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2-38.【トゥエルト国王】ヌァント王との会談

 今年の秋も収穫は滞りなく。稲穂はあちこち風に揺れ、黄金色の輝きを大地から吸いだしてくれる。……誇らしき我が国、まさに黄金の国だね。


 こんな素晴らしい気分にさせてくれる季節が終わると、いつもの定例の会合がある。ヌァント王とのお喋りタイムだ。


 なんともはや、ヌァント王。そうとしか言いようがない。


 ヌァント王はまさしく名君だと思うし、先代も大いに世話になっていた。自分もヒヨっこ王様の時からよく助けて貰った。おかげで楽させて貰えた。


 助言も取り計らいも物資の融通も無料。見返り無しでここまでしてくれるとか、ケツの穴でも狙われてるんじゃないかと随分悩んだものだ。


 でも、こんな良い人、有能で頼れる王様にも欠点が一つある。シッカリ者のせいか悲観的だし苦労人過ぎてちょっと可哀想な御方なのだ。……つまり、会ってもあんま楽しいお話にはならない。


 諫言やクドクドしたお説教もない。なのに楽しいお話にならないのは、現実が厳しいからだ。ヌァント王は何も悪くない。世界が悪い。


「やぁ、トゥエルト国王。


 お久しぶりだね。以前のように会合を設ける機会が少なくなってしまって誠に残念に思っているよ」


「おヒサです。『国王』なんてかたっ苦しく言わず、昔みたいに呼んで下さればいいのに。悲しいっす。尊敬する叔父貴からそう言われるのって」


「そうは言うがね。きみだってもう、立派に国内を取りまとめているだろう。


 ……まぁ、ウイアーンからの移民の件は、時間をかけて慣らしていくしかない問題だ。国内の右派の慰撫には気を払いなさい。彼らはきみが治める国を想って憂えているのだから」


「了解っす。まぁ、地元にヨソ者来たらいい気しないの当然っすからね。


 肩入れのバランス大切っすね」


「きみなら問題ないだろう。


 しかし……こんな時にジエルテ神が『災厄』を振れ回るとはね。


 残念ながら、こちらでも調査が及ばない。どうしても現実的な脅威の方が優先度が高くなってしまう」


「うちも似たようなもんっす。


 一応、何か異変を見付けたら報告することと、集団的な失踪などがないかを確認させてはいるんですけどね。


 ……まだ、歌い回る内容の情報が曖昧すぎ。ムリ、あんなん分からん。


 多分、『現実的な脅威』の方が先になるんじゃないですかね。あちらさんに都合のいいことにさ。参りますよまったく」


「そうだね。困ったものだ。


 ……そろそろだ。幾つも障害・妨害はあるとはいえ、マファクは動く」


「……あの御方も、昔は名君だったのにねぇ。


 いや、共和国だから『王』ってわけじゃないけどさ。実質、王でしょアレ。


 以前の愚王を潰して、その後に王様名乗らなかっただけの人じゃないすか」


「彼は血統というものに拒否感を持っているようだからね。子も持たなかった。


 後継者の育成の素晴らしさは手本としたいくらいなのに」


「……でも、本人がモーロクしちゃってるじゃないですか。


 体も頭もちゃんとまだ使えているのに、心がおかしくなっちゃってる。それを国内も後継者たちも止められない。『偉大なる法将様』だから」


「きみは私のことを苦労人と言うが、私から見れば奴の方がよほど苦労人さ。しかも悪いことに繊細で感受性が高い。


 そういう人間は、いろいろ気を回して物事を考えられるが、消耗も激しい」


「その『いろいろ気を回す』『繊細』なせいで、機を見るに敏なんですよねぇ。


 こっちが隙見せたら、即断即応される」


「……いずれにせよ、もう動く。そんな気がする。


 トゥエルトへのウイアーンからの移民。……勘繰りすぎかも知れないが、ここはしっかり押さえるよう。法将マファクの策かもしれん」


「……イヤですねぇ。あの御方ってさ『ダメ元でいろんな手を打って、あとから上手く回収してくる』っていう器用さがあるから、ツライですね。


 ああ、今年の収穫はしっかり戦備えに回してますよ。メシが無ければ兵は動かない。家族を養うメシを守るために兵は戦う」


「そうだね。民を潤す恵みを生む大切な国土だ。


 踏み荒らされたり、ましてや奪われることのないように」




 挨拶代わりの雑談。最近こんなのばっかり。今回の本題はこれから、席を変えて行なうことになる。


 西イェルト商会組合からの代表者を交えての、もっと堅苦しい話になる。




 現在、強力に結びつきを持つのは我らがトゥエルト王国とヌァント王国。ヌァント王国とシャールト王国。


 かつての宗主国であるウイアーン帝国とのお付き合いは、最も親しいシャールト王国でさえ『心の距離が近くない』。


 つまり、西イェルトの実質的なリーダーは、ヌァント王と言えなくもない。


 正直、未だ強いとはいえ殿様気分が抜けてないウイアーンなんて、ウザくて話し辛いだけ。いちいち毎回、席順に文句付けてくるタイプのウザい相手なのだ。


 やっぱり、協力できる相手とそーでもない相手っていうのには対応の差が生まれる。それはどうしても仕方ない。国民だって兵隊だって熱の入れ方違うし。




 三者会合の席で、トゥエルト国王として発言する。


「法将マファクは、ウイアーン帝国への進軍の際、海路のみならず、当国内を越境通過することを意図して軍を指導している。


 ペリウス共和国からの協力要請、あるいは通行許可、あるいは無許可の進軍があった場合、当国に大きな被害をもたらさない場合において、ウイアーン方面への進軍を容認しようと思う。


 理由は二つ。


 ひとつはペリウス共和国の精兵は大いな脅威であり、対抗するにおいて我国の被害は甚大であるということ。これは無為な消耗であり、今後の国内の安定を大きく揺るがすものだ。


 進軍時期において、法将マファクは農閑期を選んでいるものと思われる。これは青田刈りなど兵士による田畑への狼藉を避ける意図があり、進軍にあたって無用の騒乱を望んでいないことと思われる。


 また軍組織として規律も高いため、当国内における無用の暴行・放火・破壊・強姦・略奪なども……皆無ではないであろうが、大きく抑えられることであろう。


 ふたつ目としては……まぁ、ウイアーンにしてもペリウスにしても『もうちょっと大人しくしていて欲しい国』だからだね。


 我国からウイアーンへの進路は、長く山間を進む隘路だ。出口をウイアーン側に叩かれて大きく消耗するかもしれんし、我軍精鋭で補給路を抑えてしまえばあっちで略奪するなりで何とか維持する他なくなる。いずれにせよ、大きな損耗だ。


 ……ただ、こんなあからさまな弱点をあの法将が想定していないという事はない。常に足元をすくわれる覚悟を持って、この国難に対処したい。


 平和と言うのも考え物だ。軍を無駄に置いてはおけないし、その精度も追求し辛い。愛する我が民草は、自らが焼き払われる危険があると知るまでは中々に常備軍増強の必要性を理解してくれない。


 まぁ、その辺りは連携を重んじたいものだ。親愛なるヌァント国王、そして付き合いの深い商会とも、連絡を密に。共栄の意識を持って助け合おう。


 ……しかし、まったく。困ったものだね。


 この……何と言うかもう、『人間の愚かさ』としか言いようがない。


 『やれることをやってきた人間』である法将マファクが『やり終えるべきところで止められず、やれることを探してしまった』。


 ……そうとしか思えない。こんな愚行は。


 借金を踏み倒すというのなら、信用と一緒に証文一つ焼いてしまえばいいだけだ。他国を焼いてまでやることじゃあない。


 お、商会の方には渋い顔をさせてしまったね。これは失敬」

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