2-37.オレンジは苦悩、ピンクは淫乱
どうも、あの試合以降、ご長女ハーレン様からの視線がキビシイ。
こちらをチラチラ見ていたりとか、視線を感じて俺が振り返った時とかに、それまでジーッと見られていた気配がある。
というか、このところ彼女は実家に入りびたりだ。騎士志望として実家を出て修練に励んでいたはずなのに、なぜかずっといる。
……まぁ、きっと、お母様のことが心配なんだろう。優しい子だね。
…………まぁ、なんかアプローチしてくるわけでもないし、むしろ距離はちゃんと取られているので多分問題は起こらないだろう。
試合後にジト目で見て来たフィエとも関係は復調したし、俺の勝利を喜ぶララさんや、闘技ファンであるアーシェからの尊敬も勝ち得た。クィーセには『恋の魔法』をかけ直して貰ったばかりだ。
というわけで、ククノにプレゼントを渡しに来た。クィーセやララさん、アーシェにはすでにプレゼントは渡してある。
【ほう、それがこの身への贈り物か。
なるほど、中々に趣味の良いもののようじゃな】
「他の人より遅くなっちゃってごめんな。
踊り用の靴って、前の世界でも見たことなかったから、一度メルにサンプルを取り寄せて貰ったりしてデザイン固めるまでに時間かかっちゃったんだ」
【ふふん。
その言葉は『一番手間暇かけた』と受け取っておこう。
贈りもの……うれしい。
うん、とても嬉しいぞ】
ククノは、普段の『ちょっと尊大な顔』『ダチとしての顔』『甘えられる幼女ママとしての顔』とは別の、柔らかい表情で感謝の意を伝えて来た。
……ちょっと困る。ストレートにかわいい。まっすぐ心に来る笑顔だ。
「……喜んでもらえたなら何よりだ。
サイズ大丈夫だと思うけど、一度履いてみてくれるか」
【履こう。
……だが、踊らんぞ】
「え、何で?
ククノが踊るために作って貰ったのに」
【……お主が覚悟を決めて、この身を寝屋に呼んで、それからじゃ。
この踊り靴を履いて踊るのは、な。
……さぁて、何度大きさを直してから呼んで貰えることかの】
「……すまん、マイフレンド。
ほんっとゴメン。……俺の心の葛藤が本当にククノに(略)して大丈夫なのか迷い続けているんだ……!
…………倫理的に、規約的にアウトでは、と」
【まったく、よく悩む男じゃのう……。
まぁ……代わりに一言。
一言貰えるかの】
「ククノ大好き。大好きです。すごく好きです。ククノがお婆ちゃんになって、多分俺が先に死ぬまで一緒にいて下さい。
俺はククノを泣かせたくないので、お墓の前でも笑顔でいて下さい」
【まったく、気が早い男じゃのう……。
まぁ、そうするようにする。……お主と一緒ならお婆ちゃんも悪くないかもな。
いつか、この靴を履いて踊る日は必ず来る、そう思っていいんじゃな?】
「……うん。
でも、その後……友達として見れなくなっちゃうのが怖いよう」
【いや待て。……普通、男はトモダチに甘えて泣かんじゃろ】
ククノへのプレゼントを終え、俺はメルに支払いの確認に向かった。
プレゼント代金は、メルからの依頼とソーセス様から斡旋して頂いた試合のファイトマネーで足りているかの確認だった。
「充分足りています。ご主人様。
プレゼント費用を差し引いたお金をお渡し出来ます。かなりの額です」
「いや、俺はこっちの金銭感覚よく分からんから、メルが持ってて。
メルちゃん銀行に預金しておくから」
言ってから翻訳が働くか気になった。こっちにも『銀行』に相当する概念はあるんだろうか。
「分かりました。メルちゃん銀行、開行しますね。
必要な時はいつでもお申し付けください。預入・引出・振込手数料は無料です。
今ならお得な金利プランがあります、どういたしますか」
……思ったよりこっちって、金融制度がちゃんとあるんだな。
「え、お得な金利プランってどういうやつ?」
「それは勿論……」
メルの提案は、とてもメルらしいものだった。
……ちなみに、ノンキにもこんなことをしている裏側で、ちゃんとクーデター組織や『災厄』や『砂漠向こうからの侵攻』『対岸からの侵攻』についても情報集めや対策を練っている。
アーシェ、ララさん、クィーセには、メルを仲間に引き入れての情報網構築を検討して貰った。まだ信用が足りないようで、検討は終わっていない。
ククノには、その慧眼を以ってメルが信用できるか聞いたが『決して安全な娘ではないが、信用は置ける』との回答を得た。
フィエには土下座して、メルのハーレム入りの正式な了承を貰った。『わかってたけど、また増えたね。これからも苦労すると思ってたけど、割とすぐだったね』という残念ながらも当然なコメントを頂いた。
……ただ、思ったよりフィエはメルに対して好意的反応だった。もしかしたらフィエって……クィーセの件もあるから、俺はチョット疑っている。
(略・メルと金利プランの打合せ)
ハーレンは、またしても自身の部屋で聞き耳を立てていた。……いい加減、自分がこんなことをコソコソやってることが、恥ずかしく思えて来た頃だった。
……あいつら、色ごとに関して明け透け過ぎないか、とハーレンは苦悩した。
ハーレンが習った性知識では、色事とは秘め事であり、こんなに頻繁で激しいものではなく、もっと密やかで慎み深いものだった。
なぜ自分がこんなにも思い悩まなくてはならないのか。…………なぜ、今になっても恐れなくてはならないのか。
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