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2-32.本番に向けての傾向と対策

 次の日、ララさんは朝からサーカスに遊びに行き、昼頃帰ってきた。


 明日に向けて調整を頑張る俺を呼び出して、作戦会議を始めた。


「えーとだな。今日はサーカスに行って舞台裏で情報収集してきた。


 まぁどんな職場でも部外者とそうじゃない相手には応対が違うもんだ。昨日戦って、私はある程度『身内側』と認識して貰えたらしい。優しいね。


 んなわけで、ある程度情報は集められた」


「ちゃんと考えて行動してたんですね。ノリかと思ってましたよ。


 というか、まさかララさん。……俺を明日2戦2勝させるつもりですか?」


「勝たなきゃ勿体ない。


 せっかくの機会だ。私とキミは有名側になっておこう。中途半端に名前を知られているより、有名であることの利益をこれから使いたい。舎弟とククノは目立たない側を担当して貰って、フィエとアーシェはその中間だな。


 そんなわけで勝ち方を考えて来た」


「……それでレルリラさんと戦ったんですね。


 俺の勝ちが確定しているケペーさんを押しのけて」


「そうだ。だがケペーも花形だけあって弱くはなさそうだ。


 説得力というか、ある程度キミがしっかりやって負けて貰わないと胡散臭い感、八百長じゃねって感じが出ちゃうからそっちもしっかりやろう。


 まず、試合前にケペーと打ち合わせて、本気で武器攻撃して貰え。それを『地鞘の剣』で受けろ」


 ……本来なら秘匿すべきものをいきなり使えと申すか。ララさんって最初は『そんなもの絶対に人にバレないようにしろ』とか言ってなかったっけ?


「……ヤバい剣だってバレたらどうするんですか。


 しかもうっかり手から取り落としたら消えるんですよ」


「大丈夫だ。その剣の魔力流動は近場以外で察知できない。


 剣は実体化したままで、ずっと握っていればいい。それとマントか何かを付けて誤魔化す。昨晩の会場思い出せ。危ないからか割と距離あっただろ」


「まー確かに。レルリラさんの投げナイフとかも見やすいように柄にひらひらする布飾り付けたり、腰のナイフもギラギラに磨いてましたね。


 レルリラさんが動くたびに鈴の音がしていたのも、あれは不利ですしねぇ」


 考えてみると『舞台映えする工夫』は確かにされていたように思う。実際の戦闘にはいらない要素は結構あった。


「あとは結局『見世物』だから、派手なことやっても演出と思われる。こっちにとっては有利だ。対戦相手だって何かの仕込みと思ってくれるだろ。


 あと、キミには弱点がある。説明するぞ。


 キミの手持ちの魔法で使えるのは『魔法の霧』を除いた全部だ。見世物だから『魔法の霧』は絶対使っちゃダメだ。視界を悪くするものはダメ。


 魔法相殺と牽制には『風の拳』を使う。派手さの演出には『早駆け』で全力ダッシュだな。体当たりをやってもいい。『炎槍』はピンポイントでの攻撃。『癒しの帯』は肉弾戦時に巻いたままにすればかなり負担軽減できる。


 ……分かったかもしれないが、キミは魔法にまだ十分熟練していない。『決定打』を持っていない。『太陽の矢』『月関係の4つ』は使えない。さすがに目立ち過ぎる。


 だから『派手な勝ち』を演出するには『地鞘の剣』による武器攻撃で何とかする他ないんだよ。


 他にも試合の特性として『あっという間に勝負が決まる』ということは選手側から嫌がられる傾向がある。負けた方は大きく株を落とすし、勝った側もインパクトこそあれ見せ場が少なく終わってしまうからな。


 これは明白にルールではないが、暗黙の了解として選手間にあるようだ。だから序盤はある程度、相手に攻めさせても大丈夫。いい感じに手加減してくれる。


 加えて『派手な技は受けに行かなくてはならない』みたいな傾向がある。昨日、試合内容の傾向を見て私もそういう風にしてた。


 レルリラの『早駆け』からの体当たりとか、アレ結構危ないんだけどワザと受けたんだ。あの体当たりって地味な様でいて如何にもぶつかり合いだから男の観客からは特に好評らしい。


 つまり先にやれば、レルリラのお株を奪って攻撃できる。二番煎じはおそらく避けるだろう。相手の危ない技を封印できると考えれば儲けものだ」


 ララさんは熱心に語るが、俺としてはちょっと困る。……明らかに派手な方向に行っている。あまり目立ち過ぎる立場というのは、SNS社会を見てきた身としては避けたいところだ。


 俺は承認欲求はちゃんとある。でもこれはリスクが高すぎる。目立ち方を間違えた人がどうなるかの怖さはネットで散々見て来た。それはきっと異世界であるこちら側でも変わらないはずだ。


 ……正直、目立ちたい理由なんて今はない。だってフィエがいるし、ララさんやアーシェ、クィーセにメル、ククノがいるんだぞ。もう満たされ過ぎてるんだよ。


 俺だけならまだしも、彼女たちにリスクが及ぶのは避けたいんだが……。


「ララさん。


 えーとその。せっかく調べて頂いて恐縮なんですが、目立つことのリスクを軽視し過ぎでは? あまり有名になっても動き辛い状況になりませんかね?」


「大丈夫。一時的な有名になるだけでいいんだから。


 むしろ『色狂いの迷い人』とか『アーシェの愛人』ってことで中途半端に有名な今の方が危ない。利益に比べリスクの多い状態だ。


 そもそも私だって昔は『神童』『島から来た怪物』とか言われて有名人だったんだぞ。……それが昨晩までは『ほぼ無名の人』になってたんだ。人間って飽きやすいし、特にここって都会だからすぐに忘れ去られるよ……」


 うーん。ちょっと納得し難い。……ララさんって妙な部分で楽観的なところあるからなぁ。


「それにキミ、近場のリスクに目が行き過ぎていて忘れてないか。


 『砂漠向こう』とか『対岸』からの侵攻というデカいリスク抱えてるだろ。10人に満たない集団でそれら全てに対抗する気か?


 なにか民衆や政治家なりに呼びかけて協力を仰いだり、世論を誘導する必要も出てくる。しっかりと有名になっておいた方がいい。無名の身じゃ声が届くのは耳に聞こえる範囲だけ、それも影響があるかないか分からない」


 ごもっとも、ごもっともすぎる意見だ。俺は『自分自身で誰かに呼びかけて解決しよう』という思考が頭からまったく抜けていた。


「…………そうですね。


 なんていうか俺、性格的に目立つの嫌いなせいか、やらない理由ばかり探してました。俺の言うことを、大勢の人が聞いてくれるとはどうしても思えなくて……」


「それはキミがどうこう思うことじゃなくて、呼びかけた人がどう反応するかだ。


 まぁ、全て解決した後は有名じゃなくってもいいよ。


 どこかのド田舎にこっそり隠居していれば多分大丈夫だろ」


「全ての難題を解決して……その解決に関わってたと知られていたら、それって超有名人なのでは……」


「大丈夫、忘れて貰えなかった場合は有名を受け入れればいいだけの話だ」


「……そっすね。


 どちらにせよ、勝たないことには始まりません。


 ……やってみましょうか」


「キミはやる気出したときはちゃんとやる奴だ。


 しっかり協力する。勝ってこい」

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