表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/154

2-16.フラグ即回収

 街を散策し、フィエとエロ劇を見た翌日。


 俺はララさんと一緒に、長女ハーレンケンセ様との模擬戦を行なうこととなった。長女様は脳筋タイプっぽいお人で、奥様が『やんちゃ』と表現したのはまさにそれだった。


「ライラトゥリア殿! このような試みを受けて頂き感謝する!


 最近試合う者がなくて退屈しておってな!


 嫁入り前の娘を傷付けるのは恐ろしいなどと抜かしおる。情けないものよ!」


 そう言ってやや長めの両刃剣を担ぐ。俺よりやや高い身長。武骨な鎧姿に、明らかに筋肉が浮き出た四肢。豪放な笑顔。橙に輝く髪を編んで後ろに垂らしている。そんな人に、アーシェ一族の女性に共通する整った顔立ちとデカい胸が付いている。


 基本的にここらの人は日焼けがそこまで目立たないのだが、彼女は外を駆けまわる時間がとても長いのか、くっきりとした日焼け跡が見える。


 ウチには褐色属性が二人いるが、日焼け跡属性はいなかったな。


「おー、そうだな。ハーレン。


 今日私たちに勝ったら、年下だけど呼び方一文字縮めていいぞ。


 負けたら、お前はタルで酒持って遊びに来い、いいな」


 ララさんは身分の差を気にすることなく、相手へフリーダムな声掛けをする。無礼とかそういう概念がないんだろうか。


「おお、それは有り難い! どちらであっても嬉しい提案だ!


 それでは内容を確認する!


 では、この度の戦いは2対2。旗取戦とする!


 ここは郊外の特区、加えて試合場であるから魔法の使用は自由だ!


 手加減無用、と言いたいところだが、さすがにトドメは避けられよ!


 当たり所が悪かったら、運が悪かった!


 きっと戦神がよそ見をしてしまったのだ、ツイてないと諦めようぞ!」


 旗取戦はそれぞれ戦旗を陣に立て、それを奪うことを目的とする。相手を倒すことが目的ではない。もちろん防衛と攻勢のために戦闘は発生する。


 試合場とは言うが、広い。森や平原を含み、二つの小さめな砦が隣接している。簡易的な砦でしかないが、それでも砦だ。そこそこの大きさがある。わざわざこの形式の試合のために作ったのなら大したものだ。


 ハーレン様の組む相手はアーシェだ。ちゃんと武装していて怖い。やっぱあれ戦士か暗殺者にしか見えん。見た目が聖職者じゃないよ。


「なお、私はケガした者がありましたらすぐにその対応を始めます。コバタも同じくお願いします。これは戦時でも紳士協定を大事にすべきという私個人の強い主張からです。主義ですから取り下げる気はありません。


 加えて『光の大爪』は使いません。魔法戦を含む以上、その無効化と無効化への対策も重要ではありますが、今回はハッキリ実力差があるのでハンデです」


 アーシェが言っていることは『コバタはまだ弱いから』と言っているのと大差ない。……アイツめ、ベッド上では俺の押し倒しにコテンと転げるくらい非力さアピールしていた癖に。


「コバタくん。キミは攻勢で。私は陣を守る遊びがしたい。


 相手と正面から戦うか搦め手を使うかは任せる。見返してやれ」


「……ウス。


 なんか、アーシェに滅茶苦茶ハンデかけられたんですけど」


「まー、あっちも強いし。楽しく遊べる程度に絞ったんじゃない?


 忘れるなコバタくん。キミはちゃんと強い、強くなってる。


 …………ハーレンにいい所見せれば相手が増えるかも知れん」


「……あのですねぇ。…………まぁ普段の俺が悪いですね」




 まず、この戦いにおいて初期の位置はある程度自由だ。しかし全く位置を隠せるわけでもない。『ある程度索敵されている』という体にして、相手に位置情報を渡す必要がある。それが笛の音だ。位置についたら鳴らす。


 3つの笛が聞こえたら、それを確認したハーレンが位置についてラッパを鳴らす。それで戦闘開始だ。俺はさっそく行動を開始する。


 まずは『魔法の霧』を使用する。この魔法は視界を悪くするのと、魔法を『相殺』するのに使える。開幕使用して霧が残るうちに砦へと『早駆け』して近付く。


 砦内部に入り、周囲を警戒しつつ戦旗が立てられた階上まで向かう。


 遠くからズガンズガンと戦闘音が聞こえた。


 ……そこで、試合終了のラッパが鳴った。ひゃい、早いよぅ。ララさん……。




 敗因は作戦負けだった。ハーレンとアーシェは防衛放棄してララさんを2対1で攻めた。さすがに防ぎきれなかったらしい。


「ライラトゥリ殿!


 良い抵抗だった! 逆境によく耐えよく頑張った! 感動した!」


 ララさんは名前を一文字取られた。いかん、贅沢な名前は削られる運命にある。このままではララさんの呼ばれ方が『ラ殿』とか『ななし殿』になる。


「コバタくん、作戦負けは悲しいが仕方ない。


 ゲームとして遊んできやがった。陣放棄とか邪道だよ邪道。……クソッ!」


「ララさん。


 俺、次は戦旗に直行せずに、攻めてきた相手を叩く形に変えます」


「読まれているだろうが、それもまた良い。


 キミのやりたいようにやってみな」




 次戦、俺は自身が出した霧の中でアーシェに襲われ失神した。ライラトゥ。


 第3戦、砦の間で二人組のデカ乳戦士に襲われて敗北。ララトゥ。


 第4戦、こちらもタッグで相手に陣地に挑むが、アーシェが全力防衛、耐えられている内にラッパが鳴る。ララト。


 そして第5戦。俺とララさんは負け続けるスポーツチームのような、ネガティブな雰囲気に包まれていた。しかし、俺はこう提案した。


「ララさんはアーシェを潰しに。俺はハーレンを潰しにかかるように。


 対象を決めての完全防衛で行きましょう」


「負けが込むと、守りの姿勢になるよね。うん。……うぅぅぅぅ。


 コバタくん。今夜、キミと一緒にいたい。慰めてくれるか」


「分かりました。今夜は負け犬同士で一緒にいましょう。


 傷の舐め合いを誰が咎められるって言うんです」


 俺とララさんは深く約束した。……結果としてこの約束は果されなかったが。




 砦の正面と搦め手、両方から相手は攻めてきた。


 俺は気配が大きいハーレン側に向かう。正面の森と平野の境目あたり。


 ララさんから貰った情報。一対一なら勝てるはず。ハーレンは訓練とこういった遊びをする機会は多い。しかし実戦経験は俺と大差ない。


 お互いに気配を察知して、戦闘態勢に移る。目視、相手は魔法を警戒しつつ突撃してくる。俺は『風の拳』をぶつけにかかりハーレンは優れた反応速度で躱す。


 ハーレンが『炎の扇』を繰り出す。広範囲の炎が目の前に広がって押し寄せてくる。俺は『魔法の霧』を使い、相殺しながら炎に突っ込んだ。


 自らの魔法で視界をふさがれたハーレンは、炎から飛び出した俺の姿を捉えるとニヤリと笑った。一合、二合、三合と、剣と槍での応酬。


 ……ハーレンは途中で欲を出した。武器破壊を試みる気配。


 武器に釣られて剣を振ったところで間合いを詰めて体当たりをした。……俺も成長したもんだ。相手は見事に吹っ飛んだ。


 ハーレンが受け身を取ったところにすぐさま距離を詰めて制圧する。


「見事だ! 我は死亡扱いで良い!


 ……ふふ。良き強敵を得た!」


 ハーレン様は満足げだ。ラッパが鳴る。アーシェvsララさんは、ララさんが勝ったようだ。


「ハーレン様、お怪我がありましたら『癒しの帯』を使います。


 どこか痛い所は?」


「背中ちょっと打った。痛いから直して貰える?」


 ……なんかさっきまでのデカ声じゃない声だ。トラックのバック誘導みたいに声張ってたのに。…………よーし、治したら距離を取ろう。




 俺たちは砦内の丸テーブルを囲み、今日の模擬戦について話していた。


 ララさんは先ほどと打って変わって上機嫌だった。


「いやー。やはりというか何というか、当たり方が悪かっただけだったんだな。ちゃんと戦えば私達は勝てるよなぁ。そだよな、アーシェ?」


 ニヤ付きながらアーシェに話を振る。アーシェはちょっとむくれ顔だ。


「……ララトゥ、ハンデ貰ってたくせに威張り過ぎじゃない?」


「いやー、そろそろいい時間だな。勝ち逃げしちゃってごめんなー。


 コバタくん、今日は私たち二人の勝利だな」


 ララさんがあまりにも止まらないので、さすがにみっともなく思ってしまい、俺は口を挟んだ。残酷な事実を告げねば。


「……いや、1勝4敗ですよ?」


 すると、俺たちの様子を微笑み見つめていたハーレン様が口を開く。


「……それでも我は、コバタ殿には完全に負けたな。


 一対一となってよく分かった。貴君は強い。我はアーシェルに頼り過ぎていた」


 少ししおらしい感じのハーレン様の様子に、アーシェとララさんが反応する。


「ハレン? ……覚悟もなしにそんなこというと後悔しますよ?」


「ハーレン。コバタくんはフィエから離れられないタイプなので、頻繁にこうして遊ぶのは無理だから。そこはしっかり覚えておこうな」


 俺は、ちゃんとハーレン様から距離はとるようにしている。今だってララさんとアーシェを挟んで一番遠い位置にいるようにしている。


 しかし、それゆえに正面に位置するハーレン様は興味深げにこちらを見られておられる。


「しかし皆、汗と泥に塗れてしまったな!


 戦とはこういうものとはいえ、このまま帰るとお母様にお叱りを受ける!


 どうだ、近くの川で水浴びでもしていこうか!」


 ……これはどっちだ? 真実か口実か? どっちなんだろう。まぁ俺は離れた場所で水浴びをしたから問題はなかった。




 帰還した俺たちは各自風呂に入って体を温め、夕食を皆で食べた。ララさんとハーレンが酒宴も開いたのでやや長くはなったが。まぁ、良い感じの雰囲気で夕食は終わった。


 食後はやや語らったものの早々に切り上げた。今日の報告会がある。


 フィエとククノを連れて、クィーセは周辺調査を行なったようだ。クィーセは外見的に少し目立つ部分があるので、それを緩和するために女三人連れで観光に見せかけて調査を行なったらしい。


 ちなみに調査中、クィーセの生足は封印される。……まぁ、少し寒くなってきたしさすがに目立ち過ぎるよね。


【調査はぼちぼちじゃった。つまり大きな進展はなかったのぅ。


 しかしフィエは良いカムフラージュ要員じゃな。


 任務であることをよく心得ているはずじゃが、それでも楽し気に観光しておる。


 一緒にいると密偵には絶対に見えん】


 割とそういう役目って大切なのかもなぁ、と思った。


 さて、クィーセさんも落ち着いてきたことだし、通過儀礼が始まる。




(詳細は略す、コバタに与えられた寝室にて)


(なんかいろいろ)


(ハード方面に舵を切ろうとして注意されるアーシェ)


(納得いかないアーシェは『お香』を使用)


(アーシェ:フフフ、みんな堕ちればいいんだ)


(なんかいろいろ)


(コバタは事態を収拾するため、『弓張月』で自分の分身を出す)


(なんかいろいろ)


(そんな様子を、アルメピテ奥様は隠し部屋の覗き穴から見ていたのだ


 そして長女ハーレンは隣室・残してあった自身の部屋で聞き耳していたのだ


 加えてメイド・メルスクは階下から気配を察していたのだった)


(以上)

【ブックマーク・評価・感想など頂けると助かります】

反応を頂くのは簡単なことではないと分かっているのですが

読んで頂けているのかちょっと不安です。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ