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2-36.ざっと・おーるど・ぶらっくまじっく

 あの不名誉な試合から開けて翌日。翌月でもある。もう結構寒い。とっくに秋に入って体感的にもう冬の手前だ。


 俺は、再度悩み始めていた。さすがにおかしいと思ったからだ。


 道化のレルリラさんからの熱い口づけと視線。何で、どうしてこうなったとしか言いようがなかった。さすがにその、モテ過ぎていて訳が分からなかった。


 こういう相談事を抱えた人間が放つ雰囲気をいち早く嗅ぎ付けるのはやはりクィーセだった。


「お悩みですか、ボクの生徒さん?


 どうしたんです。話して、相談してみて下さいな。聞きますよ」


「クィーセ先生……俺ちょっともう、なんか訳わかんないんです」


「ふーむ、具体的には?」


「なんで俺がモテてるんです?


 なんか、その。俺に変な魔法でもかかってたりはしませんか、魅了するような。


 『魅了の魔法』みたいなのってこの世界にあったりしないんですか?」


 俺の頭の中には『催眠アプリ』という言葉が浮かんでいた。俺は知らず知らずのうちに、ジエルテ神に変な特殊能力を持たされているのではないだろうか。


「まぁ確かにモテていますけれど、うーん、魅了の魔法? ないと思うけどなぁ。


 モテ過ぎて辛いとかそういう奴ですか?」


「違います。


 こんなに『俺がモテるのはどう考えてもおかしい』んです。自己評価と他者からの好意の乖離が激しいんです」


「……ふむ。まずは自分をどう評価しているんです?


 ボクの生徒さん、そこから考えていってみましょう」


 クィーセ先生は前と変わらず、ひとつひとつ俺の疑問を解決しようとしてくれる。物分かりの悪い生徒としてはとても助かる。


「ええとまず、俺ってそんなに格好良くはないですよね」


 これは間違いなくそうだ。前の世界で女の子に声かけられたり意味深な目線は向けては貰えなかった。俺はまず間違いなく顔がいいわけではない。


「絶世の美男子かと言われれば、そうではないでしょうね。かといってその逆というわけでもありませんけど。


 まぁ……家の広間に絵にして飾っておくほどではないですかね」


 一瞬、そのイメージが頭の中に沸いたが、確かに似合わねぇな。


「そうですよね……良かった、安心しました。


 次に俺って強そうとか金持ちとか、そんな風に見えます? 何か特別な要素……利点があるように見えますか」


 自分で鏡を見てもそうは思わない。だが、他人からどう見えるかは他人に聞いてみないことには分からない。クィーセ先生はこういう時はウソは吐かずに言ってくれる人だ。


「まぁ『迷い人』という特殊さは持っていますけれど、それが今のモテ具合に大きく作用しているようには感じませんね。それと、さほど強そうには見えません。


 ただ昨日、かなり勝負強いところ見せましたから、これからモテるかも、です。でも生徒さんが言ってるのは未来の話じゃないから関係ないですね。


 アーシェルティ殿のお世話によってやや良い召し物になってはいますが……失礼ながらお金持ちっぽくは見えないです。衣装を着た馬子ですね」


「そうですよね。うん、俺の認識は間違ってないみたいです。


 ……あと俺、別に性格良いわけでもないですよね」


「性格は個性でしかないので、良い悪いで判定するものじゃないとボクは思います。どちらかと言えば好みの問題になりますね。


 ボクは好きですよ」


 クィーセ先生はニコッと素敵な笑顔を向けてくれた。


「ありがとうございます。俺もクィーセ先生の性格は好きです」


「照れちゃうなぁ。


 ……ふーん、ボクの生徒さんが悩んでいる理由がなんとなく分かってきました。つまりは『女性から好かれる要素』が自分にはないと思っているようですね」


「そうです、そういうことです」


「ふーむ。落第点の生徒さんだなぁ。


 ……答えは先生、もう分かっちゃったんだけど少し回りくどく説明しますね。計算式をひとつずつ、解いていきましょうか。


 ね、不安がりの生徒さん。フィエちゃんやララトゥリ姉貴に『何で好きか』聞いたことってあります?」


「……あります」


「絶対内緒にします。これには一片のウソもないです。教えてください」


「…………フィエは『俺が傍に居て、自分にとって嬉しく感じることをしてくれる』からだって言っていました。


 ララさんは『理由なんて後付け。気付いたら何となく』って」


「うんうん。その材料があるなら、もう答えが見えていてもおかしくないね。


 じゃあ、ボクがコバタさんを好きな理由も言うね。『ちょっと危なっかしくて、なんだか優柔不断で、気持ちの整理が下手で悩みごとばっかりで、でもそれなのに頑張って何とかしようとしている人』だからだよ。


 これは好きな理由の一部でしかないですけれどね」


「……最後の『頑張ってる』以外は欠点ばっかりですね」


「ふふふ、そうだね。


 ちなみにボクの憶測だけど、アーシェルティ殿がコバタさんを好きな理由は『臆病な自分を外に連れ出してくれる人』だからじゃないかな、って思ってる。


 あの方は『勤勉で行動的な仮面』を被ってはいるけど、結構怠け者で臆病者なところもあるんですよねぇ。


 多分コバタさんと出会わなかったらメリンソルボグズでヒキコモリですよ、あの人は。あんまり『普段と違ったこと、あまりしたくない』タイプ」


「……アーシェには俺を好きな理由、聞けてなかったんですけど。


 クィーセ先生が見るにそんな感じなんですか……? 怠け者……?」


「行動に関しての怠け者というよりは、精神的な怠け者と言った方がいいかな。


 コバタさんとはちょっと違うけど、アーシェルティ殿には優柔不断なところがありましたよ。間違いなくね。


 今はだいぶ治療されましたけどね。主治医はあなた、コバタ医者センセイ。


 コバタさんが右往左往するタイプの優柔不断なら、アーシェルティ殿は臆病から来る『動かないままの優柔不断』ですかね。


 仮面に従ってルーチンワークするのはあまり苦ではないけれど、新しいことへ挑戦がなかなかできないし、その状態を維持してしまう。すなわちナマケモノ」


 クィーセ先生の分析は、俺の洞察とはかけ離れていて正直理解が難しい。アーシェって優柔不断……なのかなぁ。うーん、俺にはそう思えない。


 俺が頭を悩ませていると、クィーセ先生は話を軌道修正した。


「話それちゃったね。


 もう材料は出ているはずなんだけど、答えは見つからない?」


「……???


 ええと……、ええと……」


「出来れば自分で答えを出してほしかったけど、あんまりイジワルしても仕方ないから先生から答えを言うね。


 『人を好きになる理由なんて、人それぞれ』なんだよ。


 確かにコバタさんが言った『容姿・長所・性格』って重視される要素ではあるかも知れないけれど、それはさすがに『要素』に偏り過ぎだよ。


 ララトゥリ姉貴の答えが一番的を射ているかもしんないね。『気付いたら何となく』って。コバタさんが今、好かれている理由なんてそれでいいと思うけどなぁ」


「……いや、その……わかりますけど……。


 でも、こんなに沢山の女性に短期間で次々と好かれるのって、ちょっと普通じゃないような」


「まーそうかもね。それをコバタさんは不安がってるんだね。


 ……そうだね、さっきコバタさんの言葉の中に『魅了の魔法』ってのがあったね。もしかして『その魔法が解けちゃうこと』を不安がっているのかな?」


 ……図星だった。好かれ過ぎているということは、不意にそれを失うのではないか。それが俺の恐れるものだった。


「コバタさん、ボクの生徒さん。そんなことを気にする必要はないよ。


 だってさ、仮に『魅了の魔法』だったとして、何が困るのさ。


 『普通の恋』だって、ボクたちが気持ちや感情だと思ってるだけで、実は何かの魔法なのかも知れないんだよ? 太古の昔から続く大魔法なのかも。


 それに『いつ解けるか分からない』って不安を持つのは恋だって何も変わらないんだから。恋をしている人は、それに少なからず怯えて生きている。


 コバタさんはしっかり、その魔法をかけ直し続ける他にないんだよ。……あとね。ボクからもちゃんとかけ直してくつもりだから……んふふ。


 ん…………。どう? ちゃんと、かかってくれたかな?」


 やっぱ俺、クィーセ先生好き。こんな魔法なら何度でもかかりたい。

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