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2-17.破綻の危機とドジメイド、そして協力

 通過儀礼という名の乱交の翌日。


 俺はメイドのメルスクさんに、お香についてと彼女の隠密技能について聞きに行った。昨日アーシェがお香を使ってしまったし、もしかしたら隠密技能で昨夜の様子を見られてはいないか気になったのだ。


 メルスクさんは成人女性である。ただし背がちっこい。フィエより低く、ククノと大差ない。その体型に極端な凹凸はなく、なだらかだ。そして丸メガネの奥にあるのは童顔である。……合法のひよこだ。


 可憐なか細い声で、彼女は語った。


「はい。正直に申し上げます。


 あのお香に関しましては元は旦那様と奥様がご利用されたものの一部です。


 コバタ様がご必要とされるかと思い、僭越ながらご用意させて頂きました。


 昨夜の御様子に関しましては把握しております。詳細にではございません。


 最初に察知しましたのは奥様がなにやら気付かれ、起き出されてからです。


 音はありませんでした。理由を考え、匂いに集中して変化を探ると香りが」


 なるほど、奥様のお世話役として夜勤待機していたら、奥様がお香の匂いに気付かれたと。しかしなぜあれを俺に渡した? そもそも忍び入る必要は?


「ご用意……それはどうも。


 それにしても、深夜に何故置いて行ったのです? 


 加えて、雇い主の所有物を勝手に使用してしまって大丈夫なんですか?」


「それぞれお答えいたします。


 まず一点。深夜にお伺いしたのは、私の不手際でございます。


 謹んでお詫び申し上げます。歓迎会場の準備に追われ、失念しておりました。


 次の一点。あの香は私の裁量の範囲で扱って良い備品でした。


 コバタ様の御噂を聞き、快適にお過ごしになるためには必要と判断しました」


 俺の噂か。俺の悪名はどう考えても広まっているように思う。『色狂いの迷い人』と、帝都までの船の船長にも言われたっけ。


「快適に過ごすため……それはどうも。


 えーと、説明なしだったので少し怖かったのですが」


 そこでメルスクさんはポッと白い頬を赤らめた。金縁で細い鎖付きのメガネを指で治しながら、赤らめた頬を誤魔化す。


「私も女性ですので、殿方にあまりそのような説明をするのが恥ずかしく……。


 ……いえ、使用人にあるまじき態度でした。重ね重ねお詫びさせて頂きます。


 どのようなお叱りも受ける覚悟はできております」


 やや頬に赤みを残しながら、凛とした顔でこちらを見つめてくる。


 ……いかんなー。いかんわこれ。メイドさんとかいう属性が長きに渡って強い理由がよく分かってしまう。俺メイドフェチでもないのに、メイドの良さが分かってしまった気がする。


「そして、奥様はお部屋の御様子の確認に。


 私は付き従って、コバタ様寝室の階下のお部屋まで参りました」


「……え、奥様ただ気付いただけでまた寝たんじゃないの? 様子を確認にってどういうこと?」


「実はあのお部屋は、元は奥様の寝室でして。一部仕掛けがございます。


 今、奥様が使っておられるお部屋は、遠方にご出仕された末のお子様の寝室なのです。一人この館にいる寂しさを紛らわせようとのお考えでしょう」


 奥様は寂しがりだなぁ……いや、そんなことより今、問題発言あったぞ。


「ちょちょちょ、ちょっと待って?


 なにそれ、仕掛けって」


「……それはご夫妻の秘密に当たるものですし、軽々に詳細は言えません」


「ならそもそも『仕掛け』とか言っちゃダメでは?」


「……説明に必要でした」


 ドジっ子属性とか追加してきやがったな。小柄な童顔メガネでドジっ子メイドとか、すでに商標登録されてないか。


 しかし、ここは異世界。単身でここまで属性を積み上げたのか、この娘は……いや、そんなノンキなことを考えている場合ではない。


「……その点は深く追求しませんので、教えてください。


 昨晩、俺がお借りしている寝室内の様子は、見られたんですか?」


 もし見られていたらマズイ。あの時俺は、女性側の人数の多さに対処するため『弓張月』で自分の分身を出していた。


「奥様は短時間ながら見られたと思います。動揺されておりました。


 私は階下にて待機しておりましたが、上階の気配を感じ取りました。


 ……男性が一人多かったように感じました。コバタ様が二人いるような……?


 あちらの部屋のお隣は、ハーレンケンセお嬢様の寝室です。


 防音はされておりますが、もしも壁に耳を当てられていれば聞こえたかと」


 …………歴史上、しょーもないことで事態が動くことはある。


 ただのジョークかもしれないが、イタリア軍が砂漠でパスタを茹でたりとか、ベルリンの壁が崩壊した原因とか、コソボの瓶ビールとかくらいは知っている。


 俺は外部に秘密にしていた指輪の能力を『乱交を制する』という理由で使い、最大で3人にバレたかもしれない。


 ハッキリと見た可能性があるのは奥様のみ。他の2人はどうにか誤魔化すしかない。……でも、奥様を口止めするにはどうすればいいんだ。


「コバタ様、私の言葉に問題があったようにお見受けします。


 何か対処は必要でしょうか。お申し付けくださいませ。


 私は使用人です。お客様の情報は胸に秘めて決して外には漏らしません」


 うっかりしてるドジメイドに言われても安心出来ないんだが……少なくともピンポイントに情報を探られない限りは、彼女の口から零れる情報はないだろう。


「奥様は、メルスクさんに何か告げられましたか?


 こちらとて与えられた部屋を覗かれたのです。何を見られたかを知る権利があります。話してくだ……いや、話しなさい」


 俺は普段、横柄な態度や命令口調はあまりしない。でも、今この時は情報を得なければならない。強気に出てでも情報を得たい。


「はい。ご命令のままに。


 まず、私に向けての言葉は何もありません。ですが、奥様は動揺されると独り言をされます。それを私は聞き憶えております。


 僭越ながら、私の推察を申し上げます。ベッド上の様子を見られたようですが、単に性行為を見たという以外の動揺はありませんでした。


 理由として考えられますのが、あの部屋の『覗き穴』は視野が広くありません。加えて多数の明かりを灯されていない限り、薄暗い室内はよく見えないのです。


 先ほども申し上げました通り、奥様が見ていたのは短時間です。観察を目的とするものではなく『どうしても気になって、少しだけ覗いた』に過ぎません。


 奥様は『献身』の訓練は受けておられません。普通に嫁入りされています。奥方として優秀な方ではありますが、特殊な状況下での観察能力は高くありません。


 以上となります……ご希望に添えましたでしょうか」


 ……彼女はドジな一面も持つが、報告の内容は俺の懸念を見事にカバーするものだった。俺が知りたいであろう情報をすべて話した。


 大貴族に仕えるメイドとしての一面を見た。俺はこういう『仕事はちゃんとできる人』を見るとリスペクトというか畏敬の念を抱いてしまう。


「……ご報告、ありがとう御座います。安心しました。


 ご長女のハーレンケンセ様についてもお伺いしたいです。


 メルスク様の見立ては?」


 俺は自然とへりくだってしまった。


「そんな、私に『様』なんて……。


 からかいはおやめ下さいませ。久しくそうは呼ばれていませんので。


 ……あ、ご質問にお答えします。


 特段、気付かれていないように感じました。性行為があったという事以外は」


 あの母娘にはエッチ方面は気付かれたが、指輪の能力はバレていないようだ。しかしメルスクさんは『俺が二人いる気配』を感じ取っている。何者だ。


「そうですか、お二人とも大丈夫、と。


 それでメルスクさん。……あなたはただの使用人というわけではなく、ご貴族の子女とか?」


 聞いたことがある。家事や礼儀の習得のため、貴族子女が他の大貴族の下に奉公に出されるというようなことを。


「貴族とは違いますね。戦衆といいますか、職業軍人の家に生まれております。


 『様』などと付けられていたのは、飽くまで一族内に限りまして……」


 ……属性多過ぎだろ。武装メイドの可能性出て来たぞ。主人を影ながら守る系の子だわ。……しかし、口を滑らすドジっ子だ。ストレートに聞いてみるか。


「メルスクさんは武器はどのようなものを扱えるんです」


「残念ながらさほどのことは。この体格ですし大剣などは担げません。


 毒と暗器、魔法をいくつかと、長筒の銃くらいしか扱えません」


 ……剣と魔法だけの世界ではなかった。銃まであるのか。


「…………銃。銃があるのですか。どのようなもので?」


「長距離を打ち抜く、特注の渦巻銃を使用しております。


 ほぼ訓練のみで、実戦は数えるほどですが」


 ……渦巻銃。つまりはライフルということか。滑腔砲のマスケットとかではなくライフル兵。ライフリングが研究終わっているのか。


「渦巻銃は量産されているの?」


「いいえ。試作までですね。それを頂きました。


 ウイアーンは魔法発祥の地です。魔法の方が一般的ですので、限られた用途にしか使えないものにあまり研究費も出せませんから」


 限られた用途……魔法が使えない人にも扱える遠距離武器って言うだけで、量産できれば凄く有用じゃないか? こちらの世界ではその点がまだ気付かれていないのか。……変に時代の流れを作る気はない。黙っておこう。


 しかし、今までこちらで銃の話なんて聞かなかった。もしかして……。


「……渦巻銃に限らず銃ってさ。もしかして技術が秘匿されてるとかはないの?」


「…………あっ」


 俺は本来そんな秘密は知るつもりはなかったんだ。このメイドが情報ガバガバだから、ちくしょう!


 クソ、いらん機密を知ってしまった。……災い転じて福となしてみるか。


「……ねぇ、メルスクさん。


 私はあなたの雇い主を裏切れとは言いません。それは絶対しません。


 ですが、その秘密を守る代わりに、こちらに更なる『配慮』を願いたいのです。


 よろしいですか?」


 俺はちょっと卑劣な男として振舞うことを決めた。


 このメイドさんが余りにもガードが緩いので、ちょっとイジワルしてみたくなってしまった。本気で相手を虐げるつもりなんてない。おふざけの範囲だ。


「……ひ、卑怯な……!


 ……いえ、それは戦士の誉れでした。御見事です。


 コバタ様、私はどのように『配慮』させて頂ければよろしいでしょうか?」


 ……クッソちょろいな。暗器で攻撃されまいかと警戒していたのだが。


「……今度、メイド用の服を下ろしている仕立て屋さんとか紹介してください。


 それと、奥様、長女様と、俺との距離を開けるようにご協力願います」


「……はい、畏まりました。仕立てには……話を通します。


 ……それで『距離を開ける』とは?」


 小首を傾げられる。意外な提案であったとか、逆のことを言われると思ったといった表情だ。俺の風評的には仕方ないが。


「ええと、俺は基本的にですね。


 婚約者であるフィエ一筋……のつもりなんですよ。


 ですがその……わけあってアーシェやその……他の女性とも関係を持ちまして。


 これ以上どうこうする気はないと言いますか……」


 俺は後ろめたいので、どもりながら説明する他なかった。


「……わかりました。ご協力いたします」


 ふぅ、メルスクさんには何とか分かって貰えたようだ。これで大きな問題もなく帝都でクーデター対策に専念できそうだ。

【ブックマーク・評価・感想など頂けると助かります】

反応を頂くのは簡単なことではないと分かっているのですが

読んで頂けているのかちょっと不安です。

よろしくお願いします。

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