須木奈篇 病み男と鼻血女〜壱〜
毎日21時更新します…
「職業……バンパイア」
年頃の私の目の前に座ってる無表情な男が。
何か言ってる。
「はい。出身はどちらですか」
書類に書き込む私。
職業欄にバンパイア、と。
「……トランシルバニア」
「あ、現住所でいいです」
「埼玉」
二カ月前までデパートの大食堂でかつ丼作ってた時には想像もしなかった世界に。
私は飛び込んだ。
年頃の女の子なのに……ヒラメ顔って言われる。
目も離れ気味だし横顔が気持ち、平たいのよ。
でも、愛嬌だけはあるらしいから。
髪の毛は頑張るコトにしてる。
黒のロング、染めない主義です。
で、私の目の前にいるこの男。
小柄で端正な顔立ちの二十五歳。
つか、美少年過ぎん?
短めの髪の毛はクリックリの亜麻色。
ハーフ? ハーフだよね絶対コレ。
私よか少し高いくらいの背丈。
目線合うのは嫌いじゃないよー。
全然合わしてくんないけども。
上下白のスウェット。
佐部昼人さんか。
「えーと、この〝ほっぺた〟でどんな生活を送っていきたいですか」
「引きこもり」
「はい、グループホームなんで日中は活動してもらわないといけないんですよ。今はお仕事されてないんでデイケアに行ってもらうコトになります」
「…………」
「はい、病院のソーシャルワーカーから説明あったと思いますけど。日中はデイケアでリハビリですね」
「…………」
ハロワの紹介でグループホームの職員〝世話人〟に転職したのが二ヶ月前。
旨くもないかつ丼作り続けるより自己肯定感アップすると思ったのか当時の私。
空色のポロシャツには何とか慣れたけれど。
精神保健福祉士の資格を持たない素人にはこんな時何て対応していいのかわかんない。
面接の時に理事長は言った。
『ウチは精神の人が相手だけど。君は大丈夫だね。殴られる奴はすぐわかる』
職場の先輩は言った。
『仕事は掃除やってもらうだけだから、心配ないよ』
この二カ月で職員が二人も辞めやがって。
業界は人の出入りが激しいと後で知る。
そして今、私は新規入居者の担当をさせられてるゥゥ!
「と、とにかく……そのォ、ここは自立度の高い方の入居施設です。職員の夜間宿直も食事提供もないけど大丈夫ですか?」
「うん」
「お、いいですね。じゃあ頑張っていきまっしょう!」
あ。
コレ言っちゃダメなヤツだった……
書類には統合失調症の五文字。
「……名前」
「へ?」
予想外の質問にバカ丸出しで答える。
「あ、私? 瀬見です。瀬見須木奈」
その時初めて彼と目が合った。
全てを拒絶する緋色の瞳……
何か、メッチャドキドキする〜。
息すんのも忘れて私ったら。
ゲポ吐いちゃったテヘ。
それではまた…