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須木奈篇 同族殺しとマリア〜参〜

毎日21時更新します…

いつもの佐部さんと違う。

何かを伝えようとしてる。


「バンパイアにはオリジナルがいて、それ以外はすべてコピーだ」


妄想話とかでなくメッセージを。


「オリジナルは世界中に二十三人いてコピーのコピーは劣化していく」

「……佐部さんはどっち?」

「オリジナルのコピー」

「じゃ、くっきりのヤツだ」


何言ってんだ私。

そこ気になるか普通。

佐部さんも一瞬間が空く。


「えと何だ……あ、バンパイアは普段血を吸わない、人より長く生きれる、個体によって特殊能力がある、以上」


え、終わり?


「僕の周りにはそういうのが来るかもしれない。一応知らせとく」


多分、最後の部分を一番伝えたかったんだと思う。

不思議なコトにその話を私は素直に受け入れてた。


「あい、了解でぇぇすぅぅぅ……」


何かバグった感じでメモを彼に差し出してる。

アレ? 何ソレ? 知らないけど。

メモには奥多摩の住所っぽいのが書いてあった。


「問題ない」


突然、私の目を覗き込む佐部さん。

え、え、え、ちょ待っ…………


海だ。

目の前に海が広がってるゥゥ。

燃えてんじゃんコレ?

見渡す限りの緋色(ひいろ)の海が静かに燃え続けてた。


何だろ。

意識がプチンて。



「…………から妄想が酷くなってる印象ですね」


気がつくと私は事務所でミーティングに参加していた。


「瀬見さん?」


白木さんが意見を求めてる。

私に。


「え? あ、ハイ。ご本人からの訴えは初めてです」


ちゃんと答えてるみたいだ。

どうやら佐部さんの件で緊急ミーティングが行われてるらしい。


「陽性症状再燃してるのかもです。院長に診てもらいましょう」

「本院に夜診受診のお願いをします」


白木さんの意向を察して事務課に連絡する鈴木さん。


「午後のデイケアはキャンセル入れときます」


田中さんが支援課に連絡。

この二人は連携が早い。


「瀬見さん。佐部さんに居室待機で伝えてください」

「了解です」


やっと事態に追い付いた。

すると白木さんが自分の下唇を指差す。

釣られて下唇を触ってみる私。

少し出血してた。



四〇三号室前。

ドアが開いてたから中に入ってみる。

部屋はもぬけの殻で佐部さんはいない。


クローゼットから出された細長い桐の箱二つがベッドの上にある。

一つは一メートル、もう一つは六十センチ程の長さ。

どちらも中身は空。

そしてクローゼットの中にはもう一つ、大きめの桐の空箱が置いてあった。

デカい花瓶でも入ってたのかって四角い箱。


何でかな、私にはわかる。

この三つの箱に何が入ってたのかが。


◆◇


早番業務が終わって本院でタイムカードを打つ。

十七時三十二分。

そろそろ入院患者さんの夕食の時間だ。

佐部さん、ちゃんとご飯食べてるかな。


午後の無断外出からさっき帰宅した佐部さん。

夜診を受診して、そのまま入院になった。


お部屋で一緒に入院の準備を手伝ってる時、いつもより少し険しい感じが漂ってた彼。

何か心がザワついてて落ち着かない私。


「瀬見。人は何の為に生きる?」


正直慌てた。

声掛けしようか迷ってたタイミングだったから。


「えっ、うーん…………とりあえず。かなぁ」


バカ丸出しの答えに気付く私、顔真っ赤っ赤。

すると彼はいつものテンションで答えてくれた。


「それ位がいいな」


本当は「仕方なく」って言いそうになったけど、今の私は「とりあえず」て感じなのだ……


エレベーターで屋上へ上がる私。

更衣室に入ってロッカーを開ける。

ドア内側のちっこい鏡でメイク崩れのチェック。

このまま歩いて帰るんで余程じゃないと直しはしない。


鏡に映った自分と目が合う。

その時、あるイメージが頭の中に飛び込んで来た。

イヤ違うな。


『頭の中に小窓が開いて、そこから見てる』


どこかの、そんなに広くない白い壁に囲まれた場所。

古い時代の衣装を着た大勢の外国人達が(いき)り立ち、空気が(ゆが)む。

その中央に若い女の首を掴んでる男が一人。


そして壁際にうずくまる佐部さん。

それではまた…

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