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2-19.贈り物発注と職人メイド

 俺は男として格をあげなくてはならない。ひとつ上に。


 今の俺は、他人に誇れる存在ではない。『フィエの婚約者』という誇らしい称号は『色狂いの迷い人』という称号に塗り潰されつつある。


「聞いてククノーロ。ちょっと言いにくいんだけど」


【なんじゃ、友として応えれば良いのか】


「俺って今、男としての評価ってどう。かなり危機感あるんだけど。


 将来さ、みんなでお爺ちゃんお婆ちゃんになるまで幸せに暮らすために、もっと頑張らなきゃいけないから、教えて」


【んー。んー?


 んんん? すでにそんなこと考えとるのか、お主……?


 男としての格、なぁ……】


 いつも即答してくれるククノさんが悩まれておられる。なんか不安な気持ち。


「…………どうよ? 厳しい評価でも構わない。自分を改善したい。


 それとククノが欲しいものとかあったら、贈りたいから教えて。みんなにも贈り物したいんだけど、なんかいいアイディアある?」


【ほぅ、この身や他の女衆に贈り物とな。


 贈り物なんて適当でええじゃろ。『お主から渡される』のが大切なんじゃ。


 別に高いものである必要もない。相手が欲しいものが分かっているならそれを。分からなければ『お主が考えて』渡せ。『直接聞いて買い与える』ならそれは贈り物として意味合いが違うじゃろ。


 この身が欲しいのは『お主がこの身をひたすら想って用意したもの』じゃ。お主が精一杯、この身を想うことが何よりもの贈り物じゃ。


 そうじゃな、男としての格もそれで量るとしようかの】


「……くそぅ。それ真面目にやるとキリが無いくらい悩むことになるんだぞ。


 わかった。全力でククノを想って、だな。贈ったものに文句付けんなよな」


【この身が欲しいものは分かっておろうに。


 ほーれ、手の届く範囲にあるんじゃがのう】


「……すまぬ友よ。これはマジで待って。


 俺、ちょっと余裕ないんです。その点は甘やかしてください、ごめんなざい」


【待っておる。


 あまり待たせると、良くないことにするぞ】


 『良くないことになる』ではなく『良くないことにする』か。こわいなーこわいなー。




 俺は、職人さんに相談に訪れた。


 数々の要望に応えて来た職人さん。であれば俺より上級者であろう。仁和寺の法師の例もある。『少しのことにも先達はあらまほしきことなり』


「俺を日々支えてくれる相手に、贈り物がしたいんです」


「へェ。いいじャねェか。それは衣装に優先するかい?」


「俺の欲より、恩に報いることが大切と思いました。衣装より優先です。


 加えて言うと『俺から』の贈り物です。アーシェやソーセス様の財布からは出せません。稼ぐあてはあるのですが……まだ手元にお金を持っていません。


 支払いは多少お待ちいただく……ことは可能でしょうか?」


「信用すらァ。


 自分で贈りたい、それなら支払わないなんて恥ずかしいことはできねェ。


 だろ?」


「職人さん……!」


「何が送りたいか言ッてみな」


「フィエには、俺と揃いの指輪を。婚約を示すためのものとして送りたいです。


 フィエも俺も、戦う可能性があるので丈夫なものが良いです。あまり簡単に傷付いたり欠けたりしたら縁起が悪いので。


 ララさんには、髪飾りを。今付けてる飾り櫛と一緒に付けられそうなもの。


 最近のララさん、髪型に気を使い始めたところがあるので。これを機に乙女なところを表に出していって欲しいんです。


 アーシェには、チョーカーを。首まわりの飾りはあまり付けてないんですよね。息苦しくない少しゆったりめのものがいいです。


 アーシェは髪が長いので、それが絡まったりしないように気を使いたいです。服装も基本そこまで派手ではないので、それに合わせる感じで。


 クィーセさんには、『執行者の証』を吊るすためのネックレスを。


 今は紐を使って吊るしていますが結構ヨレヨレなので、それを補佐する感じで。その紐自体大切なものかも知れないので残せるようにしたいです。


 ククノには、踊りやすい靴を用意できればと思っています。踊りたそうです。


 基本素足で踊ろうとするんですが、良い靴があればその方が快適では、と」


「……そうですか。贈り物は決まっているのですね。ご要望にお応えすることはできます、お任せ下さいませ。


 ……これらはコバタ様が心尽くしで考えたもののようです。


 アクセサリー類は外部の職人に発注することになります。ですが、デザインは一緒に考えましょう。デザインの助言はしますが、基本的にコバタ様の考えで作りましょう。


 贈るときに想いを、デザインを説明できるように。


 私、頑張りますね。……目的のはっきりしたものは、好きですから」


 職人さん……メルスクさんは、キャラ設定を忘れて返答してくれた。




 職人さんとデザインを考えながら雑談する。


「そう言えば、踊り用の靴とか作れるんです?」


「一通り修めました。変わったものであっても。


 ……そう言えばクィーセリア様には靴の補修材をお取り寄せしました。あとはメガネの補修材もですね。


 今まで我流で補修をやられていたようなので、お教えする約束をしています。手ずから直したいようですので、こちらで補修は断られました」


 顧客の情報を口滑らしてる気がするが、こちらには守秘義務はないのか?


 ……やっぱりクィーセの『先生』への想いは衰えていない。大丈夫なのかちょっと不安な気持ちになる。


 無神経になるかもを覚悟で、クィーセに『先生』とのことをもっと深く聞いていかなくてはならない。


「そういえば、これらって発注にも結構お金かかりませんか。


 ……本当にお待ちいただいて大丈夫なんでしょうか」


「何の問題もありません。お給金の使い先なんて全部『作りたいもの』なので。むしろ、機会を頂けたことが何よりの報酬なのです。


 作りたい、作りたいのですよ。作れぬことは何よりもの苦しみなのです」


 ……メカクレの髪の奥から、恐ろしいまでの目力を感じる。なんというか、ジエルテ神とはちょっと違う形での圧というか、執念を感じる。


「……お聞きしていいか分からないので、無返答でもいいのですが。


 そこまで作りたい理由は何ですか? 興味があります。


 あ、それと一つデザイン見て貰えますか?」


「お、ナイスデザイン。ですが、少し直しを入れますね。


 ……そうですね。作る理由はそうせざるを得なかったからです。


 私は生まれた時から小さく、体格が大きくなりませんでした。


 私の家系は表なり裏なり、戦士を生業とする家系です。戦士として体格に優れないというのは不利です。格下になりがちです。


 小さくとも戦える、でもやはり。……んー。体格がいい方が強いです。


 私のために親兄弟、一族、果てはその知り合いまで協力してくれました。ですが、そうまでして頂いた上での強さが……使いどころの難しいもの。私にかけた労力で、何人も強い戦士が育てられるのです。


 気にかけられたのは感謝の極みです。ですが、私は返したかった。……恩が重くて、この身体、この小さき心では支えきれません。


 ですので裏方への転身を申し出ました。その後も修練自体は続けているのですが、かけて頂いた労力の大半を無駄にしてしまいました。


 ですが、今までより恩を返せている気がして、楽になりました。私の作ったものが、仲間の命を救ったり、仕事を潤滑にするのです。


 『目的に沿ったモノを作る』というのは、いくらでも頑張れます。向上に際限がないのです。いくらでも恩を返した気になれます。


 ……ですが、そんな私の熱中は弊害もありました。頑張ったことが、必ず良い結果をもたらすわけでもないのです。


 ……あ、デザイン直し終わりました。どーです? 良さ気では?」


「いいですねぇ!」


 ……職人さんも色々抱えているんだなぁ。なんかデザイン直しながら半分無意識で話していた感じだ。聞いちゃいけない話とか口滑らしてないよなぁ。


「ではこちらは一度決定。


 次のデザインは、ふむ。ふむむ。少し強度的にアレですかね。


 皆さん戦われるわけでしょう? うーん」


「いえ、戦いの場で付けていて貰いたいわけでもなくてですね。


 ああ、それと金属に……過敏な反応とか起こる危険性とかは?」


「それは、最初の採寸時に色々お聞きしていますね。問題ないように配慮させて頂いております、ご安心を。


 ……あと、コバタ様から贈られたなら、皆さんいつでも付けたがりますよ。丈夫にしておくに越したことはないです。直してばかりだと気分が下がりますから。


 あー、踊り用の靴だけはいつでも身に付けるとはいきませんね。収納して可愛く身に付けられるよう、何か考えておいた方がいいかも」


 ……相手はプロだ。俺の想定を超えてくる。俺の微妙なアイディアが磨かれて良いものへと変貌していく。


 まぁ、元のアイディアは俺だし。相手に喜んでもらうの優先だし、いいか。

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