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須木奈篇 野球帽と泣き虫〜壱〜

毎日21時更新します…

「……以上のサービスを皆さんに提供してます」

「はい」


ほっぺた一階事務所受付で犬山さんに説明する私。


「それを国保連に請求して市町村からこれだけの支払いがされたという報告の書類ですコレ」

「はい」


無表情で受け答えするお腹ポンポンのタヌキさん。

見かねた相方の芝山さんが突っ込みを入れる。


「イヤ、絶対犬山くんわかってないから」

「わかるって。サービスしてもろてる」


芝山さんのお股を触る犬山さん。


「やめろて」


触り返す芝山さん。

キャッキャ言いながら二人、午後のデイケアへ。


「自立支援給付の受領通知書かい?」


各階掃除から戻ったベテラン鈴木さんが聞いて来た。


「はい。渡す時に内容訊かれたんで説明を」

「皆さんの支援して毎月お国からこれだけもらっています、で構わないんじゃないかな」


私、事務所にいた田中さんを見る。

頷く眼鏡女子。


「わかりました」

「ん、今田中くんに確認取ってなかった?」


自分の胸をとんとん叩きながら鈴木パイセン。

つか、鈴木。


「リーダー。白木さんの次に偉い人なんだが?」


 リーダーって何? て思いながらハゲセンを綺麗にシカトする年の差四才コンビの私&田中さん。


入職して四ヶ月目。

それなりに落ち着いてきた私だけれど。

この仕事について色々と思うトコがある。


給料が安い。転職する人が多い。ユニフォームが空色のポロシャツ。


こんな仕事でも一つだけ特筆すべき点有り。

利用者さんがとても魅力的だというコト。


噂をすれば、だ。

受付に伊集院さんが杖をついてやって来た。

トレードマークの野球帽に眼鏡。

少しだけチックが出てる。

チャクチャク。


「瀬見さんは結婚してはんの?」

「いえ、独身ですよ」

「僕昔してましたよ。今は彼女いてます!」


この人は彼女さんが大好きなのだ。


「羨ましい限りです」

「彼女体重が百二十キロあってね。こないだホテル行って、お前を征服したるゾ〜って」

「……」


オチを待つ私。


「……」


遠い目してる伊集院さん。


「へ? あ、楽しかったですか」

「はい、幸せです!」


人懐っこい笑顔を残して、ほっぺたを出て行く。


この時の私は。

入居者の皆さんと関わるコトで、自分の中にあった不安や孤独が少しずつ薄れてく。

そんな風に感じていた。


◆◇


夕方、通所先で食事を済ませた皆さんの帰宅ラッシュが始まった。


一番乗りは佐部さんで、いつも十七時半きっかりに帰って来る。

帰宅後は事務所奥の洗面所で手洗いうがいを済ませてから受付で服薬チェック。


「お帰りなさーい」

「ただいま」


いつものように手ぶらの佐部さんがポッケから薬袋を出していると。

珍しく早く帰って来た伊集院さんが手も洗わずそのままエレベーターに乗って部屋へ上がってしまった。


「…………瀬見」


その姿をじっと見つめていた佐部さんが私に呟く。


「ヤツの部屋を見に行った方がいい」

「え、どして?」


彼は答えず、エレベーターで部屋へ。


「どうかした?」


同じ遅番勤務の鈴木さんが奥から声を掛けて来た。

不穏な雰囲気を察したみたい。


「少し伊集院さんの様子が気になって」


直ぐにインターフォンを鳴らす鈴木さん。

二〇一号室。


「……出ない。一応居室確認」

「はい」


マスターキーを持って階段で二〇一へ向かう。

伊集院さんの部屋の前。

突然、暗い予感に襲われて不安になる。


ドンドンドン! ドンドンドン!


返答なし。

名前を呼ぼうとしても声を出すのが怖い。

混乱した私は数秒間棒立ち状態。

ハッとして我に帰ると、震える手でマスターキーを使いドアを開けた。


カチカチン……ガチャ、どすっ。


ドアは少ししか開かず何かに当たる。


隙間からチラと見えたのは。

ドア前に倒れている彼の下半身と杖。

それではまた…

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