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2-45.ヒャクソクの虫は死して斃れず

 取り合えず今、使えるのは自分の体と『満月』の魔法。


 つまり結構走る。あのムカデくん結構動きやがる。大人しくしてくれ。間違っても暴れるんじゃねぇぞ。


 ……俺も随分成長したな。あんまり息が切れない。そしてあんなデカブツ相手に何故か対応しようと行動できている。


 こちらに来て初めのうちは、樹の根元から動くのにさえビビッていたのに。……なんであんなに長々とビビっていたんだろう。多分、自信がなかったからだな。


 さあ、段々と……段々と近付いてきた。ムカデの頭。そしてレルリラさん。




 …………?


 気付くと俺はちょっと吹っ飛ばされていた。空中にいる。……受け身取れ。


 …………何か見えないバリアみたいのに弾き飛ばされたのか。あのムカデの身体、その動力で殴られたなら多分もっとダメージ受けているはずだ。


 今度は『満月』を展開しながら小走り程度の速度でそちらに向かう。さっき吹っ飛ばされた辺り……問題ナシ。『満月』が上手く作用しているようだ。


 そして、いきなりそのタイミングで『地鞘の剣』が現れる。ここ、ムカデくんのバリア内って周囲とは違う感じなのか。それとも『満月』使ったからか?


 いや、今はそんなこと検証している場合ではない。


 ムカデのデカ頭は近い。……間違いない、『目のようなものは付いているが見えていない』。そして、そこに磔になっているレルリラさんももう近い。


 俺の手には剣。ムカデが暴れると困る。……ならやることはひとつ。


 アイツの首がかなり太かろうと、この剣なら斬れる。斬り通せる。……レルリラさんを助けようと頭に触ればさすがに相手も気付くだろう。


 奇襲からの首狩り、それしかない。……あんなでっかいモノ、斬るのは初めてだな。


 全力で助走。ムカデが頭を下げたところに跳ねて飛び乗れ。そして足が相手に付く前に刺し始めろ。


 硬そうな外皮の隙間に飲み込まれる刃先。首元に深く刺さった刀身。足が付いたら柄を放さず、引きずるように前に進め。手のひらに伝わる、刃と相手が擦れる感覚。


 俺には羽のように軽い剣。それが相手には、大伽藍の鐘のように重い剣。


 地響き。巨体は崩れ落ち、胴体はまだうねっている。……こちらを巻き込むような様子はないな。大丈夫そうだ。


 大岩が落ちて傾き、転がらぬままにまたゴトンと戻るように……デカムカデの頭は地面に落ちて留まった。


 切れた首の断面、血も体液も溢れない。やはりこれは生き物と言うわけではない。なにか……なにかがムカデっぽい形を取っただけ。


 まぁそんなのどうでもいい。……俺はムカデの頭によじ登り、なんか引っ付いているレルリラさんを慎重に切り離していく。


 ……そう、結局のところ、怪物を倒すのは目的があるからだ。


 今、俺が抱え上げている人ひとり分の重み。価値ある宝物、財の重み。この女の子を得るためにやっただけのこと。


 足のバネで着地の衝撃をなるべく無くすよう、慎重にムカデの頭から飛び降りる。


 安全を取るため、デカムカデから少し離れることにする。……このムカデは超常的な存在だ。離れておくに越したことはない。


 ……ふぅ。取り合えず一息ついて、レルリラさんの様子を確認する。


 レルリラさんはちゃんと息はある。寝ているのと変わらない。ほんのちょっとやつれた感じがするが、これはあのムカデが原因ではないだろう。


 得たならもう、さっさと離れよう。…………ん。……え、あれ?


 ……辺りを見回す……レルリラさんのことをちょっと見つめていた隙に、あの巨体はすべて消えていた。あれだけの大きさのものが、どこにもない。


 マジックショーで『ビルを消す』みたいなのがあった気がするが、実際自分の目前から巨大なものが消えると、意外と呆気なく驚きも少ない。


 


 疼く。手の甲辺りが疼く。……昔の中二病っぽい表現だが、実際そういう感覚がすると結構イヤだ。こんな疼きは欲しくない。


 ん……俺の右手の甲に……イレズミ?! あんま大きくないけど、なんか皮膚に染み付いてる。ヤダヤダ、これ拭けば取れたりしない? ……しない。


 えっ、ナニコレ。俺、生涯タトゥーとか入れる気なかったんだけど。温泉とか入れなくなるがな。……あ、異世界なら問題ないか。


 ……いやいやいやいや。いきなりこんなモンが手の甲に現れるって……コレ、ムカデの形しとる! 呪われたか?! こわいなーこわいなー。


 その文様を観察して、ひとつ気付いた。ムカデの頭がない。


 ……簡単な連想。その確認。レルリラさんの左手の甲には、ムカデの頭の文様が染み付いていた。


 …………えっ? キルマークとかそういうわけじゃないよね。なんかこれ、『形を変えて残っちゃった』っぽくないか。




 俺が唖然としていると、周囲の風景はまた彩りを変える。……そして少しの経過を経て、ウイアーン帝都の屋敷に戻ってくる。


 かなり日も翳ってきた時間帯。外は雨。ここに来たときには曇りだった。降らんだろと思っていたが降って来ちゃったようだ。


 大広間にはフィエがいた。ビックリした顔をしている。


「コバタ! え、なんかいきなり出現した?! 何ごと?!


 てっきりレルちゃんをどこかの部屋に連れ込みやがったものかと……」


「ちょっと待ってよフィエ。なんでそう思うの……。


 ……いや、俺の今までの行動が悪いですね。ごめんなさい」


「……なにか起こったっぽいね。レルちゃんどうしちゃったの?


 とりあえずベッドのある部屋に行って寝かせてあげよ。さっき屋敷中探し回ったから場所分かるよ」


 ……俺はちょっと嬉しくなった。俺を心配したのか、それとも嫉妬しただけなのか、屋敷中を探し回っちゃうフィエって可愛いなぁ。愛を感じる。

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