須木奈篇 同族殺しとマリア〜参〜
毎日21時更新します…
いつもの佐部さんと違う。
何かを伝えようとしてる。
「バンパイアにはオリジナルがいて、それ以外はすべてコピーだ」
妄想話とかでなくメッセージを。
「オリジナルは世界中に二十三人いてコピーのコピーは劣化していく」
「……佐部さんはどっち?」
「オリジナルのコピー」
「じゃ、くっきりのヤツだ」
何言ってんだ私。
そこ気になるか普通。
佐部さんも一瞬間が空く。
「えと何だ……あ、バンパイアは普段血を吸わない、人より長く生きれる、個体によって特殊能力がある、以上」
え、終わり?
「僕の周りにはそういうのが来るかもしれない。一応知らせとく」
多分、最後の部分を一番伝えたかったんだと思う。
不思議なコトにその話を私は素直に受け入れてた。
「あい、了解でぇぇすぅぅぅ……」
何かバグった感じでメモを彼に差し出してる。
アレ? 何ソレ? 知らないけど。
メモには奥多摩の住所っぽいのが書いてあった。
「問題ない」
突然、私の目を覗き込む佐部さん。
え、え、え、ちょ待っ…………
海だ。
目の前に海が広がってるゥゥ。
燃えてんじゃんコレ?
見渡す限りの緋色の海が静かに燃え続けてた。
何だろ。
意識がプチンて。
◆
「…………から妄想が酷くなってる印象ですね」
気がつくと私は事務所でミーティングに参加していた。
「瀬見さん?」
白木さんが意見を求めてる。
私に。
「え? あ、ハイ。ご本人からの訴えは初めてです」
ちゃんと答えてるみたいだ。
どうやら佐部さんの件で緊急ミーティングが行われてるらしい。
「陽性症状再燃してるのかもです。院長に診てもらいましょう」
「本院に夜診受診のお願いをします」
白木さんの意向を察して事務課に連絡する鈴木さん。
「午後のデイケアはキャンセル入れときます」
田中さんが支援課に連絡。
この二人は連携が早い。
「瀬見さん。佐部さんに居室待機で伝えてください」
「了解です」
やっと事態に追い付いた。
すると白木さんが自分の下唇を指差す。
釣られて下唇を触ってみる私。
少し出血してた。
◆
四〇三号室前。
ドアが開いてたから中に入ってみる。
部屋はもぬけの殻で佐部さんはいない。
クローゼットから出された細長い桐の箱二つがベッドの上にある。
一つは一メートル、もう一つは六十センチ程の長さ。
どちらも中身は空。
そしてクローゼットの中にはもう一つ、大きめの桐の空箱が置いてあった。
デカい花瓶でも入ってたのかって四角い箱。
何でかな、私にはわかる。
この三つの箱に何が入ってたのかが。
◆◇
早番業務が終わって本院でタイムカードを打つ。
十七時三十二分。
そろそろ入院患者さんの夕食の時間だ。
佐部さん、ちゃんとご飯食べてるかな。
午後の無断外出からさっき帰宅した佐部さん。
夜診を受診して、そのまま入院になった。
お部屋で一緒に入院の準備を手伝ってる時、いつもより少し険しい感じが漂ってた彼。
何か心がザワついてて落ち着かない私。
「瀬見。人は何の為に生きる?」
正直慌てた。
声掛けしようか迷ってたタイミングだったから。
「えっ、うーん…………とりあえず。かなぁ」
バカ丸出しの答えに気付く私、顔真っ赤っ赤。
すると彼はいつものテンションで答えてくれた。
「それ位がいいな」
本当は「仕方なく」って言いそうになったけど、今の私は「とりあえず」て感じなのだ……
エレベーターで屋上へ上がる私。
更衣室に入ってロッカーを開ける。
ドア内側のちっこい鏡でメイク崩れのチェック。
このまま歩いて帰るんで余程じゃないと直しはしない。
鏡に映った自分と目が合う。
その時、あるイメージが頭の中に飛び込んで来た。
イヤ違うな。
『頭の中に小窓が開いて、そこから見てる』
どこかの、そんなに広くない白い壁に囲まれた場所。
古い時代の衣装を着た大勢の外国人達が熱り立ち、空気が歪む。
その中央に若い女の首を掴んでる男が一人。
そして壁際にうずくまる佐部さん。
それではまた…