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2-41.【クィーセリア】暗躍メイドと魔法の秘密

 あのメイドはここのところフル稼働の勢いで暗躍している。しかも困ったことに『足取りを掴ませない』技術を持っている。


 先ほどフィエちゃんの護衛監視を終え、メイドを追ってみたが、消えた。


 ……敵だったらこれほどマズイ相手はいない。ヨチカ傭兵団で隠密行動の教えを受けた『猫さん』みたいな動きをしてくる。


 こちらも警戒と対処はしている。だが、相手にとってここは地元であり巣だ。地の利を得ている優位を見事に使われたら、ジリ貧になるだけだ。


 そんな風に感じ、ククノちゃんと改めて相談することにした。そして、話し合い始めて間も無く。


「クィーセリア様、ククノーロ様。


 お話の途中、大変失礼いたします。


 この下女に、割り込んでのお時間を頂けないでしょうか」


 ククノちゃんと相談をしているところに、メイドは突如として現れた。


「……いきなり不利を晒してくるってことは、友好的なのかな?


 それとも有利を見せ付けての敵対?


 ボクは話の前にまず、そこを聞いておきたいなぁ」


 そう、メイドは『突如として現れた』。つまり魔法を使っている。


 使用人らしからぬ不敵な笑みを一瞬見せたが、すぐに消した。……今の立場を思い出したのだろう。使用人としてプロ意識はあるようだ。


「ご質問に応えさせて頂きます。私の目的は協調、つまりは友好です。


 友好的であることを示すため、本来は秘匿すべき情報をお話します。


 私は『影入』『闇目』『魔法の盾』『内慈』『炸破』『斬り水』『早駆け』の七ツを使います。そこで止めてあります」


 魔法の構成が実用一点張りだ。単独行動を目的としている。諜報、索敵、近~中距離で目立たず使える攻撃魔法。それと防御と希少な自己回復魔法。


 反面、多人数と戦うための魔法や遠距離を狙う魔法はない。


「ほうぅ、血筋だけではどうともならん魔法備えじゃな。


 つまり、作ったか」


 ククノちゃんはボクから言葉の『ニュアンス』を学んでから、こっちの言葉での口調が変わった。気に入っているキャラ付けなのだろう。


「外道非道は行なっていませんよ。


 協力の形で『振り分け』して貰いました。『近場に置いた』のです」


 ……明らかにこのメイドは、魔法に関して『大機密』級の知識を持っている。


 魔法は『血筋によって生得するもの』と『近隣からの影響を受けて得られるもの』が存在する。メイドの口振りからするともっと他の条件もあるっぽいけど、少なくともボクが知っているのはそれが全てだ。


 例えば光教団でやっている『献身』なんてのは、政略結婚の目的の他に『血筋によって"どう魔法が子孫に伝わるか"の実験』でもある。


 貴族血統に『癒しの帯』や『光の大爪』の使用者が多いのは、その結果だ。


 それに『闇魔法』は宗教の範疇外に置かれて秘匿されている。


 それをわざわざ開示して来るってことは『ボクやククノちゃんのもバレてるぞ』って言いたいんだろうな。


「クィーセリア様は『闇目』をお使いになりますし、ククノーロ様は『闇聴』をお使いになられますから、お分かりになるでしょう?


 ……あら、失礼しました。口が滑ってしまいました」


「……ほーら来た。


 ワザとらしく『口を滑らせる』のは印象良くないです。そうやって情報ガバガバなフリをして『出さない情報は決して出さない』って思われるだけですよ。


 早く目的を口にして貰えますか。言ってくれないと分からない」


 メイドは眼鏡の位置を指で直した。ボクと同じで『闇目』を誤魔化す目的なのかも知れない。……まぁ、ボクの場合は先生のヤツだから付けてる部分もあるけど。


「同じ秘密を抱える者同士、結託しようという事じゃろ?


 この身の信用を得るのは大変じゃぞ。誠意を見せぬことには『いつでも破れる口約束』にしかならんからの」


「私は既に、コバタ様、フィエエルタ様より信任を得ています。この集団……一家を形成する頂点から認められております。


 そして先にこの一家に入られた姉御分の御二方には、これより身を尽くして信頼を得る覚悟にございます。


 すぐにお認め頂こうとは思っておりません。今後の出来高で、実績で、忠心で、態度で、気回しで、ご判断頂きたく思います」


「ほうぅ?


 裸になってひざまづいて、この身の足でも舐めて貰うか」


「……そこは性癖の範疇ですので、私の望んだ相手にしかしません。


 他の御用命をお願いいたします」


 ……命令しろ、と言う割には我を見せてくる。ボクは嫌いじゃない。『将官の言うことに疑問を持てる、拒否できる』タイプの兵隊さんだ。


「じゃあボクからも、命令するね。


 『なんで今、こんなことしているの?』


 それで『今後、どうしたい?』


 この二つを答えてくれる?」


「お答えいたします。


 今こうしているのは一家の結束を高めるための行動です。


 これより先は戦火の下での行動となります。未然には防げません。ならばこれより『生き残って勝つ』には充分な情報共有と、意思の統一が必要です。


 私の目的は『ウイアーン帝国を潰えさせることなく、また生まれ変わらせること』です。これは私の実家とは目的を異にします。


 私の実家は『なるべくの現状維持』しか考えていません。これから先、衰退していくだけの目標しか持っていないのです。


 私は今後、『コバタ様・フィエエルタ様を軸とした一家で、ウイアーン帝国における大功労をあげ、地位を得て変革を行なう』ことを目的とします。


 ご主人様の『迷い人』という立場は、この『叙勲』において有利に働きます。ケチを付けにくいのです。


 民間信仰が厚いジエルテ神は蕃神。つまりは外から来た神。『迷い人』というマレビトは、それに類するものとして扱われる。


 ……クィーセリア様。『災厄』の解決に、世界の安定は必要なことです。


 我らの情報網は広く、個人の聞き込みや調査で行なえる範囲を超えることが出来ます。あなた様に大きく貢献し、良い結果をもたらすとの自負がございます。


 ククノーロ様。『棄てられた兵』でこの国が揺らいで、よろしいのですか。


 『間抜けが食われて負ける戦争』なんて、ありふれたもの。『対岸からの精兵』を相手取り、抗戦・逆転するいくさの方が、御眼鏡に適うことではありませんか」


 この言葉が真実かは分からない。でも、少なくともボクたちの意に反する目標ではない。そして彼女はボクらと方向を同じくする立場だと示している。


「ほー。『あちらの言葉』を解していたか。


 下女風情が随分と、盗み聞きしてくれたものよのう」


 ククノちゃんは余裕綽々だ。……わかってたっぽいな。さすがだ。


「ですが『そういった腹芸ができること』は信用に適うと思いました。


 ……間抜けな正直者よりは、ご主人様を支える者として適格です」


「……ま、主人たるコバタが『スケベな間抜け者』のケがあるからの。


 ヤクザの娘。言っておくがこちらも弱くはない。利用だけなどさせんぞ」


「一点訂正をお願いいたします。戦衆の娘です。


 戦衆には任侠・仁義の心がございます。利用だけなんて、いたしません」


 ボクは思う。彼女の周辺調査を行なったが、まごうこと無きヤクザ稼業だった。少なくともボクにはそうとしか見えなかった。

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