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2-31.ララさんとか言うお祭り生物

 しばらくして戻ってきたララさんは、盛装をやめていつもの服と防具に、ちょっと舞台映えする飾りを付けた格好になっていた。魔法杖も持ってる。


 ……あー、この人やる気なのか。


≪続きましての試合は、我が団の誇る俊足の道化師!


 空を飛び、その多彩な魔法と投げナイフで相手を翻弄します!


 "刃風を呼ぶ道化"ッ!! レェェェェェルゥリィィラァァァァァッ!!


 そしてその相手は傲慢不遜の暴虐の王……おや、これはどうしたことか?!


 暴虐のケルペロウスが倒れている?!!


 何故だ?! 何が起こった?!!


 誰だ?! 一体誰がこんなことを?!≫


 ……何だこの演出は。クッソわざとらしくて思わず笑う。


「私だッ!!」


 ララさんが客席から舞台へと飛び降りる。アーシェが狂喜する。フィエは『あー、なるほどね』の顔をする。クィーセはやれやれと言った表情だ。ククノはお腹いっぱい食べたせいか先ほどから微妙に眠たげだ。アルメピテ奥様は驚いて倒れそうになる。メーラケがそれを支える。ハーレンはワクワクと子供の表情だ。メルは赤面のまま、先ほど仕込んだローターに耐えている。


 俺はララさんが単なるノリで参加したのか、何か考えがあってのことかを思案していた。……まぁ、戦うとイキイキするタイプだし、ノリだな。


≪だっ、誰だ!


 ああ、あれはソーセス様の館に訪れているという『迷い人』の連れ!


 そう、メリンソルボグズ光教団の英才と呼ばれた女!


 僅か11才で魔法を習得し、多くの実績を積み上げてきたと言う女傑!


 ラァァァイラ!! トゥゥリアァァァァ!!≫


 なんでプロフィールと名前しっかり知ってるんだよというツッコミは野暮だろうか。まぁ興行ってこういうもんか。




 道化師レルリラとララさんは向かい合った。先ほどまでの試合の流れからすると、ここでそれぞれ啖呵を切ることになる。


 試合のルールはシンプル。何でもアリだが『とどめや一撃死する攻撃はダメ』『治療を要する大ケガの場合はそこで終了』『あまりにも狙いすぎた判定勝利は観客が怒るからやめとけ』『派手にやれ』以上だ。


 ララさんに向いたルールだと思う。でも相手は試合のプロなんだよなぁ。


「そこの木偶の坊は、そういう姿になりたいようだったから潰した!


 雨にも負けず風にも負けずに訓練してきたようだが、私の敵ではなかった!


 レルリラッ! オマエもあの木偶の坊の様にしてやろうかぁ!」


 ララさん悪役側かよ。アンタそれでいいのか。でも観客受けはそこそこ良い感じだ。……女性からの黄色い歓声、ララさんカッコイイ系の女性だしなぁ。男からもこういう展開が好きな層が低い声の歓声をあげている。


「これは唐突、見知らぬ者が舞台へ参る。


 僭主に代わるは真の王たらんとする者。


 期待を胸に挑む戴冠の儀は、待ち惚け。


 これは偶数、奇なる道化は気が滅入る。


 道化の被るは鶏冠(とさか)の帽子なんですもの。


 舞台の上に居残るひとりは、立つ道化」


 独特の口調で排除宣言が成される。あっちも別に正義って感じがしねえ。感情のない殺戮アンドロイド的な内容を言ってる。悪役VS悪役の構図にしか見えない。


 どちらが正義でもない。『勝手に戦え!』といった構図の試合だ。




≪試合ッ……開始ッ!!≫


 銅鑼が打ち鳴らされ、試合が始まる。


 道化師レルリラは開幕から跳ね、『風の扇』でララさんを牽制しつつ自身はその反動で更に高く飛びあがる。『風の拳』を上手に使って更に上へ上へ……高い、高いって。天幕ギリギリの高さ、あんな見上げる高所まで跳ぶのか……。客席までそこそこ強い風が来る。観客も心得たもので、帽子や小物が飛ばされないよう抑えている。


 ララさんは激しい風が叩きつけてくる中、得意の『灯虫』の魔法を輝かせて高くに放って素早く反撃する。ララさんは『派手にやれ』のルールを守った攻撃をしている。ガチガチに狙いに行ったというよりはやや迂回気味に魔法を綺麗に魅せながらの反撃だった。


 上空でヒット。小さな花火の様に『灯虫』が弾ける。ララさんは相手が落ちてくるまでに更に2回『灯虫』を曲げ撃った。その度に弾ける光と、空中で横合いから吹き飛ばしを受ける道化師。『灯虫』は勢いよくぶつけると人間を小さく吹き飛ばせるだけの衝撃がある。


 道化師は身を丸め、くるくると速度をあげて落ちながら『風の拳』を使った。ララさんへの攻撃と着地のための減速を兼ねる。叩きつける猛風をララさんは『魔法の盾』で相殺する。


 着地前に短剣が3本道化師から放たれる。ララさんはそれを杖で弾いた。ちょっとボロッとなった道化師と、まだまだ余裕のララさんが向かい合う。


 ララさんは相手を見据えながら余裕ある顔で油断なく構える。そして、無表情気味なアルカイックスマイルだった道化レルリラはニヤリと笑った。


 仕切り直しの雰囲気が出て、そのタイミングで歓声が沸き上がる。


 道化師は軽く、タップダンスのような仕草をした。俊足。『早駆け』を使ったようだ。ジグザグとフェイントで幻惑し、それを維持しながら体当たりをする。


 ララさんは杖でガードしたものの勢いよく吹っ飛ばされて受け身を取る。そこに短剣が飛ぶ。ララさんは『水壁』でそれを受けてさらに後退して大きく距離を取る。『水壁』でララさんから自分への視界が遮られたのを見た道化師レルリラは『炎槍』を何発も曲射する。放ち終えに併せてまた駆け出して距離を詰める。ララさんが『炎槍』を『光の盾』で相殺する。


 レルリラは走りながら、今までの投げ短剣とは違う、腰の後ろに付けた長ナイフを引き抜く。柳の葉のような刀身を持つ長いナイフ。きらきらと磨き上げられて、照明をよく反射して目立つ。


 ララさんは相手を視認すると杖を投げ捨てて、射程距離に入るまでに一呼吸置き『雷電』を使う。近距離高速移動。掌底で相手の肋骨あたりを狙っている。道化師は読んでいたのか用意していた『風の拳』でその速度を相殺する。ララさんの掌底をひらりくるりと避けながら腕を決めて引き倒す。


 そして道化師レルリラはララさんの首筋に、きらきら光るナイフを突きつけた。……ララさんの降参宣言が出る。


≪試合ッ……終了ッ!!!


 飛び入り参加したライラトゥリア選手、惜しくも負けましたが健闘しました!


 また、当サーカスの戦闘の花形、道化師レルリラも変わらずの勝利!


 皆様、両名を称え、今一度大きな拍手と歓声をお願いいたします!≫




 試合後、俺は席に戻ってきたララさんにインタビューした。


「Q.敗因は何ですか?」


「A.食後だったから。


  食事が美味しくって、つい食べ過ぎた。お酒もちょっと入ってた。


  んで、ちょっときつくなってきちゃって杖を投げて相手に合図した。


  あれは、『雷電』使うよー相殺して反撃でキメてねの合図。


  戦闘続行のつもりなら杖捨てるわけないじゃん」


「Q.え、八百長だったんですか?」


「A.いや、最初から勝敗を決めていたわけじゃない。


  ただし、なんか無理そうになった時の合図だけは申し合わせていた。


  あれは私の負けと感じたから合図した、つまり本当に負け。


  最後は良い感じに試合を締めてくれた。ケガもないし」


「Q.つまり、ガチで負けたんですか。


  いろいろ言い訳してはいますが、ガチで負けたんですねララさん」


「A.衆人環視でパフォーマンスしながら戦ったことなんてないんだぞ。


  こっちは10年位前に武術大会出て以来、衆人環視もやったことないんだ。


  ……まぁ、アガっていた部分はあるけど。それ含めガチで負けたね」


「Q.有難うございました。何かコメントはありますか」


「A.次回コバタくんが戦ってボッコボコにされたときのインタビューが楽しみだ」




 スタジオ解説者・クィーセと、コメンテーターのアーシェとフィエ。


「フ:まぁなんというか……普通に相手が強かったですねー」


「ア:ララトゥなら、もっとやってくれると思ったのに……残念です」


「フ:まぁまぁ。次はコバタが戦うわけですし、そちらに期待しましょう。


   ところでクィーさんから見て今の試合いかがでしたか?」


「ク:んー。レルリラ選手はちゃんと試合向けの戦闘用の衣装ですね。


   ララトゥリ姉貴もそうではあるんですが、明らかに質が違う。


   彼女の特性と『試合という状況』に合わせての衣装を使っています。


   あれは風の受ける帆と同じく、体を浮き上がらせるのを助ける機能持ち。


   他にも防御力という意味では選手間に大きな差があったと言えますね。


   例えば試合序盤に『灯虫』が3発ヒットしている。あれは痛いですよ。


   あんなのは本来なら、絶対に食らってはいけない攻撃のはずです。


   なのに何で『飛び上がるなんて不利』をしたのか考えてみて下さい。


   『がっちり衝撃を防ぐ特別な衣装だったから』ということです。


   それと見せ場作りのためにでしょうねぇ」


「フ:ほほー。それは興味深いですね。そんな工夫がされていたんですか」


「ア:あーあ、ララトゥが勝ったら駆け寄ってキスしようと思ってたのになー」


「フ:アーシェ様。解説に対するコメントじゃないなら、黙れ」

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