したのか」
「勿論です」
ここでまた佐部さんがこっち見た。
石切某のカメラ位置を確認してる。
納得した模様。
「お前ら何の為に生きる」
「ハラキリ丸様のお望みを叶える為。かつて成し得なかった世界征服の為です」
「そうか」
既に興味を失ったのか、視線すら合わせなくなった相手に苛立ちを隠せない石切某。
パラパラと雨が降ってきた。
「武器は? 有名な鉄仮面はいいんですか」
「無意味」
ポケットから何やら小さな赤いシートを取り出して、舌の裏側に張り付ける佐部さん。
いきなり画面から消えた。
次の瞬間、
石切某が降ってきた!
顔からすっごい勢いでアスファルトに衝突。
スイカみたくパーンて砕け散る。
コロンコロコロコロコロ。
目ん玉が転がって行く。
何事もなかったかのようにスタスタ佐部さんが画面に近寄って来ると
ぷつ。
いきなり通話、切りやがった。
◆◇
「ハラキリ丸サイドから、組長一名が東京旅行中にウチらと戦闘になって殺害されたって訴えてきてるんですけど!」
「そうか」
「警察は投身自殺で処理してますけど!」
「そうか」
ビデオ通話なので顔芸でため息ついてみせるオレ。
時刻は二十二時半、佐部さんは「眠い」と訴えてる。
「わざわざ中継してましたよね。スマホで」
「見たのか。僕は何もしてない」
確かに。
直接手を下したところは映ってない。
瞬殺だったし。
自殺に見せかけたのか蒼狼隊の組長を…………
「ハラキリ丸はあんたを巻き込んで戦争する気です。こないだの、よっぽど怒らせたんじゃないスか?」
「迷惑」
「……まぁ、ウチらの争いに巻き込んだ形ですもんね。シリト様からの伝言です」
少し引いた感じで横顔無表情。
画角を意識していて腹立つ。
「言います。『貴殿には干渉しないとの百五十年に及ぶ取り決めに従い、この件から手を引いてもらいたい』との事です」
「いいのか」
「面子あるんで」
「……前に話した始祖殺しの方法」
「首だけになるヤツ。出来る訳ないッス」
「アレじゃないヤツ」
思わず画面に食らい付く。
佐部さん、待ち構えてのスクショ。
かしゃ!
「あぅ……」
「出来るけど」
「ど、ど、どうすればッ?」
「簡単だ」
世界最強のバンパイアはレンジでチンする感じで軽く言った。
「始祖殺しの〝蓮華槍〟があれば」
それではまた…