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須木奈篇 庭師と世話人〜参〜

毎日21時更新します…

その日の夜は満月だった。

赤く大きな月が低く垂れ下がっている。


昼間、商売道具を一つ置き忘れた僕が庭園に戻ると〝何か〟が野バラの前にいた。

初めはそれが何なのか、わからなかった。

やがて闇から影が抜け出すように、それは人の形を成していく。

僕は思わず小さな声を上げる。


(こて)で巻き毛にした黒い長髪。

細身だが甲冑をつけてもしなやかに動けるであろう鋼の肢体。

それを包み込むような漆黒のプールポワンとホーズ。

金属製で先が異様に尖った靴。


ワラキア公その人であった。


まるで森の王ヘラジカを思わせる圧倒的な存在感。

僕には目も()れる事なく呟く。


「Rosa caninaロサ・カニナ

「はい殿下」

「何故〝犬の薔薇〟と呼ぶのか」

「……わかりませんぺ殿下」


ここで初めて僕の方を見る。


「ギリシャローマ時代は狂犬病に効くとされていたそうだが」

「実はすごく栄養がありますっぺ」

「そうか。昼間皆で余の話をしていたな」


少し驚く。


「はい、殿下」

「お前は余に興味がないと見えるな」

「……」

「余にはわかる。お前は庭園とミハエラの事にしか興味はない」


驚きを隠せなかった。

頬が赤らむ。


「やっと少年の表情になったな。名を申せ」

「ヒューゴですっぺ」

「なかなか見事な庭園だなヒューゴ。城の中庭と違って見応えがある」


賛辞の後。

若き王が呪いをかけたのだ。


「明日からしばらく庭師はお前ひとりになる。よく励め。ただし」


まだ意味を図りかねている少年の僕に、だ。


「二度はないと知れ」


王よ、少年の愚鈍さえ罪と言うのか。


「次にもし、余を前にしてその心がひれ伏していなければ」


その内面が少しずつ人の器からはみ出して ……


◆◇◆   ◆◇◆   ◆◇◆   ◆◇◆


「はい、じゃ今日のガーデニングプログラムはここまででーす」


デイケア職員の号令でノロノロ動き出す利用者さん達。

佐部さんも立ち上がる。


「え、え、ウソでしょ? 終わり? ちょ、めちゃくちゃ気になるんですけど!」


見守りの仕事そっちのけで佐部さんに訴えるダメ職員。

こんなトコ白木さんに見られたらまた凹されるよ私。


彼は何事もなかったかのように。

さっさとデイケアルームに戻って行った。


◆◇


「ううぅぅうむ」


ベッドの上。

スライドしゃこしゃこしながら唸るシマウマ柄女。


「続き、気になるわ〜…………コレってBL?」


正直、佐部さんのする妄想話のファンと化してしまってる私。


どう捉えていいのかわかんないけれど……魅力的。

面白い。

抑揚のないあのしゃべり口調で語られると、尚更。


「尊い……」


とりあえず手を合わせといた。

それではまた…

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